成長を考えなければ経営はラクなんだよ
[要旨]
会社の事業がピークを過ぎ、衰退期に入ると、その事業に投入するキャッシュフロー(CF)は減少し、逆にその事業から得られるCFは多くなるので、その余剰分で融資を返済することが可能になります。しかし、事業そのものが開始してから廃止するまでを通して赤字の場合は、CFの流出超過となるので、融資を返済することができなくなります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、税理士の児玉尚彦さんのご著書、「会社のお金はどこへ消えた?-“キャッシュバランス・フロー”でお金を呼び込む59の鉄則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。児玉さんは、事業のじょうずな撤退の方法について、資金の流れの面から説明しておられます。「成長期の会社がピークを越えると、激しかったお金の流れもようやく落ち着いてきて安定期を迎えます。そういった会社を訪れると、会社全体の動きがペースダウンしているのを感じます。私も少し心配になって、売上が毎月少しずつ落ち着いてきている会社の社長に、『売上が下降気味ですが、大丈夫ですか?』とストレートに聞いてみました。
すると、社長は、まったく問題なしという顔をして、会社の現状とこれからの対応について説明してくれました。そのとき、特に印象に残っている社長の言葉が、『成長を考えなければ、経営はラクなんだよ』のひと言でした。これはどういうことかと言うと、成長し続けようとすると、毎年、新しい手を打ち続けなければなりません。(中略)人を増やし、設備や店舗を増強し続けなければなりませんので、融資も増えていきます。(中略)これに対して、この会社のように、その事業については安定期に入ったと判断し、これ以上業績を伸ばすために新しいことをすることをやめるというのも、ひとつの経営判断です。(中略)
収入減に合わせて支出を減らしていけば、赤字になることはありません。設備投資をしないので、キャッシュフローもマイナスになることはありません。余剰資金で融資を返済できるので、実際にその会社は、2年間で融資1億円を返済してしまいました。(中略)ライフサイクルの認識ができている社長は、安定期に入る前に、設備投資をストップして、それまで投資してきたお金を回収していきます。そして、衰退期に入る前に、次のビジネスをスタートさせるか、後継者に事業を継承させるか、または、事業を整理するかの判断をしています」(249ページ)
事業ごとのキャッシュフロー(CF)は、成長期では、投入する量が回収する量よりも多いので、マイナスになります。逆に、ピークを過ぎて衰退期に入ると、投入する量より回収する量が多くなるので、プラスになります。そして、その余剰のCFを、ほかの事業に投入することで、会社の事業規模は拡大していきます。(これは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の考案した、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の資源配分の仕方と同じ論理です)しかし、新たな事業を始めなければ、前述の会社のように、CFによって融資を返済し、会社の事業を縮小したり廃業したりすることができます。ところが、会社の事業をやめたくても、融資が残っていて、それを返済するために事業を続けなければならないという中小企業の方が多いのではないかと思います。
なぜ、そうなってしまうのかというと、理由は単純で、事業を始めてから衰退するまでのキャッシュフローの出入りが、回収できる量よりも流出する量の方が多い、すなわち、事業が開始されてから廃止するまでの通期で赤字であるからです。したがって、事業がピークを過ぎて衰退してからも、融資は残ってしまいます。そこで、会社を廃業することはできなくなるわけですが、だからといって、事業を続けても融資を返済できるのかというと、そのような会社はCFの流出超過の状態が続き、ますます、融資が増えて行く可能性が大きいと言えます。そして、このような会社は、いわゆるゾンビ会社か、または、その予備軍ということになります。
では、ゾンビ会社になりかけている会社はどうすればよいのかというと、なるべく傷の浅い段階で銀行に相談するしかありません。もちろん、会社が銀行から受けている融資は返済しなければならないので、会社の財産だけで返済できない場合は、経営者の財産を返済に充てなければならないこともあるでしょう。だからこそ、挽回の見込みが薄い場合は、なるべく早く、銀行に相談することが、経営者にとっても損失を小さくすることにつばがります。もちろん、そうなるもっと前から、CFの管理を行い、ゾンビ会社にならないようにしていくことの方が、もっと大切だということは、言うまでもありません。
2023/1/1 No.2209