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大局観を持つことが会社を発展させる

[要旨]

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、陽明学には物事を考え、正しい判断をするためには、多面的に、長期的な視点で、根本に戻って考えるという教えである「多長根」という考え方があり、これは大局観を持つということでもあるということです。そして、経営者がこの大局観を持つことは、より的確な経営判断ができるようになり、長期的な会社の発展につながるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、事業活動は組織的活動であり、うまく行くときは大きなリターンがあるものの、失敗したときは損失も大きくなるので、会社経営において舵取りは重要となりますが、一方で、こうすれば業績が絶対によくなるという方法はないので、原理原則に従うことで、失敗する確率を下げることが大切ということについて説明しました。

これに続いて、新さんは、経営者は大局観を持つことが大切ということについて述べておられます。「陽明学には、『多長根』という考え方がある。物事を考え、正しい判断をするためには、多面的に、長期的な視点で、根本に戻って考えるという教えである。多長根は大局観につながる。経営者でも大局観を持った人物は多い。明治期、今日の住友の基盤を築いた二代目総理事の伊庭貞剛もその1人だ。明治期は、多くのことを海外から学んだ。住友でも積極的に社員を海外留学に派遣した。

この社員留学生を送り出すとき、伊庭はこう言ったそうだ。『住友は、単に、住友のために諸君らを洋行させるのではない。広く世の中のためにあれかしと希望しているからである』(住友グループHPより・文字遣いは一部筆者が変更)つまり、海外で学んだことは住友のために活かすのではなく、もし、他社のほうがより国や社会の発展に貢献できると思うなら、他社へ行ってもよいと、帰国後に住友へ戻ることを求めなかったのである。

伊庭の志は、『住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ、社会を利するていの事業でなければならぬ』(同前)というものであったからだ。社員をアメリカのビジネススクールに派遣する際に、『帰国後5年間は転職はしません』という誓約書を書かせる(一部の)日本企業とは雲泥の差がある。伊庭はさらに言う。

この国家と社会を利する事業が、住友の単独資本だけでは不可能な、大きなものであれば、『住友はちっぽけな自尊心にとらわれない、いつでも進んで住友自体を放下し、日本中の大資本と合同し、敢然とこれをやり上げてみようという雄渾な大気魄を、絶えずしっかり蓄えていかなければならない』(同前)と、その見ている世界はどこまでも大きい。大局観のある企業は、大局観のある社員を育てる」(106ページ)

伊庭貞剛のような大局観を持つことは大切ということについては、多くの方がご理解されると思います。しかし、そうは言っても、私自身がそうですが、自分のことで精一杯で、とても世の中のことまで手が回らないという方も多いと思います。ただ、私は、伊庭貞剛の考え方を読んで、パナソニック創業者の松下幸之助の水道哲学を思い出しました。

同社のWebPageによれば、「創業者(松下幸之助)は、『われわれ産業人の使命は貧乏を克服し、富を増大することであり、そのためにのみ、企業は繁栄していくことを許される』と語り、当時の日本における水道の水のように、限りなく物資の価格を安くすること、すなわち、『物資の生産に次ぐ生産』によって、貧乏の克服を実現しようと訴えた」そうです。

すなわち、水道哲学とは、自社製品が、水道水のように、多くの国民が容易に入手できるようにすることによって国民を豊かにすることが、自社の使命であるという考え方だと思います。そして、このように、自社が国や社会にどのように貢献できるのかという理念がある会社は、気概を持って事業に臨むことができ、業績によい影響を与えるのだと思います。

私も、極めて微力ですが、「多くの中小企業経営者の方に、マネジメントに関する理解を深めてもらうことで、より容易に組織運営に関する課題を解決してもらえるようにすること」を願い、日々、情報発信を続けています。これも、単に、私の収入を増やすためではなく、マネジメントに深い興味を持つ経営者の方を増やすことで、私が役立てる機会も増えると考えているからです。もちろん、どんな会社も、大局観を持つことは可能だと思います。その効果が実際に現れるまでには時間がかかるかもしれませんが、大局観を持つことは直ちに実践できるはずです。

2024/10/23 No.2870

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