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勇気づけのコミュニケーション

 「褒める」「叱る」という従来のコミュニケーション手法ではなく、相手の主体性や努力に焦点を当てた応援スタイルが注目を集めています。アドラー心理学では、これを「エンカレッジメント(Encouragement)」または「勇気づけ」と呼んでいます。本記事では、「勇気づけ」の背景や方法を具体例を交えて解説します。


1. エンカレッジメント(勇気づけ)とは

 「勇気づけのコミュニケーション」を一言で表すなら、「タテの関係ではなくヨコの関係で、結果や能力ではなく過程や努力に焦点を当て、I(アイ)メッセージで相手を元気にすること」 だといえます。

  • タテの関係 → ヨコの関係

    • 「あなたはすごい」という褒め方は、どうしても“評価”や“上から目線”になりがち。

    • 一方、「おかげで(私たちは)助かったよ」という言い方は、同じ目線での感謝や称賛を示す。

  • 成果よりも過程や努力に注目

    • 「結果が素晴らしい」だけでなく、「そこまで努力したことがすごい」と伝えることで、相手の内面が元気づけられる。

  • Youメッセージ → Iメッセージ

    • 「あなたは○○」ではなく、「私は○○と感じている」「私たちは○○で助かっている」と、自分の視点から相手を認める。

Point:
・「あなたはすごい」の褒め言葉は成果のみを評価し、タテ関係
・「私は助かっている」のように感謝を伝えるて、ヨコ関係での勇気づけ
・過程や努力を認めることが大切

2. エンカレッジメント(勇気づけ)の語句解説

 アドラー心理学において、「Encouragement(勇気づけ)」は単なる技法ではなく、相手と共にいるための「あり方」や「態度」を含む概念です。以下は、Encyclopedia of Personality and Individual Differences での解説です。

「勇気づけ」はアドラー心理学の重要な概念の一つです。勇気づけの概念は、すべての人間の価値と尊厳を強調し、個人が創造し、決断し、変化のために行動する能力を持っていることを肯定する楽観的な見方を含んでいます。勇気づけはしばしばアドラー療法の技法や介入と誤解されますが、実際には技法ではなく、他者と共にあるための態度や関係構築のスキルを含む方法です。

Encouragement is one of the key concepts of Adlerian theory. It emphasizes the worth and dignity of every human being and has an optimistic outlook affirming that individuals are able to create, decide, and take action for change. Encouragement is often misunderstood as an Adlerian therapy technique or intervention. Encouragement is not a technique but rather a way of being with others that includes both attitudinal and relationship-building skills.

 ここから見えるのは、「誰もが変化を起こす力を持っている」という楽観的な前提を尊重し、その力を引き出すコミュニケーションを行う、という姿勢です。

Point:
・勇気づけは単なる褒め方やテクニックではない
・相手の価値や尊厳を認める「前提」や「態度」を伴う
・人が元々持つ「創造力」「決断力」「行動力」を引き出すアプローチ

3. 成果や能力に触れつつも勇気づけをするには

 「努力に焦点を当てるのが大事」とはいえ、実際には「成果が出たときにポジティブなメッセージを送りたくなる」のも自然なこと。そんなときでも、次のように“過程”を一緒に振り返る言葉掛けにするだけで、勇気づけのコミュニケーションへとシフトできます。

 成果に触れつつ、過程にも触れて勇気づけをする事例を、平本あきおさんの「幸せに生きる方法」からお借りしています。

勇気づけの例
「全社で1位を達成するまでに、相当がんばったね。一生懸命に努力した成果が出たんだね」
成果に触れつつ、それを支えた努力に注目している

勇気づけではない例
「全社で1位とはすごいね」
結果だけを評価し、どこがすごいのかに触れていない

 同様に、“能力を褒める”だけでなく“努力のプロセス”を示すことで、相手は「自分の行動や選択が成果に繋がった」と実感できます。

勇気づけの例
「〇〇さんは、業務改善が得意ですね。これまでの勉強や取り組みが形になりましたね。」
相手は努力のプロセスを再認識でき、主体的な気持ちがさらに高まります。

勇気づけではない例
「〇〇さんは業務改善が得意ですね。」

Point:
・成果に触れるときは、必ず「過程や努力」もセットで言及する
・「結果をどう評価」より「結果を支えた努力をどう評価」を重視

4. なぜ「勇気づけ」が必要なのか

 「褒める」や「叱る」でなく、なぜ「勇気づけ」が推奨されるのでしょうか。キーワードは「建設的に、エネルギーをもって生きていく」ためです。

  1. 優劣の比較から脱却できる

    • 「100点すごいね!」は、他人と比べての評価が暗黙の前提になりやすい。

    • 一方、「今回の努力が結果に繋がってよかったね」は、相手の内面や行動を軸にしている。

  2. 次の行動へ意識が向く

    • 「努力が報われたなら、次はこうしてみよう」と、未来志向になりやすい。

  3. 自己効力感を高める

    • 「自分の行動次第で状況を変えられる」という感覚が育ちやすい。

Point:
・「勇気づけ」は相手を競争や比較から解放し、自分の軸を強化する
・努力の再認識が自己効力感を高め、行動意欲を継続しやすい
・「次はどうしよう」という前向きな姿勢が生まれる

5. 勇気づけのテクニック

 最後に、勇気づけのテクニックについて、少し応用編も含めて、野田俊作さんの「勇気づけの家族コミュニケーション」から、幾つか事例をお借りします。(分かりやすいように、言葉かけの例を簡潔にしています)

子供のテストの点数への対応

 高い点数であっても、低い点数であっても、「努力」に焦点を当てることで勇気づけになります。

高い点数の場合
「ねえねえ、96点も取ったんだよ」
「ずいぶん努力したんだね」

低い点数の場合
「今回、40点しか取れなかったんだ」
「それは残念だったね、でも、努力したからいいじゃない」

「点数の高低」でなく、「どれだけ頑張ったか」に目を向けるコミュニケーションが、相手を前向きにしてくれます。

欠点から「できている部分」へ

 いわゆるネガポジ変換をして、できているところに視点を移し、相手が元気になって、次も頑張れるように声がけをします。

「花の絵を描いたんだけど、あまりうまく描けなかった・・・」
「そうかあ、でも、デッサンがずいぶんしっかりしてきたね」

ネガティブな部分だけでなく、ポジティブな面を拾い上げることで、相手が「次も頑張ろう」と思える。

相手に判断を委ねる

 こちらの評価を一旦入れてしまうと、「押しつけ」になってしまいますので、一旦、相手に判断を委ねて、その上で、どこを勇気づけするかを決めます。

「花の絵を描いてみたんだけど、見てみてくれる?」
「どの部分が一番気に入っているの?」
「この葉っぱの部分を工夫してみた」
「なるほど、とてもすてきだね。私もここは好きだな。」

最初に自分の評価をしないで、「相手に考えを述べてもらう」のがポイント。相手は自分のこだわりや努力を認識でき、より自主性が育ちます。

Point:
・結果そのものより、努力や工夫に焦点を当てる
・「ダメなところ」より「できているところ」を強調してあげる
・相手の感想や満足度をまず尋ねることで、主体的なやり取りが生まれる

6. まとめ:タテではなくヨコで「勇気づけ」

 アドラー心理学における「勇気づけ」は、単なる会話スキルではなく「相手も変化できる存在だ」という前提に立った、生き方や姿勢」です。

  • ヨコ関係の意識を徹底する

  • 成果よりも過程や努力を認める

  • 「私たちは(私は)あなたのおかげで○○になったよ」というIメッセージで相手の貢献を感じる

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