見出し画像

「人を動かす50の物語(M・パーキン)」

 「人を動かす50の物語(M・パーキン)」をご紹介します。この本は、短い物語を通じて、目標設定・行動計画・実行のための動機付けのヒントを得られる書籍になります。この記事では、その中から3つの物語をご紹介しながら、考察を深めていきます。

「無知な泥棒」自分の価値を目標に反映する

 以下の無知な泥棒という小話は、目標を設定するにあたり、自分自身の価値提供を客観的にとらえる重要さを説いています。

これは素晴らしく立派なコートを盗んだ大昔の泥棒の話である。そのコートは最高の素材ばかりが使われており、ボタンにいたっては金と銀でできていた。

市場の商人にコートを売って帰ってきた泥棒に、親友はいくらで売ったのかと尋ねた。 「銀貨百枚だ」泥棒は答えた。 「あのすごいコートをたった銀貨百枚で手放したっていうのか?」友達が聞いた。 「百以上の数なんてあるのかい?」泥棒が聞き返した。

 窃盗という犯罪行為に絡めたエピソードですので、どうかとも思うのですが(笑)。この話からは、目標を設定するにあたって、自分の持っているリソースの価値をどう見積もるかがポイントになることを示しています。

 すなわち、自分の有するものに高い価値を見出していないと、その対価としての成果が正当に評価できませんので、高い目標を設定するのは難しくなります。自己肯定感の重要性は、こういったところにも表れてきます。

「鎖に繋がれた象」思い込みが足を引っ張る

 次の小話は、自分が意識する事すら忘れたブレーキに気づかせてくれます。

サーカスや動物園の象を見て不思議に思ったことはありませんか? 七メートルもある大きな象と、人間の膝くらいしかない小さな赤ちゃん象が、小さな杭に取り付けられたまったく同じサイズのチェーンにつながれているからです。

大きな象と小さな象を同じように扱うなんて、まったく非論理的だと思えます。成長した大きな象には、赤ちゃん象よりもずっと大きくて頑丈なチェーンをつけるべきだと言いたくなります。大人の象なら、その気になれば、単に歩くだけで、ちょうど人がひな菊を引き抜くように、何の苦労もなく地面から杭を引き抜くことができるし、小枝を折るようにチェーンを切ることもできるはずです。

そこがポイントなのです。成長した象は、自由になるために頑張ることがどのようなものかを忘れてしまったのです。ずっと昔、赤ちゃんだったころに、どんなに頑張っても閉じ込められたままで自由にはなれないと思い知らされたのです。

すっかり大人の象へと成長し、成人男子十人分の力を持つようになっても、象は自分を自由にはなれない囚われの存在だと思い込んでいます。頑張ることはもうあきらめたのです。

絶え間なくチェーンを引っ張っている赤ちゃん象は、まだ、成功しようという意欲があります。 そして成功できるという信念も持っているのです。

 この話から、二つの教訓を考えてみました。①日常の取るに足らない制限のせいで、自分は挑戦ができない、自由に行動できないと思い込んでいないか。②既に成長した(成人した)自分であっても、過去の出来事にとらわれてしまい、上手く行かないのをその過去のせいにしていないか。

 「成長すればするほど、力をつければつけるほど、自分は自由に、伸び伸びとふるまえる」そう考えてしまってはいないでしょうか。実際には、その逆になっていることにも気づかずに。

「want toがhave toになったとき」

 最後に紹介する小話は、人の行動の動機について、ある側面を言い当てている気がします。

娘が学校から帰ってきて言った。 「パパ、学校中の女の子が爪をかんでいるの。だから私も流行についていきたいの」 私は娘にこう言った。

「そうだな、君も確かに流行についていくべきだろうね。女の子にとって流行っていうのは本当に大切だと私も思うよ。君は他の女の子よりずいぶん遅れているよ。みんな練習を積んでいるからね。だから、君が他の女の子たちに追いつく一番の方法は、毎日じゅうぶんに爪をかむことだと思うな。一日に三回十五分ずつ、毎日時間を決めてしっかりかめば追いつけると思うよ」

娘は最初すごい意気込みで毎回時間どおりに取り組んだ。それがしばらくすると、遅めにはじめて早めに終わるようになった。そしてついにある日こう言った。 「パパ、これからは学校の新しい流行を追いかけることにするわ。長い爪よ」

 こういったことがありますので、私は自分の生活習慣を人に語る際に、ためらうことがあります。宣言をすることで、自分の中の「want to」が義務感を帯びた「have to」に変わり、せっかくの習慣が途絶えたり減速することを恐れるため、です。

 「want to」が「have to」になってしまうスピードは異常に早いのですが、その逆は、とても緩慢に感じます。その緩慢さも織り込みながらコツコツと積み上げていくことで、習慣が手に入るのだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?