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米国では倒産の翌日に融資を打診される

[要旨]

経営コンサルタントの中村真一郎さんによれば、中小企業庁は2023年頃から経営者保証を外すことを金融機関に指導しているが、なかなかなくならないということです。ほとんどの経営者は融資を焦げ付かせようと思ってビジネスをしているわけではないものの、日本の金融機関はお金を返さない人が悪いという論理で動いているので、どうにかして回収しようとし、ひどい話と思えるものの、これが現状だということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中村さんによれば、会社が利益を計上すれば納税額が増加することもあり、それならば、思い切って事業拡大や成長に投資した方が望ましく、すなわち、利益を先行投資に回して、繰り延べして未来にお金をずらすことが賢明だということについて説明しました。

これに続いて、中村さんは、銀行はなかなか経営者保証の解除に応じないということについて述べておられます。「経営とお金について考える上で、避けて通れないのが『経営者保証』である。経営者保証とは、特に、中小・零細企業が融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となり、返済責任を負うことである。万が一、企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合、経営者個人が企業に代わって返済することを求められる。これが経営者保証の仕組みである。

中小企業庁は2023年頃から経営者保証を外すことを金融機関に指導しているが、なかなかなくならないのが現状である。経営者の立場から考えれば、ほとんどの人は『融資を焦げ付かせよう』と思ってビジネスをしているわけがない。しかし、日本の金融機関は『お金を返さない人が悪い』という論理で動いているから、どうにかして回収しようとする。その結果、経営者が追い込まれてノイローゼになってしまったり、自殺に追い込まれたりするケースが多々ある。

海外では『トライしてみて、ダメだったら仕方がない』という考え方が浸透している。アメリカでは、会社が倒産すると翌日にはその経営者のところに銀行の融資担当者がやってきて『もう一度チャレンジしませんか』と融資を持ちかけるという話を聞いたことがある。『一度失敗しているから、二度目はうまくやるだろう』という考え方なのかもしれない。少なくとも、経営者の家族にまで負担を与えるようなやり方は避けるべきではないかと私は考えるのだが、残念ながら現状はそうなっていない。

言葉を選ばずに言えば、金融機関の人たちは『優しくない』。経営者保証がある限り、その経営者が何歳であろうと、既に引退していようと、お構いなしに返済を要求する。会社を売却して既に引退しているにもかかわらず、経営者保証のついた融資は引き継いでもらえず、自分の家や資産を手放さざるを得なくなった……という話も聞いたことがある。個人的にはひどい話だと思うが、これが融資の現状だとも言える」(99ページ)

私は、部分的には、中村さんと意見が異なりますが、銀行融資に経営者保証をつけない方がよいという考え方については、中村さんと同意見です。そして、かつては「原則経営者保証つき」だった銀行の取引方針は、現在は、「原則経営者保証無し」に変わりつつあるので、しばらくすれば、中村さんの望む状態になるのではないかと思います。ただし、経営者保証をつけない融資の定着については、銀行だけ方針を変えればよいのかというと、私はそう考えていません。

なぜなら、日本の中小企業の多くは、あまり情報開示が行われていないからです。中村さんも、6か月先までの日次資金繰表の作成は必須と述べておられますが、日本の中小企業でこれを作成している会社はどれくらいあるでしょうか?私は、直接は調査したことがありませんが、月次試算表を翌月の上旬までに作成している中小企業は約10%と言われているので、日次資金繰表を作成している会社も10%か、これより少ないと思われます。

そして、中村さんは、「アメリカでは、会社が倒産すると翌日にはその経営者のところに銀行の融資担当者がやってきて『もう一度チャレンジしませんか』と融資を持ちかける」と述べておられますが、これは、その会社が倒産するまではきちんと情報開示が行われていたことが前提だと思います。情報開示が行われていたからこそ、その経営者の能力が分かるわけであり、たまたま何らかのアクシデントで倒産してしまったけれど、再挑戦すればその能力を活かせるということを見込むことができるから、再度、融資を持ちかけるのでしょう。

そして、先ほど、銀行は経営者保証をつけない融資を原則とするようになりつつあると述べましたが、それは、裏を返せば、情報開示が行われ、将来性が確かな会社に絞って融資を行うようになりつつあるということだと思います。決して、会社の情報開示が行われていなくても、経営者保証は解除してもらえるようになるということではないと思います。

2024/12/18 No.2926

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