在宅勤務は「ゆるい」働き方ではない|ちょっと言わせて
新型コロナウイルス感染症予防のために在宅勤務を含むテレワークが推奨されていますが、今号、特別寄稿で掲載していますように高尾総司医師と森裕太社会保険労務士から新たな問題提起がされました。
昨今のストレス社会で心を病む労働者が増えているところですが、メンタルヘルス不調で休職している労働者から「在宅勤務での復職を希望」が出ることや主治医から「復職可能、ただし在宅勤務が望ましい」という診断書が提出されたときに、会社としてどう判断するかというものです。
働く現場をよく知る両氏の見解は「在宅を前提とした復帰は勧めない」ということであり、その理由として業務管理や労務管理が困難であり、長時間労働が発生する可能性があるとともに、そもそも「出社しての勤務」「在宅での勤務」のどちらもできなければ、復帰の条件として不足であるとしました。
テレワークが多くの企業で行われるようになって、半年ほどになりますでしょうか。
この新たな問題の前提として、在宅勤務の請求が行われること事態に、この働き方のメリット、デメリットが労働者にも社会的にも正しく認識されていないのではないかと危惧しました。
以前、よく新聞紙上やネットのニュースなどに、ウエブ会議をする社員の服装で、上半身はスーツ、下半身はパジャマといったイラストが目に付きましたが、この表現に象徴されるようにテレワークはどこか「ゆるい」働き方として認識がされていないか、少々不安を覚えたのです。
在宅勤務と通常勤務が大きく違うのは、通勤がないということです。
もっと端的にいえば、仕事をする場所が変わるだけで作業量、質などに変化があるというわけではありません。
在宅勤務でできる仕事は基本的に一人作業なので、集中して取り組めるというメリットはありますが、それは業務の負荷が軽くなると同義語ではないのです。
上司の目から外れやすいので、むしろ自分なりに計画的を立てて業務を遂行していくという自己責任の面が強くなります。
自分で管理が上手くできなければ、かえって過重労働に陥る危険もあります。
また、在宅勤務は健康によい働き方なのかといえば、そうともいいきれません。
孤立感が生じやすい、運動不足になりやすいなどのストレスを受けやすいという負の部分も指摘されています。
企業が行う休業者の職場復帰支援のゴールは、原則として「元の職場に戻る」ということです(配置転換や異動などの配慮もありますが…)。
誤解をおそれずいえば、在宅勤務を復帰支援策の一つである「試し出勤」の一過程としてとらえる雰囲気を感じます。
「とりあえず、業務の負担が軽そうな在宅勤務から始めてみては」という思惑が見て取れるのです。
試し出勤として復帰の準備になるかどうかはともかく、少なくともゴールではありません。
職場復帰支援プログラムは、管理監督者、人事労務スタッフ、主治医、産業保健スタッフなど実に多くの人が関係してきます。
そこへ、人の目が届きにくい在宅勤務が入り込んでくるのは、ただでさえ難しい職場復帰をさらに困難にしてしまうような気がしてならないのです。
安全スタッフ編集長 高野健一
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