ちょっと変わった話 #2 白い犬の導き
それは私が高校一年の時。
その頃の私は、2つの塾をやめ、やむなく最後の一つに行かされていました。
というのも、受験をして中学に入って以降、全く勉強せず、宿題や提出物も全く出していなかったので、
入学当初、250人中100位ほどだった成績は学期ごとに低下していき、中学3年の1学期に幾何のテストで40点をとった際には200番台まで落ちていました。
それをみた祖父母(両親はいないので祖父母が親代わり)が家族会議を開き、叔父叔母(上と同じ理由で学費を出してくれていた)の説教もあって、塾に通わせることが決定した。
その後は、いくつもの塾を巡り、まず最初に小学生の時に中学受験のために通っていた塾に通い直すことになった。
しかし、そもそも往復1時間以上かかる場所だったので長くは持たず退塾。
その次はかの有名なM光義塾。
こちらはまず料金が高い。
週2,3回だったが、月40000以上。
教室長は暑苦しく。
自習形式で自由に質問するタイプの塾なのだが、聞いてから答えを教えてもらうまでが長い。(バイトの講師が自力で解くので)
それなら答えを見た方が早いと、答えを見ていると解き終わった講師に怒られてしまう。
(注意しておきたいのは勉強ができないわけではなく、しなかっただけなので解答はちゃんと理解できる)
そうしたこともあってこの塾も早めにやめてしまった。
最後に通っていたのが、地元の小さな塾。
家から徒歩5分のところにあるのが一番の魅力。
(私は本当にめんどくさがりなので、遠ければ遠いほど行く気は絶対に起きなかった。近くてもあまり行かなかったが。)
そこでは数学を週に一回金曜日だけ。
夜の6時から8時ごろまで。
こちらも授業は少人数ながら、講義形式なので解き終わったら他の人を待たなければならなかった。
私には向いていない。
たった週一回の授業すらサボり、実質的には週1,2回しか行けていなかった。
そんな時、一度だけ先生が変わったことがあった。
理由は忘れたが、いつもの先生ではなく初めて見る先生だった。
その人のことはあまり覚えていないが、なぜか信条は"シンプルイズベスト"だったことだけ覚えている。
おそらく私にも通じる部分があったからだろう。
正直、その人の授業は面白かったのだと思う。
少なくとも退屈していなかった。
そして、ある日の夜、いつものように塾に向かう途中。
いつのまにか私の隣を白い犬が歩いていた。
柴犬のようなふさふさな毛で、どう見ても野良ではないのだが、辺りに飼い主はいない。
夏ごろのことだったので、辺りは暗くその白い犬は少し光って見えた。
そして、その犬は後ろをゆくでもなく、前をゆくでもなく、ぴったりと私と並走していた。
少し不思議に思って犬の方を見ると、少し前を歩き出し、神社の前で止まった。
実は塾のすぐ隣に神社がある。その神社の前で止まった。
不思議に思いながらもいつも遅刻気味の私は、そのまま塾に向かおうと歩みを進めた。
すると犬は神社の中に入り、奥の方に消えた。
私が通り過ぎると、吠える声が聞こえたが、私はそのまま塾に入った。
授業を終えて帰宅し、食事を終えた私は先ほどのことが気になって神社に向かった。
辺りはもう真っ暗で何も見えず、あの犬も見当たらない。
すると、神社の隅の方でタバコを吸う人がいた。
気になって近づいてみると、あのシンプルイズベストの先生だった。
私はそもそも人見知りで自分から話しかけたりしないのだが、暗闇で顔が見えなかったからか、その人に親近感を覚えていたからか、自分から挨拶をした。
最初、その先生は私のことをタバコを吸いに来たサラリーマンだと思ったようだが、顔を見て挨拶するとこちらに気づいた。
その時の会話は細かくは覚えていない。
ただその人が言った一言。
「君は独学の方が向いてると思う」
それが自分の心の中の何かを動かした気がする。
そのあと、私はすぐに塾をやめた。
それ以来、一切塾には行かなかった。
大学受験が近づき周りが進学塾に通う中でも、私は独学を続けた。
そして、大阪大学に合格した。
受験を終えた後、祖母に神社の白い犬のことを聞いてみたが、そんな犬はあそこにはいないとのことだった。
ただの偶然であれ、何かの導きであれ、少なくとも私の人生のひとつの転機であったことは言うまでもない。