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読書感想文①だよ


「うまい、はやい、やすい」某飲食チェーン店のキャッチフレーズである。

高度経済成長期は最早戦後ではなく、「会社人間」「企業戦士」「猛烈社員」というフレーズを生み出し、目まぐるしく転回していく時間の中で消費革命を生み出した。
日々移り変わる成長率を支えるため、24時間働くために真っ先に削られたのは食事だ。

現在国内の飲食チェーン店を見ない日は無く、現代人の胃袋や味覚を満たすだけでなくお値段もランチメニューで1000円以下、もしくはワンコインで済ませられることも多く、非常にお手頃。それだけでなく、莫大な正社員・非正規者合わせ多くの雇用も生み出していることから、国内における経済の一般を担っているといっても過言ではない。
そんな飲食店もコロナウイルスの影響を受け、個人経営点だけでなくチェーン展開を行っている企業までもが大打撃を受けた。今では新型インフルエンザ感染症等となど「5類感染症」に引き下げられ、経営者や企業の努力の甲斐もあり客足は戻りつつある。私も外食が増えてきており、休日にはハンバーガーショップでのセットメニュー、コンビニ食なども忙しい平日の食欲や胃袋を満たしてくれる。まさに無くてはならない代物となっている。

現代人の生命線!

そんな中昔のことを思い出すと、私の記憶の中では以前も飲食店が苦境に立たされた時代があったことを思い出す。牛海綿状脳症、所謂BSE。牛の病気の一種でBSEプリオンと呼ばれる病原体に感染した牛の脳組織がスポンジ状になり異常行動を起こした末に死亡するという病気だ。BSEに感染した牛の脳や脊髄などを原料にした給餌が他の牛に与えられたことが原因でイギリスを中心に感染が拡大し、日本でも平成13年9月以降感染された牛が確認された。
ここで大きな打撃を受けたのが、冒頭に記したキャッチフレーズを掲げる飲食チェーン店である。米国からの牛肉の輸入が全面停止となったことで提供数が減少、食品安全性への漠然とした不安感の拡がりが客足を遠のかせた。当時私は田舎に住む小学生で、母親が肉を食べない人であったことと外食回数が少なく、テレビから流れるニュース内容には起こっている結果しか頭に入れていなかった。食事は母が作ってくれるものを食べ、時折お菓子なども口にするが、なんせ母の監視の下なので常食はしていなかったため、食への安全性に対する不安など微塵もなかった。

だが今はどうだろう?私も家計の柱を担っている者として口にするモノの安全性は考えるようになっている。また、そこに物価高高騰や円安経済が拍車をかけ家計を圧迫しているため、大型ショッピングセンターでのタイムセールやポイントデーに気を配り、食費の消費を抑えようと日々格闘している。特に野菜や果物は高く、安売り日にまとめ買いを行い冷凍保存している。魚介類の生鮮食品も値上がりしており冷蔵解凍品が多く並び新鮮なモノを口にする機会が減っているように感じる。
だが、他の生鮮食品と比較すると未だに肉は安い印象である。私自身も肉類を食べることはないが、精肉売り場を通る際は反射的に値段を見て「なんだか魚より安い気がする」と感じている。鮭や鯖などと比べれば牛や豚1頭から取れる量が多いため、グラム数での値段が安価になっているのか?それとも魚に比べて飼育が行いやすいのか?様々な考えが浮かぶが、浮かぶだけであくまで憶測である。別段肉類を買うことはないし、食卓に並ぶこともないので気にせずにいた。

ここで相場英雄著「震える牛」を拝読した。

雄々しすぎる表紙、震えるぜ!


物語の現時点の時間軸から、2年前の強盗殺人事件から大手ショッピングセンターの地方事業拡大から、それに伴う地方・地元商店街の苦境・雇用や地元議員との癒着が炙り出される。
その中で、中盤から物語を牽引するキーワードとして「食品の闇」である。そのハンバーグは本当に100%国産牛なのか?スーパーに立ち並ぶソーセージや成型肉という出来上がった状態しか見ないと、作成過程で含まれる加工品や食品添加物などパッケージに印字されていても実感はない。ましてや最近では生産者の顔が見えるようなラベルや産地の記載などもされていることから食品偽造など考えに及ばない。そんな食品がチェーン展開をする飲食業界と手を組み安価に提供されれば簡単に食卓に並んでしまうのは想像しやすい。
私は平成生まれで、その時にはすでに消費社会の真っただ中に生きており、中学生以降ハンバーガーの旨味を知ってからは食肉加工品は私の食欲・空腹だけでなく味覚も十分に満たしてくれた。それに安かった。お小遣い制の学生には持ってこいの商品である。私の年代より以降の子ども達はもっと小さいころから親世代が食べ慣れていることや、セット注文すると付属してくるおもちゃに惹かれ、これからも容易に食べ続けるだろう。
今の私は諸事情で肉類を食べることは無くなったが、食の安全性は肉だけに限ったことではない。魚介類や野菜も同じである。なぜ酸化の早いアボカドはコンビニサンドイッチに挟まれると黒くなりにくいのか。なぜ加工されている果物はこんなにも色鮮やかなのか。

もう一冊拝読。
内澤旬子著「世界屠畜紀行 THE WORLD‘S SLAUGHTERHOUS TOUR」

イラスト付きで図解もわかりやすい!

ここでは逆に食肉の屠畜側からお邪魔する。風変わりな作者は世界各国での食肉屠畜のあり方や政治・宗教間・屠畜業者や家系的業者への差別や偏見を記したるポタージュとなっている。牛さんや豚さんがかわいそう?週のほとんどの食事で肉を食べているのに?屠畜業の人は残酷そうだし血生臭いそう?おかげでスーパーで簡単に買えるし、それに肉は血生臭いモノでしょう?そんなことを、シンプルだけどウィットに富んで、かつ丹念に地に足のついた取材内容から決して読者を客観者にしない筆運びが良い。また、著書の中の1/4程は日本での屠畜工程やBSE検査に関する政府の徹底した対策について記してある。拝読しなければ検査の徹底性や携わる関係者の苦悩など知らずに、容易に安全性の是非を謳ってみたり、生産者側の消費者に対する思いを蔑ろにしていたかもしれない。毎日スーパーで値段と格闘し、調理し食卓に並べ消費しているため、わかった風なことや知ったかぶりをしているだけ。生産者・実際の食から離れた生活をするだけで簡単に地面から足が浮いてしまう感覚を持ってしまい、牛や豚は食べ物、猫や犬は家族なんて概念を勝手に作り上げてしまう。それは食肉に関してのみではない。野菜サラダにはドレッシング、焼き肉にはタレ、醤油が足りないから醤油を足すけど減塩なので大丈夫、チャーハンにはオイスターソースをかけて濃い味付けするなど簡単に味変をすることで、本当の味を知らないまま、舌の味覚は鈍っていく。

分野は異なれど、食の安全性についてや、食べるということについてよく練りこまれた内容となっている。
平成に入ってから簡単に美味しいもが口に運ばれ、食品添加物の刺激になれた舌は、これからも続々と新しい需要と消費を生み出す。また。最近では配達サービスや代行業者の出現・拡大により、自分自身で直接食品を買うことも少なくなった方が出てきている。私自身も過言ではない。それでも可能な限り、自分の目で見て、嗅いで、触って、味わって選択していく努力をしていきたい。

センキュー!

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