『利益配分ルール』が信頼を高める
[要旨]
大阪市にある三和建設では、社員に対する決算後の利益配分ルールについて明文化し、一定の利益が出た場合は、全社員に決算賞与が支給されるそうです。このように、事前に利益配分ルールを定めて全社員に公表することは、社員の経営への信頼を高める方法として有効であるという経営者の考えによるものです。
[本文]
前回に引き続き、今回も、三和建設社長の森本尚孝さんのご著書、「人に困らない経営-すごい中小建設会社の理念改革-」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、三和建設では、社員が共有する経営情報として、月次で期末の売上、原価、粗利益、販管費、経常利益の着地目標と着地見通しを一覧表にして、社内の共有サーバーにアップして、全社員に共有しており、それは、一部の者だけが経営に関する重要情報を独占しているより、可能な限り社員に共有されている方が、その組織への信頼が高まるからと森本さんが考えているからということについて説明しました。
これに続いて、森本さんは、財務情報の従業員との共有だけでなく、利益配分ルールを定めることの大切さについてご説明しておられます。「『つくるひとをつくる』という経営理念を実現し、会社が永続していくためには利益が必要であり、その利益は社員全員の努力の結果でもある。そこで、社員に対する決算後の利益配分についても、コーポレートスタンダード(三和建設の、経営者から社員への約束事をまとめた小冊子)に明記して、全社員と共有している。
一定の利益が出た場合は、全社員に決算賞与が支給される。利益が少なければ支給しないこともあり、その旨も明記している。会社にもよるだろうが、不透明な利益処分は利益の株主独占という、要らぬ疑念を招く要因にもなる。事前に利益配分ルールを決めることは、ニンジンをぶら下げてモチベーションを高める手口ではないかという指摘も受けそうだが、大切なのは、社員の会社への『信頼』を得ることである。事前に利益配分ルールを定めて全社員に公表することは、社員の経営への信頼を高める方法として有効である。
一般論として、中小企業の経営者は、会社のお金を、いつ・どのように使うかについて、独自の権限を有しており、その分、会社の将来に対して、全責任を負う。それだけに、利益をどのように割り振るかについては、常に悩む。どれだけの額を、将来に備えるために、内部留保に回せばよいのか、未来への投資ともいえる社員への決算賞与とるのか、そこには正解がない。であれば、いっそのこと、悩まなくていいように、全社員に対してあらかじめ約束しておく方が分かりやすいというものだ」
いわゆるオーナー会社の場合、社長とその親族等ですべての株式をもっているか、または、少なくとも議決権の50%を超える株式を持っているので、社長が権限を持っているというよりも、強大な権限を持っている株主が社長に就いているというべきでしょう。(法人税法第2条第10項では、株主等の3人以下、並びに、これらと特殊の関係のある個人、及び、法人が、その会社の発行済株式の総数の50%を超える株式を有する株式会社を、同族会社( http://tinyurl.com/y2j2m3n4 )と定めています)
そこで、会社の利益をどう配分するのかということについては、株主として、他者からあまり介入されたくないと考えたくなることも理解できなくはありません。しかし、その一方で、会社の業績が向上したときは、従業員の努力に報いるようにしたいと考える社長も多いでしょう。そうであれば、森本さんが実践しておられるように、前もって、利益配分ルールを定めておくことの方が望ましいと、私も考えます。
利益配分ルールを定めることになると、利益はすべて従業員に配分しなければならなくなると考えてしまう経営者の方もいると思いますが、三和建設さんの利益配分ルールについて私は承知していないものの、必ずしも、すべて配分しなければならないということではないのではないでしょうか?半分程度かそれ以上は内部留保とし、半分以下であっても従業員に配分するだけでも、従業員は納得すると思います。なぜなら、利益が会社に積み上がることは、会社の財務基盤を強力にすることであり、それは会社を発展させることだからです。
少なくとも、利益のすべてが従業員に配分されないとしても、残りを経営者が独り占めするわけではないということが分かるだけでも、利益配分ルールは、従業員の方を納得させ、モラール(士気)の向上につながるでしょう。それよりも問題なのは、利益配分ルールが定められておらず、従業員の貢献に対してどれくらい報われるかが不明確な状態の方が、会社に対する疑念を抱き、モラールが下がる要因になると思います。森本さんもご指摘しておられる通り、「大切なのは、社員の会社への『信頼』を得ること」であり、透明性そのものが、従業員の士気を高め、利益を増加させる要因になると考えることが大切だと思います。
2024/1/31 No.2604