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コミットメントラインとリスク管理

[要旨]

コロナ禍でコミットメントラインを利用する会社が増加していますが、これはリスクを回避するという観点での銀行取引の例を言えます。このように、自社の事業がうまく行かなくなったときに助けてもらえるようにしようという観点から、銀行との良好な関係を構築することが大切です。


[本文]

コロナ禍に入った昨年から、コミットメントラインの利用が伸びているということについては、すでに多くの方がご存知の通りです。日本経済新聞の報道によれば、「令和3年1月の利用額は、前年同月比11%増の、8兆5,669億円となり、3か月連続で過去最高を更新した」そうです。コロナ禍でコミットメントラインの利用が増加する理由は、事業の先行きが見通すことが難しい中で、当面の資金繰を維持しようとしているからでしょう。

このような背景から、昨年は、トヨタが1兆円、全日空が1.3兆円のコミットメントラインの契約を金融機関に求めたようです。ところで、私は、このような事業会社の動きから、銀行の役割の重要性が改めて認識されていると感じています。コロナ禍の前までは、クラウドファンディングや、人工知能を活用した融資が、徐々に銀行に代替していくというような報道がしばしば行われてきましたが、それらは、経済活動が正常な状態でなければ、なかなか機能しません。

コロナ禍のような状態では、「融資相手の会社を支援する」という役割を引き受けることができるのは、現時点では、銀行しかありません。銀行の役割は、一般的には、融資をすることと考えられがちであり、それは間違っていないのですが、単に融資をしてくれるというだけでなく、自社の業況が傾いたときであっても、支援をしてくれるという役割があります。とはいえ、自社の事業が順調なとき、多くの銀行が融資のセールスをしてくると、自社はいつでも融資を受けられると、経営者の方は考えてしまうかもしれません。

でも、業況がよいときに融資のセールスをしてくれた銀行のすべてが、自社の業況が悪化したとしても、必ずしも新たな融資に応じてくれるとは限りません。そこで、経営者の方は、自社がピンチになったときでも、助けてもらえる銀行を見つけておくことが大切です。しかし、自社の業況がよいときは、資金調達に苦労しないため、そのような必要性はないと考えてしまう方も多いでしょう。

ところが、業況が傾くと、銀行は従来のような対応はしなくなるため、そのときになって苦心することになります。そこで、業況が順調なときから、銀行と良好な関係を築いておくことが、リスク管理の観点から臨まれます。良くも悪くも、「銀行は晴れの日に傘を貸し、土砂降りの時に傘を取り上げる」わけですから、土砂降りになってから傘を借りようとすることはあまり賢明ではありません。晴れているうちに土砂降りになったときの準備をしておくことが大切です。

ちなみに、2020年3月期のトヨタは、自己資本比率が約70%、経常利益が約1.7兆円でした。でも、あえて、1兆円のコミットメントラインを申し込んだのは、リスク回避の観点からだと思います。そこで、現在、銀行との良好な関係を維持できていない会社経営者の方は、リスクを回避するという観点からも、銀行との取引の仕方を見直すことをお薦めします。

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