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低採算の注文を切り捨てて黒字回復実現

[要旨]

枚岡合金工具では、案件ごとに製造時間あたりの売上高を算出し、低収益の案件を断ることで、黒字回復を実現しました。中小企業では、このような管理会計による採算管理は、あまり、実施されていませんが、赤字になることを避けたり、銀行からの支援を受けるためにも、管理会計を実施することは重要です。

[本文]

枚岡合金工具の社長の古芝保治さんのご著書、「儲けとツキを呼ぶ『ゴミゼロ化』工場の秘密」を拝読しました。この本のテーマは、3S活動(整理・整頓・清掃)ですが、同社が取引先管理の改善によって黒字転換した事例が書かれてありましたので、ご紹介します。「(5年ぶりの)黒字回復の直接の理由は利益率の低い仕事を捨てたことでした。赤字なのに、忙しくて、生産が注文に追いつかないという状況から脱出し、利益率の高い仕事にだけ取り組めるようになりました。

ここに至るまでにも、ある人との出会いがありました。大阪に、世界一小さな歯車をつくることで有名な、滝沢歯車という会社があります。その会社の滝沢清志社長に、『儲からないのは、すべて社長の責任』と叱咤されたのです。『仕事があるのに、儲からないということは、利益率の低い注文を受けているからだ、そんな注文を許している社長のお前が悪いのだ』と。まったくその通りです、返す言葉もありません。私は、すべての注文をABCDEの5段階に分類しました。

案件ごとに、注文を受けてから納品するまでにかかった時間を確認、売上を製作時間で割って、1時間あたりの売上を出したのです。Aは1時間に1万円以上の仕事、Bは8,000円以上、Cは6,000円以上、Dは4,000以上、Eはそれ以下の仕事です。計算してみたら、なんと1時間1,000円そこそこの仕事もありました。社内会議でこの結果を発表し、DとEは断ろうと提案しました。しかし、営業担当の社員は反発しました。

彼らにしてみれば、利益率の低い仕事も、利益率の高い仕事の布石になると考えて、取ってきているのです。『会社のためにはしかたがない、必要なのだ』と抵抗しました。社長といえども、会社のためによかれと社員が思っていることを、頭ごなしに否定することはできません。私は、『わかった、では、利益率の低い仕事を受けてもいいが、それに見合う時給で働いて欲しい』といいました。しばらく沈黙の時間が流れました。そして、『それだったら、その注文はもうお断りします』と言ってくれました。社員が自分のお金として仕事をとらえ、仕事を捨てることに成功した瞬間でした。(67ページ)

私は、この事例を読んだとき、改めて管理会計の大切さを実感しました。そもそも、ほとんどの中小企業では、案件ごとの採算を把握していません。そこで、社長も従業員も、不採算の仕事を受けていることに気づかないか、または、うすうす不採算の仕事があることに気づいていても、それが表面化しないことをいいことに、問題を先送りして放置してしまいます。

その結果、決算になってから、会社の業績が低収益だったり、または、赤字になっていたりすることが、後から分かります。そうであれば、避けることができた損失を何の対策もせずにいたことになり、外部の経営環境などが原因ではなく、自ら招いた損失ということになります。そこで、毎月、業績を確認したり、案件ごとの採算は、事前に確認することは、業績を悪化させないための重要な手法です。

ちなみに、仮に低収益であったり赤字であったりしても、採算管理がしっかりしている会社は、銀行が融資審査を行うときに、融資の支援を受けやすくなります。でも、財務管理がどんぶり勘定的な会社は、収益改善の見込みが低いと判断され、融資の支援を受けにくくなります。管理会計を苦手としている経営者の方は少なくないようですが、採算管理をきちんと行うことは、事業を着実に発展させるためには欠かせない要素です。

2022/8/8 No.2063

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