商品と組織で事業は成り立つ
[要旨]
現在は、自らは工場をもたず、製品開発に集中して事業活動を行う製造業のファブレスが増加しつつありますが、これからは、製造業に限らず、直接部門よりも間接部門が利益を産む源泉になりつつあります。
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12月16日に、家電メーカーのバルミューダが、東証マザーズに上場ました。ちなみに、同社株式の初値は、公募・売り出し価格の1,930円よりも、1,220円高い、3,150円で、投資家の同社に対する評価の高さが分かります。ところで、日本経済新聞の報道によれば、上場した日の記者会見で、同社の創業者である寺尾玄社長は、「商品と組織で企業は成り立つ、上場による資金調達は、人材や開発などすべて投資に回し、自由な発想の開発を続けていく」と話したそうです。
寺尾社長がこのように述べた要因のひとつは、同社が、いわゆるファブレスだからと言えます。ファブレスとは、製造業であるにもかかわらず、自社では工場を持たず、新製品開発に注力する会社のことです。このような会社は、1980年ころから登場し、現在は、Apple社や任天堂も、ファブレスのカテゴリーに入っていると言われています。ちなみに、バルミューダの財務指標を見ると、2019年12月期の売上高は、約108億円、総資産は約51億円、固定資産は約6億円です。
したがって、売上高が総資産の何倍かを示す指標である総資産回転率は2.14回、同じく固定資産回転率は、17.7回ということになります。これに対して、中小企業庁が公表している令和2年中小企業実態基本調査(平成30年度決算実績)によれば、電気機械器具製造業11,293社の平均の総資産回転率は、1.1回、固定資産回転率は3.3回となっており、バルミューダの資産の少なさが分かります。
このファブレスは、時代に即した、新しい製造業の運営形態であり、これからもファブレスは増えて行くと思います。だからといって、単純に、既存の製造業は、これからは、ファブレスを目指すべきというようには、私は考えていません。ただ、同社の寺尾社長が、「商品と組織で事業は成り立つ」というように述べたことに、私は新しい時代背景を感じました。
従来の考え方では、製造業といえば、ある程度の生産設備を備えて、製品を製造することが最も大切な役割であり、利益の源泉であると考えられていたでしょう。しかし、寺尾社長は、それとは真逆の考え方を示し、これからも同社は製品開発に注力していくと表明しました。
私は、このような考え方は、製造業以外の会社にもあてはまると考えています。例えば、フランチャイズビジネスが増加していたり、卸売業によるリテールサポートが活発になってきていることも、同様の傾向といえるでしょう。これからは、利益の源泉は、直接部門ではなく、ノウハウや知的財産などの、無形のものが中心になっていくと、私は考えています。