熱狂的なコアユーザーを見つけ出す
[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、大企業が新たなプロダクトを開発するときの基本的な考え方は、多くのユーザーを獲得できるようなモノを見つけ出すことだそうですが、スタートアップは、大企業のように資金が潤沢ではないので、スタートアップに欠かせない考え方は、たった一人でも「熱狂的なコアユーザーを見つけ出すこと」であり、そのユーザーからの評価を広めてもらい、顧客を増やして行くことだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、起業家が起業する理由には、自分が開発した商品をユーザーに届けたいという強い想いがあるケースが多いですが、その結果、商品が独りよがりなものになってしまいがちですなので、販売を開始しても、顧客からの反応が芳しくないということもあることから、それを避けるためにも、試験販売を行いながら商品をブラッシュアップしていくという方法を行うことが望ましいということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、スタートアップと大企業では商品開発の方法が異なるということについて述べておられます。「大企業が新たなプロダクトを開発するときの基本的な考え方は、多くのユーザーを獲得できるようなモノを見つけ出すことです。相応のマーケットボリュームを獲得できなければ、大企業で取り組む意味はありません。最近は、だいぶ変わってきていますが、大企業で新たなプロダクトを開発するときには、市場分析がよく用いられます。
マクロ環境(PEST分析)などを踏まえて、市場を細分化し(セグメンテーション)、どの市場をターゲットにするかを決め(ターゲティング)、その市場の中でどのようにプロダクトを差別化するか考える(ポジショニング)といったようにして、ボリュームがあり、優位性のあるターゲットを見つけ出す。そして、営業や宣伝、販促などに多額の資金を投入し、ターゲット層に働きかけていきながら、多くのユーザーを獲得していくわけです。
一方、スタートアップは、大企業のように資金が潤沢ではないので、広い層に働きかけるようなことはできません。そこで、スタートアップに欠かせない考え方が、たった一人でも『熱狂的なコアユーザーを見つけ出すこと』です。熱狂するユーザーなので、文字通り、『熱狂者(クレイジーカスタマー)』と、私は呼んでいます。
創業初期の未熟なサービスにおかしいくらいに本気でトライしてくれて、『ここがすごくいい』、『ここがちょっと足りない』という、良くも悪くもリアリティのある意見をくれる。こうした『熱狂者』が数人見つかるだけで、有意義な改善ができ、本当に刺さるサービスに進化させやすくなります。さらには、サービスを使ってくれることで、その人が良い事例になり、他の人に評判を広めてくれます。薄いファンが100人いるより、熱狂的なファンが3人いた方が、サービスを使ってくれる人が確実に増えていくのです」(207ページ)
徳谷さんがご指摘しておられるように、スタートアップや中小企業は、相対的に経営資源が少ないという面で、「弱者の戦略」をとらざるを得ません。弱者の戦略とは、端的に言えば、特定のセグメントに属する顧客を標的顧客とすることであり、徳谷さんは、それをコアユーザーやクレイジーカスタマーと呼んでおられます。とはいえ、この考え方は特に目新しいものではありません。しかし、中小企業であっても、大企業と同じ土俵で戦おうとする会社は少なくないようです。
その理由として考えられることは、差別化できる商品を開発することは、比較的、難易度が高いということが考えられます。そのような会社は、大企業の商品を単に模倣したり、価格競争をしたりすることになり、安定的な事業展開が難しくなるようです。しかし、中小企業であっても、自社の内部環境を分析することで、強みを発揮することができることが多いようです。
例えば、埼玉県八潮市にある菊水堂という菓子製造会社は、かつては、生協などのPB商品を製造しており、独自性のある商品は製造していませんでした。しかし、同社には、先代社長のときから使用していた、日本に2台しか残っていない直火炊き連続チップフライヤーが、イモの香がするポテトチップスを製造できることがわかり、ポテトチップス専業メーカーに舵を切ることにしたそうです。
インターネットで受注した顧客に、製造当日に出荷する「できたてポテトチップ」が「コアユーザー」の間での評価を高め、ヒット商品とすることができたそうです。そこで、現在、大企業との競合に苦しんでいる中小企業は、菊水堂のように、もう一度、自社の内部環境を分析することで、競争力の高い商品を生み出し、コアユーザーを見つけることができるかもしれません。
2024/10/3 No.2850
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