なぜお客さまは自社の商品を買うのか?
[要旨]
経営コンサルタントの田尻望さんによれば、「価値」とは「顧客が感じるもの」なのですが、売り手が感じる価値のある商品は売れると考え、それを製造・販売して失敗してしまう会社は少なくないそうです。そこで、「価値」とは何かを理解したり、「なぜ顧客は自社の商品を買うのか」を探究したりすることが大切ということです。
[本文]
経営コンサルタントの田尻望さんのご著書、「付加価値のつくりかた-キーエンス出身の著者が仕事の悩みをすべて解決する『付加価値のノウハウ』を体系化」を拝読しました。田尻さんはご著書の中で、価値の概念を理解していない会社は赤字になってしまうと述べておられます。「『価値とは何か?』が理解されていない状態で作られている商品・サービス(または、行われている仕事)がたくさんあります。
『価値とは何か?』を理解せずに、ムダなことに開発費や人件費、マーケティング費をかけている、『赤字確定(少なくとも大幅減益)』になってしまうでしょう。『ムダなものにお金をかけるような例はあまりないのでは』と思うかもしれませんが、実は、あなたの身の回りにたくさんあります。かつて、ある大手家電メーカーが、『洗浄力、ナンバー1』と謳った洗濯機を開発しました。そのメーカーは、特徴の第一ポイントとして『洗浄力』を挙げ、商品ホームページの大部分を使って洗浄力に関する情報を載せ、大々的に広告したのです。ここで質問なのですが、あなたは、最近、『洗濯機の洗浄力』に不満を感じたことがありますか?(中略)
私は、『ノー』です。妻にきいてみても、答えは『ノー』でした。(中略)現代の洗濯機に求められるのは、洗浄力よりも、『洗濯・乾燥の容量』、『乾燥機能』、『運転音が静か』、『節水・節電の機能』、『部屋やライフスタイルに合わせたデザイン』などです。一定の性能レベルを超えれば、『洗濯機の洗浄力』には価値がないのです。このメーカーは、『顧客が本当に求めている価値』を見誤って、ムダな高機能を搭載した洗濯機を開発してしまったわけです。では、なぜ、こんな高スペックの洗濯機をつくってしまったのでしょうか?
恐らく、ユーザーが本当に求めている価値や、メーカーとして提供すべき付加価値を深く考えず、『つくれたからつくった』、もしくは、『開発者のエゴ』が原因だったのではないかと思います。(中略)もし、『価値とは何か?』を経営者や開発社がわかっていれば、このような大失態は事前に防ぐことができるのです。価値を理解していないこと以外にも、陥りがちな罠があります。売り手は、『なぜ、お客様が買うのか?』ではなく、『どうすれば売れるのか?』から先に考えてしまうのです。
『どうすれば売れるのか?』は売り手が主体の発想です。だから、まず、売れるための要素、スペックを探してしまうのです。しかし、ビジネスのゴールは、お客様に買ってもらうことですから、まずは、『なぜお客様が買うのか?』という、お客様を主体にした発想からスタートすべきです。私自身、コンサルタントとして、クライアントに一番注意してきくのは、この点です。『なぜ、あなたのお客様は、御社の商品・サービスを買っているのですか?』」(27ページ)
私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、「なぜ、あなたのお客様は、御社の商品・サービスを買っているのですか?」という質問に答えることができる人は、意外と少ないということです。それは、田尻さんが述べておられるように、多くの会社では、売る側が感じる「価値」のある商品であれば、その商品は売れるとしか考えずに、商品を売っているからだと思います。
でも、それは、引用部分で述べておられるように、買う側が価値を感じなければ、買ってもらえないわけですが、このような単純なことに気づかない経営者は少なくありません。では、なぜ、そのようなことをしてしまう会社があるのかというと、私は、その原因は大きく2つあると考えています。1つは、かつては、商品は店頭に並べたり、製造すれば売れたという時代、すなわち生産志向、製品志向の時代があったからです。これを言い換えれば、売り手にイニシアティブがあったということですが、現在は、イニシアティブは買い手に移っています。
2つは、買い手の考える価値を調べたり、また、買い手の感じる価値が分かったとしても、それに応えられる商品をつくることは難易度が高いということです。これは、顧客志向、社会志向の考え方ですが、これらを実践することは一朝一夕にはできないことから、売り手の価値で商品をつくることになるのでしょう。そして、事業の目的は利益を得ることということは誰でもわかっていることなのですが、利益を得ること=顧客の感じる価値で商品をつくる(販売する)ことが難しい時代であるため、売り手の感じる価値で商品をつくる(販売する)ことを続けている会社が多く、そのような会社が赤字にになってしまうということなのだと思います。
2024/2/4 No.2608
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