セミファイナル(棋は対話なり)
「昼飯何食ったんだ?」
そう言いながら銀をぶつけてくる。
「何でもいいだろう」
「カツ丼か? お前、俺に勝つ気か?」
「当たり前だ」
少し気分を害しながら私は同銀と応じた。
「俺に勝たせろ。それが正しい結果だ!」
と桂を跳ね出してきた。
「何を言うか」
私は桂先に銀をかわした。
「お前じゃキングは倒せない。だから俺が勝つべきなんだ。俺はお前よりも先を見据えてるんだ」
「うっさいな。決勝なんか関係あるか」
目の前の対局に集中すること。それもできない奴に負けるわけにはいかない。
「読みの深さが違うんだよ」
失礼極まりないことを言いながら、自陣角を放った。
うん? 何か意味わかんない。
私は端歩を突いて様子をみることにした。
「はあ? お前の手、何か眠たくなるな」
「ああ、何か合わないな」
もういい加減黙ってくれないかな。
「催眠術か?」
「催眠術じゃねえよ」
駄目だ。反論するほど自分のペースが乱れてしまう。
「将棋を指してくれよ!」
敵は反対側の桂も跳ね出してきた。
第一感それは悪手だ。
正しく指せば必ず私が勝つだろう。
そうとも。彼の助言に従おうじゃないか……。
私は雑音を封じて(将棋を指す)ことにのみ集中するのだ。
(舌戦の中で幸いにも棋士の本文に目覚めることができた)
「ドブネズミかよ」
「蠅が止まるぜ」
読みの対岸でぼやく声が時々聞こえてくる。
今の私にはもう関係のない話だ。
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