夢追う者 1/? 1568字 物語#9
1
今日はおじいちゃんの葬式。
おじいちゃんは急死だったので家族はまだ"それ" を受け入れきれていない。
トン、トトン、トン
スティックでドラム練習パッドを叩く音。
葬儀場の待合室では軽快なリズムが響く。
誰が見ても今の状況に合わないと分かる。
「おい…おい!おにぃ!今日ぐらいはやめろよ」
弟が言った。
「…ん?あぁすまん。暇だったからつい練習
しちゃって…」
と兄はヘラヘラ笑う。
「すぐ片付ける。」
練習パッドを片付けた後の畳はスタンドの脚の跡がくっきりと付いていた。
皆の顔は耳障りな音が消えてスッキリと言ったような表情だった。
だが、次は机が小刻みに揺れ出した。
地震かと思う者もいたが、それは揺れていない
吊り下げ照明が違うと証明していた。
大抵の者は気づいていた。
それは兄が原因であると。
それは兄がリズムを取って足を上下に揺すっているのが原因であると。
重い空気の中、それを読まずに練習している彼を皆は軽蔑した。
その練習がどれだけ将来のためだろうと。
2
うるさい目覚まし時計の音で目が覚めた。
時計を見てみるとまだ朝の5時だった。
目覚ましを止めるためにボタンを押したが、その音は止まらなかった。
その目覚まし時計にはでかでかと自分の名前、
清水 仁と書かれている。
ふと隣のベッドを見ると光る目覚まし時計が
あった。
「おにぃ…時計とめてぇ…」
と呼びかけても反応はない。
仕方なく立ち上がって目覚ましを止めた。
そしておにぃの体を揺すりながら
「おきろぉ…なんかあるからはよぉ鳴らしたん
やろぉ?」
となんどか呼びかけながら揺すったが、おにぃは死んでいるかのように全く起きない。
とりあえずおにぃの目覚ましを止める。
おにぃの目覚まし時計にも同様にでかでかと
清水 聡と書かれている。
諦めてもう一度寝ようと自分のベッドに戻ったが、なまじ起きてしまったため眠たいのに
眠れない。
いっその事起きていようかと思ったが、寝転んでいたほうがまだマシだと思い、寝転んでいた。
部屋に朝日が差し込む。
快晴の空とは裏腹に最悪の目覚めだ。
朝7時、自分の目覚ましがなる。
僕はほぼ鳴る前に止めた。
そのまま下に降りて歯磨きと顔を洗いに行く。
歯磨きをしている途中にお母さんが来た。
「ちょっと、それ終わったら聡起こしに行ってくれない?」
「わかった。ちょっと待って。」
そう言ってパパっと歯磨きと顔洗いを終わらせ、
また2階の寝室へ行った。
おにぃの体を揺すりながら
「はよ起きや〜母ちゃんにどやされんぞ〜」
と言っていると、おにぃが目を覚ました。
その直後、おにぃは飛び起き時計をみた後、
しまったと言うような表情をした。
「おい!なんで朝起こさんかった!お前の事やし起きとったやろ!」
起きんかったのはお前やろ、と心の中で
愚痴りながら口ではごめん、と謝罪した。
「ったく…これじゃドラム練習の時間が…」
とおにぃが小声で言った。
おにぃは高校2年生で軽音部に入っている。
高校1年生の頃からドラムを始めたのだが、それから大ハマりして毎日狂ったように練習している。
夢はプロのドラマーだとか。
「とりあえず下降りてきてや。朝飯できてる
からな。」
これ以上おにぃの近くにいたら何をされるか
分からないので逃げるように一階に行った。
リビングに入ると朝ご飯が用意されていた。
焼いた食パンにジャムを塗った簡単な物だ。
おにぃを差し置いて僕だけで朝ご飯を食べた。
「今日は学校帰ってきたら出かけるから寄り道せんでかえってきいや。」
「どこ行くん?」
「いろんなところ〜」
そのいろんな所を聞いてるんだが、口には出さなかった。
食べ終わって着替えてる所におにぃがドタドタと足音を鳴らしてリビングに入ってきた。
「おい!起こすんやったら最後まで起こせ仁!」
呆れながらはいはい、と2つ返事。
おにぃの事は気にせずに着替えを続けた。
着替え終わった僕はドタバタしてる家を尻目に
学校へ向かった。
〜続く〜