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アルバート・エリスのカウンセリングを見て驚いた!(4)

 前回の記事(3)では、グロリアが持っていた非合理的ビリーフへの幾つかの気づきが得られました。また、その中でも自己受容感の低下が彼女の悩みの根本なのではないか、との指摘もアルバート・エリスからされました。

 今回の記事では、いよいよ、その非合理的ビリーフに切り込んでいき、新しいビリーフを獲得していく段階に入ります。対話のほとんどをカウンセラーであるアルバート・エリスが話してしまっているのが気になりますが、誰もが抱きがちな考えに対しての説諭ですので、ある種のレクチャーだと思ってみて頂けると良いかと思います。


悪いところばかりを見ていませんか?

 自己受容感低下の原因の一つとして、「できていないところだけを見ている、他にできているところはたくさんあるのに」という側面があります。以下の対話は、「傷ついた腕」という比喩を使いながら、そこを説明しています。

グロリア:でも彼は単に私のことが好きではない、私には魅力が足りないんです。

アルバート・エリス:そうですね、そして先ほど言ったように、もし人々があなたのことを好きではなくて、十分な数の人と出会えば(それは大変かもしれませんが可能です)、最終的にはあなたのことを好きになってくれる人、そしてあなたも好きになれる人を見つけられるでしょう。でも、あなたが自分の目で自分自身を過小評価し続ける限り、問題は相当に複雑になり、「どうすれば自分らしくいられるか」ということに焦点を当てられなくなります。特性を変えるのです。例えば、仮にあなたが傷ついた腕を持っていて、その傷ついた腕のせいで自分という存在全体を受け入れられないとしたら、その傷ついた腕にあまりにも焦点を当てすぎて、本来できるはずのことまでできなくなってしまうでしょう。

グロリア:まさに私がしていることですね。

アルバート・エリス:そうです、その通りです。つまり、あなたは自分の一部分、腕のようなものを取り上げて、そのことばかりに焦点を当てているんです。そして私たちの会話に戻すと、あなたは自分の一部分、つまり恥ずかしがり屋で男性の前で本来の自分になれないという部分を取り上げ、その部分にあまりにも焦点を当てすぎて、それをほとんど自分の全体のように扱っています。そしてこの欠点のある部分のために、自分全体について酷い印象を持ってしまっているんです。そして私たちは、あなたと私は、それが欠点であると仮定しています。私たちは「ああ、あなたはうまくやっていますよ」と取り繕っているわけではありません。あなたはそれほどうまくやれていないんです。

グロリア:その通りです。

アルバート・エリス:もしあなたが当面の間、この欠点のある部分、これらの特性を持つ自分を受け入れ、自分を責めることをやめられれば(私が感じるところでは、あなたは明らかにそうしているのですが)、この否定的な特性に対して取り組み、練習することは比較的単純な問題となります。言い換えれば、今一度、どうすれば自分らしくいられるかという点に戻りましょう。今仮に、あなたが自分の欠点を含めて完全に自分を受け入れているとしましょう。

グロリア:はい。

 「自分の欠点も含めて受け入れられないから、実態以上に自分のことを酷く自己評価してしまい、結果として、自分らしくいれないのではないですか」、との問いかけです。グロリアは、ほとんど話していませんが、強くも反発していませんので、まあ、一定の納得はしているのだと思います。

自分らしくいないことの帰結を諭す

 ここで、アルバート・エリスはもう一つ、保険をかけます。仮に、グロリアがこのまま「自分らしくいない」ことを続けたら、その帰結がどうなるかを想定して語っています。

アルバート・エリス:あなたはデートに行って、おそらく次の男性や、その次の男性とも上手くいかないだろうということを知っています。でもあなたはこう言うんです:「よし、これは学習プロセスを経なければならない、それは残念だけど。この間はあまり上手くできないだろうけど、アイススケートを学ぶ時のように、数回転んでから滑れるようになるように、やってみよう」と。いいですか、そう考えてみましょう。もしそうなら、もし本当に自分を受け入れているなら、あなたは自分らしくいるリスクを取るでしょう。なぜなら結局のところ、もしこれらの男性の一人を獲得するなら、あなたは自分らしくいなければなりません。一日のためだけでも、一時的な関係のためでもありません。私が思うに、あなたは最終的にこれらの人々の一人と結婚して、長く一緒にいたいと考えているのでしょう。

グロリア:でも、主に長期的な関係ですね。結婚というよりは、長期的な関係を考えています。

アルバート・エリス:そうですね、長期的な関係、その中では演技し続けることはできません。だから、後で演技だったとわかるような上手な振る舞い方のテクニックをあなたに教えるわけにはいきません。

グロリア:その通りです。

アルバート・エリス:だから、最終的にはあなたは自分らしくいなければならないんです。もし現在のこれらの失敗についてそれほど悩まないのであれば、あなたは出かけていって自分らしくいられる、そして自分に問いかけられる:「この人と本当に何をしたいのか、お互いを楽しめるようにするために」と。なぜなら、それが人生の基本的な機能、つまり私たちが見失いがちな楽しみだからです。そして、自分らしくいるリスクを取ることを自分に強いるのです。なぜなら、成功すれば素晴らしいし、失敗しても仕方ないからです。あなたが彼に合わないか、彼があなたに合わないかもしれない。なぜなら、忘れないでください、あなたは以前、これらの男性があなたを拒絶するとき、すぐに「これは私のせいに違いない」と思い込むと言いました。でも彼らがあなたの好みではないかもしれないし、あなたが彼らの好みではないかもしれない、そしてそれは誰の責任でもありません。それは単なる相性の不一致なんです。

グロリア:はい、そうかもしれませんね。

アルバート・エリス:分かりますよね。

グロリア:ええ。

 仮に、グロリアが自分らしくいないことを選択し、そのおかげで好みの男性と付き合えたとしても、その男性と長期的な関係を続けていくにあたり、自分らしさを捨てた演技は続けられないでしょう?とアルバート・エリスは問うています。

 で、さらに、自分らしく振舞ったうえで、理想の男性との付き合いに至らない場合は、それは、単に相性の問題で、誰の責任でもないですよ、とも言っています。

本来の目的に沿った行動への変容を導く

 そして、次の対話で、これまでグロリアが取ってきた、「好みの男性の前で自分らしさを捨てて振舞う」ことが、本来目的からすると非効率な方法であることを説明しています。

アルバート・エリス:だから、もし本当に今のままの自分を受け入れ、そして自分を強制できれば...もしあなたが私の定期的な患者の一人なら、この宿題を出して、あなたが自分の口を大きく開いて、しばらくの間自分らしくいられるかどうかをチェックするでしょう。たとえそれが男性たちとの関係で傷つくとしても、あなたは次のことに気づくでしょう。まず、自分らしくなり始め、徐々にこれらの非効率的な部分を取り除いていけるということです。ちなみにこれらの非効率さは、自分らしくいないことの結果であり、自分らしくあろうとしながら外から自分を観察していることの結果なんです。これはほとんど不可能なことです。なぜなら、同時に自分を監視しながら自分らしくいることはほとんどできないからです。

グロリア:そうですね、でもそれは習慣のようになるでしょう。

アルバート・エリス:しばらくすれば、もしリスクを取り、私が言ったように自分を強制して大きく口を開き、たとえ「うまくいかないかもしれない、彼は私のことを好きにならないかもしれない、完全に彼を失うかもしれない」などと思っても、あなたは自分の望む姿になり始めるでしょう。そして私はほぼ確実に言えますが、あなたはより練習を積み、特に恥ずかしさの面で、非効率さが減っていくでしょう。なぜなら「ああ神様、私がこんなにひどいなんて酷いことだ」ということに焦点を当てなくなるからです。あなたは「なんて素敵な人なんだろう、どうすれば彼を楽しめるだろう」という、関係の本来の目的に焦点を当てることができるようになります。

グロリア:つまり、私の焦点は反対の方向を向いているということですね。

アルバート・エリス:その通りです。

グロリア:どうすれば彼にとってより魅力的になれるか、どうすれば彼を喜ばせられるかということですね。

アルバート・エリス:なぜなら、その根底には「もし私がそうでないなら、自分自身を楽しむことができない。この素晴らしい人を魅了して獲得しない限り、自分を受け入れることを拒否する」という考えがあるからです。これがあなたが基本的に言っていることではないですか?

グロリア:はい、エリス博士、私はさらに先に進んでしまうんです。このようなタイプの男性と接触して、もっと関係を深めたいと思うとき、もし彼が私を受け入れて、とてもうまくいっているように見えても、常に防衛的になってしまいます。常に自分の座り方を気にしたり、お酒を飲みすぎないようにしたり、「彼は私のことが好きになるか嫌いになるかのどちらか」とリラックスして考える代わりに、ずっとそういうことを気にしています。

アルバート・エリス:心理療法における感情ですね。あなたは他者志向が報われない理由の非常に良い例を示しています。なぜなら、もし本当に他人のあなたに対する評価によって自分を定義しているなら、たとえゲームで勝っていて、彼らを獲得できているときでさえ、「今日は彼らを獲得できるだろうか、明日は獲得できるだろうか、獲得し続けられるだろうか」と自問し続けなければならないからです。そしてあなたは常に「彼を喜ばせることができているだろうか」ということに焦点を当てていて、決して自分らしくなれず、自分自身を持てないんです。一方で、「人生で何がしたいのか、今のままの私を好きになってくれる人がきっといるはずだ、この人がそういう人かどうか見てみよう」と考えるなら、それがあなたがなれる唯一の道なんです。分かりますか?

グロリア:はい。

この対話を振り返ると、三段階でしょうか。

  • 前半部分で「自分らしくいないように自分を監視することで、恥ずかしさという本来目的には役立たない非効率を生み出している」

  • 中盤では「目の前の彼を手に入れなければ自分は無価値、という考えがあるのではないか」

  • そして後半部分で、「目の前の彼を喜ばせようという他者志向が強すぎて、自分の人生をどう楽しむかの焦点がぼやけた結果、自分らしさや自分自身を持てていないのでは」

そのうえで、「人生で何がしたいのか、今のままの私を好きになってくれる人がきっといるはずだ、この人がそういう人かどうか見てみよう」と考えてはどうですか?と提案をしています。

ビリーフの書き換えを図式化すると

 このビリーフの書き換えを図にすると、以下のようになります。

 なるほど、今の自分に対する自己評価について、一部の欠点ばかりを取り上げて許容できない。なので、対人関係上の緊張(グロリアの場合は恥ずかしさ)に繋がってしまっている。

 その結果、自分らしさの表現という、(上手く行っても行かなくても)、長期的なお付き合いに必要な行動を発揮できず、かつ、目の前の彼を手に入れなければ人生おしまいという不安に支配されている、とのことでした。

 そこから抜け出すには、自分らしさを発揮して付き合えなかったとしても、それを学習プロセスとして捉える、という前提も必要になります。

 次回は、ここまでの対話を踏まえてアルバート・エリスがグロリアに宿題を出すところと、アルバート・エリス自身のセッションの振り返りを取り上げます。

他にどんな記事があるのかな、と思っていただけた方は。


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