決算書の数字は100%真実ではない
[要旨]
企業会計原則のうちの真実性の原則は、会社の決算書に真実を反映させることを求めていますが、あまり厳格さを求めると、本来の事業活動の妨げになるため、減価償却費の計算方法は、便宜的なものとなっています。そして、真実性の原則と、会計処理の簡便さの折り合いをつけるために、会社経営者の方は、会計リテラシーを高めることが求められます。
[本文]
前回に引き続き、今回も、税理士の大久保圭太さんのPodcast番組を聴いて、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、会社が減価償却費を計上しなかった場合、決算書の利益は増加しますが、それは業績が向上したわけではなく、さらに、経営者はそれをわかっていても、表面的な利益額が増えたことで、本来、行うべき業績改善に目を向けようとしなくなりがちになるということについて説明しました。それでは、減価償却費を計上しないなど、財務諸表が会社の実態を表さないようにする行為について、もう少し詳しく見てみたいと思います。
以前も説明しましたが、会社の実態と財務諸表が乖離していることは、企業会計原則の真実性の原則(企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない)に反する状態です。ところが、この、「真実」の状態とはどういう状態を指すのかということも、明確にすることも難しいという面があります。例えば、会社は法定耐用年数で減価償却を実施していれば、真実を示しているのかというと、稲盛和夫さんが述べておられるように、セラミックの粉末を成型する機械の法定耐用年数は12年ですが、実際は6年で使えなくなるので、12年で償却することは、真実を表さないということになります。
そこで、稲盛さんは、法定耐用年数にかかわらず、実態に合わせた期間で償却を行ったと言えます。では、すべての会社が、法定耐用年数ではなく、実際の耐用年数で償却すべきなのかというと、私は、必ずしもそうではないと思います。例えば、乗合バスの法定耐用年数は5年ですが、乗合バスは、実際には、20年間利用されていることもあります。このように、法定耐用年数と実際の耐用年数が異なることもあるのですが、だからといって、個々の法定耐用年数を調べて会計処理を行おうとすると、会社の会計に関する記録の労力が増えてしまうことになり、事業活動の妨げになります。
また、そもそも、減価償却費は定率法や定額法などで計算することになっていますが、これらの方法は、会計処理を簡便にするための便宜的な計算方法であると考えられ、必ずしも実態を反映しているとは言えないでしょう。このように、会計記録は真実性も求めなければなりませんが、それと同時に、会計処理の負担軽減も求められるので、ある程度のところで落としどころをつけなければなりません。これらを踏まえると、私は、中小企業では、法定耐用年数で減価償却を実施していれば問題はないと考えています。それでは、会計記録は100%正確ではないとしても、どこからが不適切になるのでしょうか?
これについては、私は、中小企業では、まず、「中小企業の会計に関する指針」、または、「中小企業の会計に関する基本要領」に基づいた会計処理を行うとよいと思います。できれば、それらに基づいて、顧問税理士などのご支援を受けながら、自社独自の経理規定を制定することが望ましいです。そして、適宜、規定と実務に乖離がないか見直を繰り返していくことで、中小企業の経営者の方、または、経理担当者の方も、「会計リテラシー」が身につけることができるでしょう。その結果、真実性の原則の主旨に沿う会計記録ができるようになると思います。この続きは、次回、説明します。
2024/7/19 No.2774