Jeff Beck and Johnny Depp - 18 (2022)
ジェフ・ベック生前最後のアルバムとライブがジョニー・デップとのジョイントと言うのもどこか寂しい部分もあるが、人生はきっとそんなモノなのだろう。ロックスターがハリウッドスターの夢を叶えてくれたのだから満更悪い話ではない。そんな風雨に斜に構えていたからこの二人のアルバム「18」を特段耳にしていないままジェフ・ベックの訃報に接してしまったので、結局没後に初めて聴く作品になってしまったが、まず最初から驚いた。
アルバム冒頭からジェフ・ベックのあのトリッキーなギターソロプレイのインストで幕を開けるからいきなり惹き込まれ、ジェフ・ベックそのままのプレイだから何一つジョニー・デップの陰がチラつかない純然たるベックのギターが味わえる楽曲。当然と言えば当然ながらもやや斜に構えて取り組んだからぶっ飛んだだけかもしれない。更に続いての曲が始まるが、そこでも往年のジェフ・ベックのデジタルビートにアレンジされた楽曲で、これもまた参加しているのだろうけど、どこにもジョニー・デップの陰を感じる事のない、90年代のジェフ・ベックそのままの雰囲気で警戒に勢い良く進んでいくカッコ良いチューンになってる。そんな驚きを味わっていると今度はまたジェフ・ベックのあの歌うギタープレイでリスナーを宙に舞わせてくれるので、その美しさと儚さに虜にされてしまうから堪らない。ここまで来ると次はどういう攻められ方になるのか楽しみになってくるが、どうやら本作はジョニー・デップ名義はあるものの、音楽的には当然ながらジェフ・ベックがやりたいように独自の路線を貫き通してデジタルビート中心の、そして最先端のアレンジを施して50年代の往年の楽曲をカバーすると言う、これまで誰もなし得ていなかった新たなチャレンジにジョニー・デップを巻き込んだと言う方が正しいだろうか、これにはジョニー・デップも相当驚いたと思う。しかもジョニー・デップからしたら自分が昔作った曲ですらジェフ・ベックの現代風味のアレンジにされて蘇っているのだから相当感極まった事だろう。
終盤の「What's Goin' On」や「Venus in Furs」などはロックファンには相当馴染みの楽曲群のハズなのに普通に聴いてるだけだと何も違和感なくこのジェフ・ベック風アレンジとギターに耳が惹き込まれてしまうから要注意。さすがジェフ・ベック。楽曲は誰の何でも全然関係なく自分色に染め上げ、更に独特のギタープレイで彩ってしまうのだから恐るべしアーティスト、ミュージシャン。そんな事ばかりが感じられた素晴らしい傑作なので、ジョニー・デップの名前に踊らされる事なく、普通にジェフ・ベックの新作アルバムとして聴くだけで全然OKな作品でした。どこかセッションアルバムだから普通につまらない仕上がりで名前だけで売っていく作品かなと思っていたのが間違いで、決してそんな目論見などなく、果敢にチャレンジする戦い続けるギタリストの作品でした。