なぜ理系大学院生のコミュニケーションは悩ましいのか
理系大学院生でコミュニケーションについて悩んでいる人は本当に多い。ここ数日、note記事やXでの投稿を見て、感じたことです。別に「理系」というカテゴリに特殊な人が集まっているわけではないはずで、どういった環境要因があるかを考えてみました。
1. 時間軸での発想が難しい状況
私は大学院を修士で終えましたので(学部卒後に2年間で就職)、そこまで悩まなかったのですが、更に3年間在籍して博士号まで取得される方にとって、将来の見通しをクリアに持って日々を過ごすのが難しい状況はあるはずです。
博士号を取得後も、大学などアカデミアでのポストはあるのか、企業での採用がすんなり決まるかは、もちろん、その進路選択の時期が来ないとわかりません。私自身がそういった状況に身を置いたわけではないのですが、その難しさは想像できます。就職浪人のような気分が数年間にわたって続くような感覚であるのかもしれません(実際には学籍がありますので、浪人ではありませんが)。
そういう先の見えにくい状況に置かれたときに、よほど先を見通せるアドバイザー・サポーターがいるか、もしくは、自分自身で感情をコントロールできないと、不安な気持ちが続いてしまいます。ご家族に学費や生活費を頼っている方も多いはずで、そうすると、家族に正直な胸の内を話すわけにもいかず、ますます不安は募ってしまうのかもしれません。
2. 人間関係が狭い範囲で固定化される
研究室への配属は、多くは大学4年生から始まります。仮に、学部1年間+修士2年間+博士3年間を、その同じ研究室で過ごすとなると、合計6年間を同じ環境で過ごすことになります。(実際には大学院で研究室を変わる方もおられますが)
その間、自分の教育をしてくれる担当教官は基本的には変わりません。先輩・後輩も、出たり入ったりはありますが、会社のようにプロジェクトチームのような横串があることは少なく、固定した人間関係の中で過ごす必要があります。
そういった、自分の大切な20代の数年間を過ごす環境が、家族的で、厳しくも優しい雰囲気であればよいのですが、もし、そうでなければ・・・本人にとっては、とてもしんどい状況になるはずです。
3. そんな状況にも関わらず、サポートが乏しい
そういった状況にも関わらず、当の大学院生が得られるサポートは限られているな、と最近の新入社員の話を聞いても感じます。例えば、見失った時間軸を取り戻すために、定期的にキャリアを考える研修があるかどうか。人間関係に悩んだときに、きちんと相談できる第三者がいるかどうか。そういったサポートが充実していた、という話は聞きません。
昔のように、就職が教授のコネで決まるような世界観であれば、それでも回っていたのかと思いますが、私が大学院生だったX年前ですら、「推薦があったとしても、採用は保証の限りではない」という話でしたので、今であれば、なおさら、コネによる保証は限られているのだと思います。
それであれば、就職やポスト競争を勝ち抜けるだけの実力が、研究生活「だけで」身につくかと言えば、そういう訳ではないのだと思います。担当教官は、基本的には研究への指導や助言はしてくれますが、「就職や企業生活ではこういった能力も求められるから」ということで、そういった技能が身につくように、工夫や配慮をしてくれているケースは少なそうです。
そういった状況であると、周りが自分を支えてくれていないような気持ちにもなってしまい、ますます、質の良いコミュニケーションを取ることが難しくなります。
対応のためのヒントになれば・・・
日夜、忙しく研究や論文作成に没頭されている方の中には、ここに書かれていることに関して内心悩んでいることにすら、蓋をしている方もおられるかもしれません。それでも、終わりの見えている方は、若さのパワーもあって修了まで乗り切れるのであれば、それでもいいかもしれません。
もしも、そうではなく、少し悩んでいる自分を発見された場合は、その悩みが大きくなり過ぎる前に、自分の今の悩みや感情をどこかに書き出しておくことをおススメします。書くだけで自分の置かれた状況は客観視できますし、いざ、「これは大変なことになりそうだな」と感じたら、信頼できる誰かに相談できる準備にもなるはずです。所属している大学に、どういったカウンセリングサポートがあるかどうかを予め調べておくのも、心のお守りになるかもしれません。
「自分は悩んでいるな」と客観的に気づけたときが、ストレスの回復のきっかけとも言われています。悩みに蓋をするのではなく、そこに向き合うことで、社会に出た後のストレスへの対処能力も育っていくはずです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?