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実験業務のOJT ここがポイント

 OJTで実験業を指導する際に、押さえておきたいポイントをまとめます。実験によるデータ創出は、多くの理系学生・理系職の方にとって根幹となります。この指導が上手く行くと、業務が上手く回りだし、人間関係がよりスムーズになっていく好循環を生み出します。


1. まず、OJTの関係性と目的を整理

 OJTとは、教える側(先生)と教わる側(生徒)へとノウハウ伝授を行うサービス提供である、という見方を私はしています。ですので、「一度きちんと説明して教えた」時点でお役目完了というよりは、「生徒がノウハウを駆使して、その実験業務を自力で出来るようになった」ことが目標です。

 ここを意識するだけで、一通りのOJTを完了した際に、「また、分からないことがあったら声をかけてね」「次に一人でやるときに、少しだけ横にいるからね」といった声かけが自然に出てくるようになります。

 ここを押さえるだけでも、OJTの質感が2割はアップするはずです。

2. 生徒側からの視点

 次に、生徒側からの視点で、「良いOJT」とは何かを考えていきます。今は教える先生側であっても、教わる生徒側であった時期は誰にしもあるはず。そのときに抱いた気持ちや感情が、OJTを良い方向に導く指標になります。

アジェンダが明確で見通しが良い

 ここで、「アジェンダ」という意味合いを、単に説明の順番や時間割だけではなく、広くとらえてみてください。例えば、

  • 実験に必要な試薬や機器の準備

  • 機器のマニュアルがあるのかどうか

  • 実験が上手くいく成功確率はどの程度なのか

  • 今日の終了時間は何時くらいを見込んでいるのか

  • 実験で得られたデータは最終的にどんな形にまとめるのか

 ここに書いてあることだけでも、事前にメモ書きの形で生徒側に示すことで、生徒側の先の見通しがクリアになり、結果として、「今、ココ」の目の前の説明や実験操作に集中ができてきます。

独り言:先生の頭の中には「流れ」が入っているけれど、生徒は何がどう進んでいくのか分からない。まるで、先の見えない山道のカーブを走らされている気分・・・そんな事がよくあります。

各説明が飽和しない大きさに分解されており理解しやすい

 初めてのことについて、メモを取る間もなく早口で説明されて、戸惑ったことが過去にありませんでしたか。最初のうちは必死に付いていくものの、「あっ、もう、これ以上は頭に入らない」というあきらめに近いモードに入る瞬間があります。

 これは、先生の話し方(スピード・声のトーン)や説明の分かりやすさに依るところが勿論大きいのですが、それ以上に、「頭のメモリが満タンになる少し前に、整理と理解の確認を入れているか」が効いてきます。

 説明が続くときには、できるだけ区切りを作って、「ここまでは、どう?」と聞いてあげてください。その際に、「大丈夫?」とか「理解できた?」というYesかNoかで答えられる質問だと、Yes側に誘導してしまいます。「どうだった?」「どの辺がポイントだと思った?」など、何らかのコメントを引き出す聞き方が、理解度の確認のために効果的です。

「できる」自分でいられるので、知識吸収をしやすい

 特に大学ではたまにあると思いますが、いわゆる部活っぽい、ビシバシとした指導をしている現場もあるのかもしれません。例えば、スポーツのフォームを指導するように、「ここを、こうして!ああして!」という形です。

 こういった指導形式は、先輩と後輩がよほど強い信頼関係で結ばれているときには、アリなのかもしれませんが、心理的には悪影響であることが示されています。例えば、リンク先の記事をご参照ください。

 最初のOJTでは生徒が上手くできることはまれですので、是非、「ここは手順通りにできているね」「そこに気が付けているね」という、事実ベースの淡々としたもので良いですので、ポジティブ側の声掛けをたまに挟んであげてください。

3. 先生側からの視点

 次に、先生側からの視点で「良いOJT」を考えていきます。

マインドセット(無用なイライラを抱えないために)

 少し変わった提案で恐縮ですが、「OJTはビジネス」と考えてみてください。先生であるあなたは、生徒が気分よく、効率よくスキルを身に付け、自律的に活動することを支える「ビジネス」をしていると考えます。

 そうすると、「これだけ説明しても分からないなんて」ですとか、「せっかく教えているのに、その態度は何だ」といった感情に目的達成を邪魔されずに済みます。

 先生であるあなたも、終始、イライラしながらOJTを進めるよりは、スッキリとした気持ちで、できれば生徒に感謝をされながら事を進めたいはずです。「これは、ビジネスであり仕事」というマインドセットが、あなたを助けてくれるはずです。

目的の確認、再確認を適度にして共通目標を持つ

 実験業務には、「どういったデータを、どのような精度で手に入れて、どうまとまっていれば良いか」というゴールイメージが、一定の予測性をもって存在していると思います。

 まず、ご自身の取得したデータでも、何か文献やテキストに載っているものでも良いのですが、「これを取りに行く」というゴールイメージを生徒に示し、共通目標を持ちます。

 この共通目標があると、お互いの行動に一体感が生まれますし、OJTが途中で迷走したときにも、「このゴールが欲しかったのだから、ここで軌道修正をしよう」と説明しやすくなります。

独り言:新人研修で、「感動を味わってもらおう(?)」という趣旨で、どんな結果を期待しているかをブラインドにしてOJT実施している例を見かけます。これは、目的を「感動体験」に置いているのか、「知識習得」に置いているか、に依るのでしょうね。

先生自身が良いコンディションであること

 これは、職場でも例えば機器のデモをした際にあることなのですが、説明する人が立ちっぱなし、昼食も取らない、小休憩も取れていない・・・といった事が多々見受けられます。

 先生であるあなたも、自分の仕事もある中で指導役を買って出ているので、やむを得ない部分もありますが、せめて、椅子が足りなくてもあなたは座る、昼休みの時間は予め決めておく、携帯のアラームをセットしておいて休憩を自分自身に促す、などの工夫をしても良いと思います。

 なぜ、これをお願いするかと言えば、先生であるあなたは、今回限りではなく、今後もOJTをし続ける必要があり、その度に消耗戦を強いられると、そのうちにOJTに対して悪感情を抱くこと。あと、生徒も、あなたの疲れを察して質問がしにくくなり、OJTの本来目的を達せなくなってしまうこと、があります。

4. OJT終了時に振り返りを

 長時間にわたるOJTの後で、さっさと片付けと帰宅をする、もしくは、自分自身の仕事に戻る前に、数分だけ「投資」をしてみませんか。以下の質問を交えながら振り返りをすることで、OJTの定着率は格段に高まります。

  • 今日を振り返って、どこが満足できた?逆に、足りないと思った?

  • 次に一人でできる自信は、どれくらいありそう?

  • 自分が教える立場に立つとすれば、どこにポイントを置く?

 いずれも短い質問ではありますが、生徒からの感想を聞くことで、「OJTの理解レベル」「一人立ちへの準備」「生徒から先生への転換マインド」を確認していくことができます。

 一通り聞いた後で、「卒業」と判断されたのであれば、それでOKですし、まだ少しサポートが必要そうであれば、それを申し出ても良いと思います。

独り言:OJTも回数を重ねてくると、「同じ説明を、自分は何回繰り返してるんだろう」という想いを抱くことはあります。そのマンネリ感を、振り返りの時間が和らげてくれるはずです。

まとめ

 理系の実験業務のOJTは長時間を要することも多く、また、淡々と作業を説明することに重点が置かれますので、そんな中でも、ここだけを押さえることで質の高いOJTができる、というポイントを書きました。

 OJTを通じて強固な人間関係が築かれることもありますので、是非、充実した時間を過ごされることを願っています。

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