メロウソウルの魔術師 リロイ・ハトソン
70年代ニューソウル・シーンにおいて欠かすことの出来ない存在、リロイ・ハトソン。
カーティス・メイフィールドが設立した「カートム・レコーズ」に在籍し、自身のアルバムを発表する傍ら、プロデューサー、アレンジャーとしても活躍したリロイ。また、カーティスが脱退したインプレッションズの2代目ボーカリストとしても活躍しており、カーティスの良き相棒的存在でもあります。
鋭いメッセージ性とストリートの雰囲気が漂うカーティスの楽曲に対し、リロイの作る楽曲は都会的でスタイリッシュなイメージ。あらゆる鍵盤を駆使し、ストリングスを多用して丁寧に作り上げるサウンドは、まさにメロウグルーヴの魔術師といったところです。
ダニー・ハサウェイ、ロバータ・フラックとは大学時代の同級生であり、ダニーと「The Ghetto」を共作した人物でもあります。巧みなコードワークや、ディープ過ぎない歌声など、ダニー・ハサウェイが好きな人であれば、間違いなく気に入っていただけると思います。
昨年の初来日に続き、今年も再来日が決定しており、ますます再評価も高まっているリロイ。
今回はリロイが70年代にリリースしたアルバムの中から特にお勧めの4枚を紹介したいと思います。
Love Oh Love(1973)
記念すべきIstアルバム。後に紹介するアルバムと比べると華やかさはないものの、リロイのメローグルーヴにじっくりと浸れる、個人的に大推薦の1枚。
メロウ過ぎて溶けそうになる「So In Love With You」から始まり、軽快なリズムにゴージャスなストリングス、ホーンが絡み、リロイのアレンジ能力が冴える「Love Oh Love」、そしてミディアム・ファンクの「Time Brings On A Chage」。この曲には、キング牧師の演説のサンプリング、シンセ、ストリングスがコラージュ的に配置されていて、現代的な印象すら受けます。
このアルバムでもカートムレコーズの素晴らしいミュージシャンがバックを務めており、全体的に落ち着いたトーンながらも、根底に脈々と流れるファンクネスを感じずにはいられません。
派手さはないものの、聴く程に味わいが増す、カートムレコーズらしい名盤です。
Hutson (1975)
3rdアルバムにして文句無しのリロイの代表作。このアルバムと次に紹介する『HutsonⅡ』を個人的にリロイの赤盤・青盤と呼んでいます。
先に紹介した『Love Oh Love』に比べて、より洗練されたスタイリッシュなサウンドになっています。
まずは1曲目の「All Because Of You」。ファンキーなドラムの16ビートの刻みに、ストリングス、ベース、ワウギターが重なり、ドラマチックに盛り上がっていく展開にぞくぞくします。特にストリングスをリズム楽器的に使っているところが面白く、この部分はサンプリングネタとしても有名です。
そしてメローグルーヴの傑作「It’s Different」。浮遊感のあるアナログシンセのイントロから静かに始まるこの曲。カートムプロダクションの奏でる緩やかなグルーヴにリロイの味わい深い歌が乗っかり、まさに至福のサウンド。そしてアコースティックギターを隠し味に使っているところもリロイのアレンジの旨さだと思います。
こちらもサンプリングやカバーにも多く取り上げられている人気曲「Lucky Fellow」。ファンキーでありながら、決して暑苦しくならないのもリロイの特徴です。
1990年代以降のアシッド・ジャズ・ムーブメントの中でも、ノエル・マッコイをボーカルにフィーチャーしたスノウボーイがこの曲を取り上げており、こちらもカッコ良いので是非。時代に左右されないリロイの魅力がここでも窺えます。
HutsonⅡ(1976)
こちらが青盤です。前作『Hutson』と同様、初めの1枚としてお勧めしたい名盤です。
前作同様、ループするベースラインが特徴のファンクナンバー「Love The Feeling」で幕を開けます。やはりこの曲も単なる押し一辺倒のファンクではなく、細部まで緻密に拘ったアレンジ。どのパートを聴いていても面白さがあります。
フルートをフィーチャーした「I Think I’m Falling In Love」。ポップスとしてもしっかり成り立ってしまいそうなキャッチーなメロディーと、高揚感のあるバックのグルーヴといい、リロイの魅力が詰まった1曲です。
そして名バラード「Love To Hold You Close」。ゆったりとした気持ちい16ビートを刻むドラムと歌うようなベースライン。そして抑揚を抑えたホーンセクション。いつまでも聴いていたくなるメロウグルーヴの傑作です。
この辺りのサウンドも、90年代以降のアシッドジャズなどに多大な影響を与えていると思います。
Closer To The Source (1978)
そして最後にお勧めするのがリロイのメロウグルーヴの集大成とも言えるこちらのアルバム。ファンキーな側面は少し影を潜めますが、どの曲もひたすらアーバン。今の時代にこそ再評価されるべき名曲揃いの作品だと思います。
このアルバムにはリロイ 以外にもアレンジャーを起用しており、冒頭の「In The Mood」には70年代以降、アース・ウィンド&ファイアーやエモーションズ等で有名なトム・トム84を起用しています。
煌びやかなエレピサウンドとリロイの甘い歌声、何重にも重なるコーラスといい、ゴージャスなムードの名曲です。
踊り出さずにいられないダンスナンバーの「Get To This (You’ll Get To Me)」。ディスコブーム真っ只中であり、当時、ディスコではかなりかかったであろうことは予想できますが、単なるディスコでは終わらないのがリロイ。4つ打ちビートに重めのベース、しっかり腰にくるサウンドです。サビのキャッチーなメロディ、ホーンセクションといい、どこまでも高揚していく感じが堪らない大好きな1曲です。
そしてタイトルトラックの「Closer To The Source」はリロイの代表曲であり、アーバンソウルの名曲でもあります。
ティンパレスなどのラテンパーカッションを隠し味に入れ、どこか南国の雰囲気すら漂うこの曲。
ホーンセクション、ストリングス、フルートや管楽器のソロの絡みなど、贅沢に沢山の楽器を使っているにも関わらず、非常にすっきりしたサウンドで、これもリロイのアレンジ力が成せる技だと思います。
このまま日本の渋谷系に繋がるのではないかと思ってしまう「Everybady’s A Masterpiece」。こういうポップ性の高い曲にもリロイの声はしっくりハマります。
他にも聴きどころ満載なこちらのアルバムもお勧めです。
リロイ・ハトソン 、いかがでしたでしょうか。80年代以降、活動が失速してしまったためか、意外と知名度が低いアーティストかも知れませんが、今回紹介しなかったものも含め、素晴らしい作品をたくさん残しています。
ダニー・ハサウェイやスティービーが好きな人には気に入っていただけたのではないでしょうか。
彼が他のアーティストをプロデュースした名盤は、また次回以降、紹介させていただく予定です。
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