【日記】壁を見つめて(冬)
今日は壁を見つめました。独りになって壁を見つめました。壁は広いコートの隅っこにあり、コートは種々のフードの冠をつけていました。雪のように白い壁を見つめて、日記が降りてくるのを待ちました。壁の上からとめどなく日記が降りてきてくれるなら、それを注意深く観察しながら日記をつけるのでした。
ところが、どれだけ見つめていても、日記は思うように降ってきませんでした。辺りを見れば、自分と同じような姿勢で壁に向いて、何かを待つ人々の姿がありました。いったい何を待つのでしょうか。人かトナカイか、あるいは待ち望んだ贈り物かもしれません。例えば、それは次にやってくるものだ。
壁にはいつも「テナント募集」の紙が貼られている。だが、壁を打ち壊して何かを始めようとする者はいるのだろうか。この街にはいつからか、「一度壁になったものはいつになっても壁のままだ」という言い伝えがあるような気がしました。マンションの前にあったあのたこ焼き屋も、スーパーの隅にあったあの蕎麦屋もそう。壁の次に新しい何かを作り出すことはそれほど容易なことではありません。久しく雪を見ていない。できるなら、歩きながら降る雪に触れたい。そのひとひらが日記に新しい色をつけてくれるだろうか。ただ、壁の前にいるだけでは、日記を書くことはできませんでした。