マーケティング戦略の全体最適を目指す
[要旨]
会社では、業績を高めるために、いくつかのマーケティング戦略が実行されますが、しばしば、それらの整合性がとれないために、会社全体としてマーケティング戦略がうまく機能しないことがあります。したがって、経営者の方は、自社が実践しているマーケティング戦略同士に整合性がとれているかどうかを、適宜、確認し、全体最適が実現できるよう調整することが求められています。
[本文]
今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典先生のご著書、「図解実戦マーケティング戦略」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。ここまで、マーケティング戦略に関して、戦場、マーケティング資産(コアコンピタンス)、強み、売り文句などを説明して来ましたが、佐藤先生は、これらについて、「BASiCS」という視点で整合性を検証することが大切であると説明しておられます。
ちなみに、「BASiCS」とは、Battlefield(戦場)、Asset(マーケティング資産)、Strength(強み)、Customer(顧客ターゲット)、SellingMessage(売り文句)のそれぞれの頭文字を合わせたものです。
「今まで書いてきたBASiCSの1つひとつは、当たり前のことばかりです。しかし、この5つがすべて相互に関連しているということは、意外と忘れられがちです。『資産』と『強み』が合っていない例、『顧客』と『売り文句』が合っていない例はよくあります。逆に言えば、1つひとつの要素は真剣に考えたのに、結果が出ていない場合には、整合性が保たれていない可能性があります。
例えば、宣伝部門が『品質』を訴求している一方で、生産部門が『コスト削減』を優先して原材料の質を下げている、などという場合は、お互いが良い仕事をすればするほど、お客様には混乱したメッセージを伝え続けることになります。各部署の部分最適が、マーケティング戦略全体の最適化につながらないわけです。(中略)BASiCSの1つひとつで部分最適になっていても、全体最適が達成されなければ、力は発揮されないのです」(88ページ)
引用文の中に出て来た、「BASiCS」というツールは、佐藤先生が開発されたオリジナルのものです。そして、佐藤先生もご指摘しておられるように、「戦略が相互に関連していることは忘れられがち」ということも、私も、実際に、多くの会社で起きているということを見て来ました。そうなってしまう原因としては、(1)経営者自身が、日々の売上を増やすことにしか関心が向いていない、(2)経営者が慢心し、自社の戦略を見直す必要はないと考えている、といったことが考えられます。
ちょっと厳しく書きましたが、このことは、裏を返せば、戦略があまり奏功していない会社は、戦略の整合性を検証してみるだけでも、大きく改善する余地があると、私は考えています。ちなみに、戦略の整合性は、佐藤先生が考案されたBASiCSだけでなく、マーケティングの4P、バランススコアカードに基づく戦略マップ、制約理論(TOC)などの考え方などからも検証することができます。
マーケティングというと、派手な戦略をイメージする方も多いと思いますが、経営者の方は、それぞれのマーケティング戦略の遂行は、各部門に委ねた上で、経営者自身は、戦略間やそれらを遂行する部門間の調整を行い、全体としての整合性を高めることに専念することで、業績を高めることができるようになると、私は考えています。
2023/2/1 No.2240