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はじめての研究論文の書き方

こんばんは。ロジーさんです。
最初の記事でこの内容を書くと言っておきながら、はや2年、いやはや時間の過ぎるのは早いものです、諸行無常(言い訳)
色々と盛り込みたいこともあるのですが、この記事は簡潔な内容に留めておきます。

今回は、簡単に「はじめての研究論文の書き方」に関して、僕の経験を踏まえていくつかポイントを踏まえて記していきたいと思っています。なお最初に定義しておきますが、この記事における「研究論文」とは国際誌・査読付き・生命科学分野の原著論文 (original article)とします。他分野におけるしきたりなどは良く分かっていないので…すみません。
また、この記事は基本的に研究論文を初めて書く学部生・大学院生向けに書いています。論文0のポスドク・大学教員は色々と論外なのでNG。それでよろしいでしょうか?

はじめにやること

まずは、というか当たり前のことですが、論文になるだけのデータが必要ですね。ということで指導教官にある程度従って、データを蓄えておきましょう。なお、公共データ(既に論文として発表されている大規模データ)を複数集約し、再解析して論文にすることも可能ですが、少なくとも初めての”研究”論文を書くということであれば、この方法はあまりおすすめできません…というかエアプ研究者が出来上がってしまうので、とても推奨できないです。
また、引用文献の管理は大事なので、EndonoteやMendeley等の引用リスト管理ソフトはほぼ必須です。研究機関単位で契約している事が殆どなので、管理している部署に問い合わせてインストールして下さい。細かい使用法は割愛しますが、引用リストを手書きで作るなんてのは時代に即していないのでやめてください。

論文の型を決める、構想する、書く

研究論文を作るにあたっての”型”は大きく分けて2種類あるでしょう。1つは、仮説検証型 (hypothesis-driven)。作業仮説を立て、その検証実験から入っていきます。学術論文ではあくまでストーリー性を求められますから、「なぜその仮説を思いついたのか?」に関してはその分野の背景も含めabstractの序盤とintroductionにきちんと表現する必要があります。実際にはそういう思いつき方ではなくても、そういうストーリーを作る必要がある…というのがポイントです。でもあからさまな嘘をつくのは研究倫理に反しますから、その辺りは上手く自分の中で落とし込む必要がありますが。研究論文になるようなデータが蓄積されているような段階では、紆余曲折あってテーマが決まっている事が殆どでしょうから、純真な仮説検証型研究で最後までストレートに行く例は非常に少ないでしょう。しかし査読者や一般読者はあくまでストーリー性を求めますから、“まず分野の現状があり、先行研究でここまで分かっている、だからこういった仮説を立て、それを我々の実験系で検証する事にした
こういうストーリーになるのが王道ですね。ここまで行けば準備万端と思います。

もう1つは、データ駆動型(data-driven)。”比較的大規模なデータ、また実験的に偶然な発見データから、ある発見事象の報告を行う/解明を行った”という流れになります。こちらは正直に書くとあまり査読者からのウケが良くないので、ストーリー性や速報性、意外性などの要素も盛り込む必要があり、仮説検証型に比べ文章完成までの難易度がやや上がります。指導教官が実際にこの型で論文を書いた事がなければなかなか難しい旅になりますが、serendipity(大発見)はむしろこの型からの方が多いのではないでしょうか。自然科学は往々にして人間の想定の範囲を超えてくるものですね。

という事で簡潔ですが(決して手抜きではありません)、型に応じて論文の骨組みを作っていきましょう。
なお、論文は必ずしも文章の順番通りに(abstract→introduction→(methods)→result→(methods)→discussion→acknowledgment)作る必要は決してありません。これは初心者にとっては少し盲点かもしれません。人間というのは、まっさらな白紙を目の前にすると急速にやる気を失ってしまうものです。しかしながら、ある程度文章(型枠)ができていると、最終的にはroutine的に毎日に近い頻度で取り組む事ができるようになります。ソフトはWordでもLaTexでも良いので、毎日少しずつ書き進めるのが理想形態でしょう。Google DocsやBox共有で共著者と一緒に進められる形でも良いです。通勤時間等でPCが使えない場合はスマホのメモ帳なんかでも良いです。という事で、実際に書き始めるにあたっては、仰々しく開始宣言とともに始める必要なんてこれっぽっちもなく、また書く順番に関しても書ける箇所から書いていく穴埋めのような方針でスタートしましょう。例えば、MethodsやAcknowledgmentはすぐ書けますよね?そう言った具合で、とにかく書けるところから書きましょう。指導教官や先輩から過去にアクセプトされた文章の生ファイルをもらうのも良いでしょう、これはかなりおススメな進め方です。それのタイトルを自分のものに変えて、著者リストは指導教官と考えて、abstractやdiscussionの内容を朧げに考えながらMethods、Acknowledgment、Resultのデータが揃っている箇所、を少しずつ埋めていきましょう。また、論文化に付随する良いところとして、ストーリーがある程度固まって実際に文章化してみると、”結論を導くにあたって足りないデータ”の所在が非常にクリアになります。よって、今やりたての実験データにおいて足りない部分が明確になると、追試や裏検討もカンタンです。

また細かい事ですが、投稿先によってはAbstractがSummaryだったり、MethodsがResultsの前だったり後ろだったり、いわゆるサプリがSupplementaryだったりSupplementalだったりしますが、ここを始めから気にする必要はありません。どのみちrejectだと投稿誌を変えないといけないのですから。また、先程引用文献リスト(references)は管理ソフトを使ったほうがいいと書きましたが、ジャーナルごとの形式に合わせる場合も雑誌名(固有のフォーマット)に一瞬で変えてくれるのでやはりおススメです。手書き管理だとここでも躓く事になります。

逆に、論文化を怠っていつまでも実験・解析に打ち込むと、ゴールの無い闇の迷路をただひたすらに進むようになってしまいます。もちろん、そういった”こだわり路線”を必ずしも否定しているわけではありません。が、学生には実際には年限というものが存在し、また学振や奨学金免除の審査等、論文の有無がクリティカルに(金銭的に)効いてくるという事実を踏まえてしまうと、純粋にサイエンスに取り組める時間的猶予というのは想像以上に少ないものです。その中で、いかに自分の色を出して行くか、そして論文化の道を探り、具現化していくか。ここが重要なところなのです。
さらに”こだわり路線”のデメリットととして、論文化に時間がかかりすぎると、研究序盤にやっていた実験解析が(試薬の発売中止、ソフトの利用停止、必須人員が異動する等によって)不可能になるという事態が多々発生します。私の観測上でもこのケースは幾度となく見ました。そうなってしまった場合、いざ重い腰を上げて数年前のデータを掘り起こして論文化を目指したところで、できなくなってしまった実験解析を再試するのは現実的に不可能であり、査読者にそこをツッコまれないようにする対応、またはそもそも関連データを消して論文のボリューム自体を縮小してしまう、といった苦肉の策、後ろ向きの手法が多くなってしまうのです…
もちろん、査読者コメントへの対応として結果的にこだわり路線になって時間がかかるのはアクセプトまでの道のりとして考えれば、仕方がないでしょう。しかしながら、最初の投稿をしない段階で数年単位でアレコレ悩んで闇の迷路に嵌ってしまう場合(論文の出せないポスドクでよく見るパターンです)はその間に新規性や張本人の意欲も失われて、無残な結果に終わる事が多いです。よって、最初の投稿は可能な限り迅速に!次なる研究テーマのconfidentialityを気にする必要が無いのであれば、(時間がかかりそうな場合は)プレプリントの投稿も検討するといいです。

まとめ

よってこの記事の簡潔なまとめとしては、「速筆家」になるための必勝法など特に無く、逆に「遅筆家」になって学位や学振などの審査で結局自分を追い込んでしまわないためにも、日々論文を少しずつ進めて行く事が大事なのです。私は特に一日のスケジューリングをしないタイプだったので空き時間を見つけて適宜取り掛かるタイプでしたが、この辺りは個性だと思います。とにかく、埋めれるところから埋めましょう。白紙を前にして怖気付くのは万人あるあるです。人間の性質なのです。

最後にもう一度言います。埋めれるところから埋めましょう!


Appendix

またこれは余談ですが、「絶対書くぞ!」のような周りへの決意表明は要りません。周りへの許可取りは場合によってはやった方が良い場合もありますが原則としては不要です。なぜなら、研究を行なっている時点で学術論文を作る義務がある、とまずきちんと認識して下さい。
この認識が甘いと論文への意欲も下がり、最終的にはキャリアパスにも影響が出る事があります。政府や民間財団や出資者から支援を受けて研究を行なって、自分の意思だけでお蔵入りさせて良いのですか?
論文の書けない研究者など、「ラーメンの作れないラーメン屋」のようなものです。仕事の主目標に対する貢献が出来ないわけですから。科研費などの税金原資のお金を使ってる場合、「論文の書かない研究者」の方が国にとっても悪質な存在でしょうね。

しかしながら、営利団体(民間企業など)に所属している方はなかなかアウトソーシングが難しい場面もあります(主に利益相反や特許侵害等による他社からの訴訟発生を防ぐ目的があります)、が、そういった縛りの緩い大学や国研等の非営利機関での研究においては、上記の義務に対する行動をきちんと果たす必要があるのです。本人のこだわりなど、二の次です。

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