成功は長続きしないので成長を目指す
[要旨]
元Jリーガーの嵜本晋輔さんは、洋菓子店を出店したときは、出足が好調でしたが、ライバル店も類似する商品を販売するようになり、その成功は長続きしなくなりました。そこで、嵜本さんは、成功は長続きしないということを前提に、常に成長することを目指し、そのために、仮説→実践→検証のサイクルを回すことが重要と述べておられます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、バリュエンスホールディングス社長の、嵜本晋輔さんのご著書、「戦力外Jリーガー経営で勝ちにいく-新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」を読んで、私が気づいがことについて述べたいと思います。前回は、サッカーの王様のペレは、最多ゴール数の記録を持っていますが、一流選手でもゴール決定率は23%程度であることから、ペレはゴールを決める天才というよりも、シュートを打つ天才と考えるべきであり、したがって、ビジネスにおいても、成功の数を増やすには、挑戦する数を増やすことが大切と考えるべきであるということについて説明しました。
その後、嵜本さんは、キューブ型のシュークリームなどを看板商品とする洋菓子店を出店し、当初は出足が好調でしたが、しばらくすると成長が鈍化してきたそうです。これに関し、嵜本さんは、「成功はすぐに陳腐化する」と述べておられます。「成功とされるものが成功であり続けられる時期は、そう長くはないのです。中国の老子のものといわれる、『魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ』という格言があります。もらった魚、偶然に釣り上げた魚は、それを食べてしまったら終わりです。
しかし、魚の釣り方を知っていれば、釣り続けることができます。さらに、その釣り方も、誰かに教わるよりは、自ら試行錯誤を繰り返して身につけた方が、後になってからも応用が利くはずです。もしも、海や川の環境が変わり、魚の生育状態も変化したなら、それまでと同じ釣り方では十分な釣果(ちょうか)が得られないでしょう。あるいは、魚ではなく、そこで鹿や猪を獲ることになったら、一からその方法を教わる必要が出て来ます。
しかし、そこで自分なりに釣りの仕方を身につけて成長した人は、魚が少なくなったら、少なくなったなりの釣り方を探せるでしょうし、対象が陸上の動物に変わっても、『お手上げだ』とはならないはずです。またそこで、こうしたらうまくいくのではないかと仮説を立て、それを検証するというサイクルを回しながら、新たな技量を身に付けて、さらに成長するに違いありません」(124ページ)
嵜本さんがご指摘しておられる、「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という考え方が重要ということは、多くの方がご理解しておられると思います。そして、この、「魚の釣り方を教える」ということは、教えられる側が「自立する」という意味合いがあると思いますが、これも嵜本さんがご指摘しておられる通り、経営環境への変化へに対応できる能力も高まるということでもあると思います。さらに、最近はVUCAの時代と言われていることから、環境変化への対応力がますます重要になってきていると思います。
すなわち、きのうまでの成功体験は、明日からはそのまま使えなくなる訳ですから、これも嵜本さんがご指摘しておられるように、「成功」だけを目指すのではなく、「成長」も目指さなければなりません。そして、これも嵜本さんがご指摘しておられますが、成長するためには、「仮説→実践→検証」サイクルをまわす、すなわち、PDCAサイクルをまわすことが、成功することにつながるということです。このPDCAの実践は、私は、以前から重要であるとお伝えしていますが、VUCAの時代だからこそ、より重要になっているということを、嵜本さんのご指摘を読んで改めて感じました。
2023/7/3 No.2392