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『顕在ニーズ』より『潜在ニーズ』

[要旨]

ニーズには、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があり、顕在ニーズとは、顧客が自分で明確に意識しているニーズです。一方、潜在ニーズは、普段は意識していないけれど、他人からの質問や体験をきっかけに、「実は欲しかった」などと感じるニーズです。商品を売る側は、この潜在ニーズを探ることで、競争力の高い商品を開発することが期待できます。

[本文]

今回も、経営コンサルタントの田尻望さんのご著書、「付加価値のつくりかた-キーエンス出身の著者が仕事の悩みをすべて解決する『付加価値のノウハウ』を体系化」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、田尻さんによれば、高級レストランなどで、料理の素材や調理法について、スタッフが丁寧に説明してくれることがありますが、お祝いの席などではそのようなサービスはよろこばれるものの、顧客が商談中のときに話に割って入って説明をしても、邪魔と思われてしまいまうというように、同じサービスであっても、顧客のニーズがあるかないかで、それが付加価値になったりムダになったりするということについて説明しました。

これに続いて、田尻さんは、付加価値の源泉である「ニーズ」には、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」があるということについて説明しておられます。「みなさんに知っておいてほしいのは、ニーズには、『顕在ニーズ』と『潜在ニーズ』があるということです。顕在ニーズとは、お客様が頭の中で期待していること、つまり、お客様自身が欲しているものを、自分で明確に意識しているニーズです。(中略)例えば、新しいパソコンが欲しい、牛丼が食べたい、おしゃれしたい、旅行に行きたい、などが顕在ニーズです。

一方、潜在ニーズとは、自分でははっきりと気づいていないニーズです。普段は意識していないけれど、他人からの質問や体験をきっかけに、『実は欲しかった』、『こんなことがしたかった』と感じるのが潜在ニーズです。例えば、もっと痩せてスリムになりたいという思いがあるとします。それは自分でも意識している顕在ニーズです。『ではなぜ痩せたいと思っているのか?』という点が重要です。

潜在ニーズはそこに潜んでいるからです。痩せることによって、モテるようになりたいのか、周囲から褒められたいのか、それとも健康になりたいのか、そのあたりは潜在化していることが多く、実は『痩せたい』と言っている本人さえも、なぜ自分は痩せたいのか、本当の理由に気づいていなかったりするのです。顕在ニーズよりも潜在ニーズの方が重要です。顕在ニーズはわかりやすいニーズなので、企業側もそにニーズに応える付加価値をつくって提供することは比較的容易ですが、潜在ニーズは、お客様も気づいていないので、それを叶えるためには、より深い付加価値を探り出す必要があるからです。(中略)

キーエンスでは、この『お客様も気づいていない潜在ニーズ』を、徹底的、かつ、的確に探り出し、そのニーズをもとに開発・設計した製品によって、お客様に付加価値を提供し続けているのです。さらに、『お客様のニーズ』のラインと、『より深い付加価値』の間には、『まだつくられていない付加価値(新創造価値)』と言うべき領域があります。『まだ誰も叶えたことのない価値』が生まれる可能性のある、未知の領域です。この領域を、徹底したコンサルティングセールスによって探り、新たな付加価値を備えた製品を生み出す。それがキーエンスのつくり出す、『世界初・業界初』の商品です」(64ページ)

いわゆるヒット商品というものは、顧客のニーズを満たしている商品ですが、さらに、顕在ニーズを満たしている商品より、潜在ニーズを満たしている商品の方が競争力が高いということは、多くの方がご理解されると思います。ところが、潜在ニーズを満たすヒット商品は、コロンブスのたまご的な商品なので、それを発見したり、開発したりすることは、容易ではないということも事実です。ですから、キーエンスの業績が高い理由は、この、潜在ニーズを探り出す力にあると言えるのだと思います。

こう考えると、多くの付加価値を生み出す会社というのは、潜在ニーズを探り出す能力に比例しているということでもあると思います。とはいえ、そういう商品は、決して少なくないと思います。例えば、私が思い出す例は、横浜スタジアムです。DeNAが、横浜スタジアムを本拠地とする横浜DeNAベイスターズを経営するようになるまでは、一般的に、球場に野球観戦にくる顧客のニーズは、チームが勝利することであると考えられていました。

しかし、DeNAが球団を経営するようになってからは、球場で応援を楽しんでもらうことでファン(顧客)の満足は高まると考え、球場の座席をチームカラーにする、グラウンドにせりだしたエキサイティングシートを設けるといった工夫を行ったことで、チームの成績は5~6位の状態が続いていても、ずっと赤字続きだった横浜スタジアムの収益が、単年度で黒字に転換しましたというものです。いま、なかなか商品が売れないと苦しんでいる会社は多いと思いますが、こう考えると、商品が売れないのではなく、販売する会社が売れる商品を見つけることができなくなってきたというように考えることができるのではないかと、私は考えています。

2024/2/6 No.2610

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