会計数字を把握しリスクを抑える
[要旨]
公認会計士の安本隆晴さんによれば、適切な経営判断を行おうとしても、詳細な財務分析をするための会計データを把握していない中小企業は少なくないそうです。しかし、詳細な会計データを把握することで、事業がうまく行かなかったときの要因を正確に把握できるようになり、その結果、事業のリスクを低減させることができるということです。
[本文]
今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、かつて、ファーストリテイリングの柳井さんは、あまり会計思考を持っていなかったものの、安本さんと会ってから、その重要性を理解し、会計に精通した方を会社のナンバー2として選任し、重用した結果、同社は発展していったということを説明しました。これに続いて、安本さんは、会計データは経営判断に活用できるよう、詳細な数値を把握できるようにしなければならないということについて述べておられます。
「ただし、会計数字の変化を調べるにしても、元になる数字をきちんと把握しておく必要がありますが、それだえもできていない会社が多いのも事実です。例えば、『従業員1人当たりの売上高はどう変わったのか?』を分析する場合でも、『従業員』が昨年1年間、何人働いていたのかが分からない。分かっているのは、正社員数だけです。ほかにパートやアルバイトがいるので、すべての労働時間を集計してから、8時間換算して人数を逆算するのですが、その元資料がないのです。
こんなときは、仕方なく推定するしかありません。経営は決してうまくいくときばかりではなく、リスク覚悟で試行錯誤をしないと継続・発展しないものです。そんなときにこそ、会計思考すれば、トライアンドエラーの結果が一目瞭然になります。会計数字で考え、実行し、事業を評価し、実行結果の数字が人を動かすのです。まずは、会計や決算書の意味から、そして、強い会社がどんな会計数字にこだわっているかを見ていくことにしましょう」(17ページ)
今回の安本さんのご指摘も、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から、うなづける面があります。会計にあまり関心のない中小企業の経営者の方は、会計に関する記録は、最低限のことしかしていません。むしろ、面倒だから、会計記録などしたくないと考えている方が多いようです。そのため、前述の、安本さんがご指導された会社のような会社が少なくないのでしょう。
では、中小企業が詳細な数値を把握できるようにするにはどうすればよいのかというと、私は、財務に強い専門家(中小企業診断士)などに、開業前にご相談することが最適だと考えています。これについては、税理士事務所の方に依頼できなくもないのですが、これまで私がお会いしてきた税理士事務所の多くは、このようなご相談に応じる余力がないことが多いようです。ただ、中には、有償であれば、体制整備のご支援に応じる税理士事務所もあるので、そのような税理事事務所があれば、ご相談するとよいでしょう。
そして、もうひとつの課題は、時間的な余裕です。これも私の経験から感じるのですが、会社を起業しようとする方たちの多くは、時間的な余裕がなく、会計記録を収集する体制の整備まで手が回らないという方が多いようです。そこで、起業をする場合は、計画的に余裕を持って起業することが大切です。あわてて起業した結果、事業があまりうまくい行かなくなってしまえば、せっかく労力をかけて起業しても、意味がなくなってしまいます。すなわち、事業を早く軌道に乗せるには、しっかりとした準備することが重要ということです。
2023/12/29 No.2571