路上園芸の分類:魅せるガーデンと飼うガーデン
僕は実家が日本橋の人形町にある。もう15年間以上は住んでいたけど、人形町はなんといっても路地が多い。
僕は路地を散歩し、置かれているものを観察するのが好きなんだけど、その中でも路上園芸が一番好きだ。なぜかというと生活物の中でも特に管理者の心理やこだわりが現れていることを感じるからだ。
そんな路地内のちょっとした園芸空間のことを、僕はガーデンと読んでいる。
ガーデン
ガーデンは一般的に庭先で行われる園芸のことを言うけれども、下町に庭を持ってる人なんてほとんどいない。だから家の前の空間で鉢植えの集合体としてガーデンが形成される。
ガーデンを支える管理者
ガーデンを支えているのは、その管理者だ。枯れないように毎日水をやり、見た目が綺麗に保たれるように雑草を抜き、天敵のナメクジが寄ってこないように目を見張る。
路地を散歩していると、たまにガーデンの管理者たちに出くわす。フラッと話しかけ、彼女たちにガーデンについて話を聞いてみると、背景には様々な心理が働いていることがわかった。ガーデンにはそれぞれのストーリーがあるのだ。
植物を保護するために
このガーデンには観葉植物が多いが、それはもともと誰かが所有していた捨てられた観葉植物を管理者であるKさんが公園などで拾って保護している。捨て猫ならぬ捨て植物を大切に育て、中には4m以上の高さまで成長しているものもある。
道行く人に見てもらうために
人形町にもう60年以上住んでいるOさんは一つ一つの植物に対してただならぬこだわりを持っている。Oさんはお花が好きすぎて近所のお花屋さん、百貨店、ホームセンターのいずれかに毎日足を運び、自分好みの鉢植えを選定している。少しでも気に食わなければ買わず、その究極のお気に入りの一つを見つけるために時間をかけることを厭わない。
このようにOさんは植物への愛情は大前提としてありつつ、同時に「通りすがりの人が褒めてくれることがなによりも嬉しい。そのために頑張ってる」とおっしゃっていた。褒めてくれるのは近所の知り合いの場合もあれば、全く知らない人の場合もあるという。Oさんにとって自分が愛情をもって立派に育てた植物を道行く人にみてもらうことがガーデンを管理するうえで強いモチベーションになっていた。
人形町でガーデンを見つける
こうしてガーデンを見続けていると時折、ただ鉢植えが並べられているわけではなくて、ガーデンの管理者の想いが強く伝わる空間に出くわすことがある。花の選び方や鉢植えの置き場所、高さのバランスなどが周りの、普通なガーデンとはひと味違う。
上記でも少し取り上げたが、地元の人形町のガーデンには2つの傾向があることがわかった。それは道行く人に自分の園芸活動を見てもらうために美しくデザインされた「魅せるガーデン」と、一見無造作に見えるものの生き物を飼うように愛をもって植物が育てられている「飼うガーデン」だ。
魅せるガーデン
鮮やかな色で彩られ、植木鉢の配置にこだわりを感じる。日々の手入れを欠かさず美しい空間を作り上げているような園芸空間を私は「魅せるガーデン」と呼んでいる。
鉢植えの仮設性
魅せるガーデンでは、植木鉢の仮設性が顕著に現れる(地面に植えられておらず、独立しているので仮設性があると思っている)。美しい見た目を保つために植物の中でも特に花が重視され、花期に合わせて2,3ヶ月おきに旬を過ぎた花が植え替えられるか、鉢ごと捨てられてしまい、植物の新陳代謝がある。
高さのグラデーション
魅せるガーデンでは鉢植えの配置も工夫される。前から後ろにいくにつれて鉢植えが置かれる位置が高くされ、全ての植物が隠れずにバランス良く見えるようにしてある。
街の花屋の魅せ方
町一番の魅せるガーデンは花屋だ。花屋に置かれた植物はどれも綺麗で立派。どれも当然商品として並んでいるため、品質を保つために気温や室温は一定に保つことで管理も徹底されている。
また花屋の鉢植えはとくに仮設性が高く、売り出したい植物は前面に押し出され、それが売り出される度に後ろの植物が前に動かされるような流動性をがあり、全ての植物をバランス良くみせる高さのグラデーションも配慮されていて、レベルの高い魅せるガーデンになっている。
飼うガーデン
一見無造作に見えるのだけど、よく観察すると植物を育てるための工夫が散りばめられている。私はそんな生き物を飼うように植物を育てる園芸空間のことを飼うガーデンと呼んでいる。ここでは魅せるガーデンとは違って見た目は優先されずに植物を生かし、育てることが何よりも大切にされる。
鉢の多様性
飼うガーデンの鉢植えは多様だ。ペットボトルや発泡スチロールが一時的に鉢として動員されることもあれば、ずっとそのままにされることもある。これも植物を生かすためなら手段を選ばないことの表れで、見た目が重視される魅せるガーデンでは絶対に見ることができない光景だ。
成長の手助け
飼うガーデンは植物の成長の手助けが率先して行われる。見た目よりも健康に、そして丈夫に育てることが優先されるため、支柱で支えたり、フジのような蔓性植物が絡まる場所が整えられる。
同種の株分け
成長した植物はしばし株分けされ、新たな鉢を与えられる。これはヤブランの株分けだ。飼うガーデンの中では同種の植物を数か所で見かけけることがあるが、それらは株分けされた結果である。
ガーデンの分別
この記事はあくまでの路上園芸の見方の切り口を、人形町の園芸空間に限定して書いたものだ。他の地域では違う種類のガーデンが見つかるかもしれない。
そして何より、魅せるガーデンと飼うガーデンの2つを紹介したものの、これらは完全に分かれているわけではなく、どんなガーデンにも「魅せる」と「飼う」の要素が混在している。それらが組み合わさってガーデンを構成していて、分類する方法は2つのうちどちらがより強く現れているのかということに過ぎない。
他の町にもでかけて新しいガーデンを見つけてみたい。