なぜあなたから買わなきゃいけないの
[要旨]
ポジショニングを設定することによって、自社商品を優位に立たせることが可能になりますが、それだけでは、顧客からの「なぜあなたから買わなきゃいけないの」という疑問に答えることにはなりません。そこで、その疑問を解消するために、USPによって、自社商品の提案を行うことが重要です。そして、このUSPをつくるには、便益、独自性、魅力の3つの条件が必要です。
[本文]
今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、ポジショニングの設定は、顧客から1番(ファースト)と認識してもらえるものにすることが重要ということを説明しましたが、これに続いて、鈴木さんは、設定したポジショニングをUSPに落とし込むことが必要であるとご説明しておられます。
「こうしたファーストと認識されるような位置づけを見出しただけでは、まだ足りません。『なぜあなたから買わなきゃいけないの』という疑問に対する答え、購入すべき理由を、独自の魅力的な提案として、ずばり、ひとことで表現できなくてはならないからです。これは、情報があふれかえるなかで、多忙を極める顧客に対し、購入検討の土俵にあげてもらうために不可欠な取り組みです。(中略)(この取り組みは)広告界の巨匠と呼ばれた、ロッサー・リーブスが、1940年代から主張していた、USP(Unique Selling Proposition)です。
実は、このリーブスのUSPを踏まえ、ライズとトラウトが、前出のポジショニングを考え出しており、このふたつはセットで用いてこそ、効果をフルに発揮します。(中略)USPは、以下の3つの条件を満たすことが必要です。顧客に向かって具体的な便益(ベネフィット)を『提案』しなければならず(Proposition)、その提案は、競合他社が主張しようとしてもできない、もしくは主張していない、『独自』なものでなければならず(Unique)、その提案は、強力で多くの顧客を引き寄せられる『魅力』がなければなりません(Selling)。USPによって競合他社と差別化し、独自性を確立するのです。(中略)
実は、リーブスからさかのぼること200年前の江戸時代中期、エレキテルの実験で知られる一代の鬼才、平賀源内が、1769年にゑびすや兵助が新たに売り出した歯みがき粉『嗽石香』(そうせきこう)のチラシである引札に、『はをしろくし、口中あしき匂ひをさる』との見出しの口上(コピー)をすでに書いています。夏場の売上不振に悩んでいたうなぎ屋に相談されて、土用の丑の日にうなぎを食べると、夏負けしないという引札を書いて、江戸はおろか日本中のうなぎ屋を大繁盛させたのも、源内だとされています。平賀源内こそ、コピーライターの先駆けであり、世界に誇るべきマーケターといえるでしょう」(101ページ)
USPについては、「独自の強み」と理解している経営者やコンサルタントの方をときどき見かけますが、引用した内容からもわかる通り、USPは、強みではなく、顧客への「提案」を指すものです。もちろん、顧客へ提案を行うためには、その提案の対象となる強みが必要ですが、その強みはUSPとは言いません。また、USPには、便益、独自性、魅力の3つの条件が必要であり、ポジショニングはこれらを明確にするために行われるものです。これは、裏を返せば、ポジショニングができれば、自ずとUSPもできあがるということでもあります。
とはいえ、実際に効果的なUSPをつくることは、頭で考えるほど容易ではないとは思いますが、鈴木さんもご説明しておられる通り、「なぜあなたから買わなきゃいけないの」という理由が明確でない商品が意外と多いと、私は経験的に感じています。経営者の方は、自社商品は優れていると考えていることが多いし、また、そういう商品は、部外者であるコンサルタントの私から見てもそう思えることは、しばしばあります。でも、顧客から見たとき、優れた商品は、その会社でなくても入手できることもあるので、単に商品が優れているというだけでは、「なぜあなたから買わなきゃいけないの」という疑問への回答にはなりません。
したがって、「商品は優れているのに、なぜ売れないのか」という状態の場合は、USPをつくっていないからだと考えることができます。そこで、USPをつくれば自社商品は売れるようになるチャンスがあるということになると、私は考えています。また、USPをつくる過程で、USPの条件である、便益、独自性、魅力を見直すことになり、より競争力のある優れた商品を生み出すことにもなるのではないでしょうか?
2023/3/5 No.2272