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アルバート・エリスのカウンセリングを見て驚いた!(3)

 前回の記事(2)では、グロリアの訴え(平凡な女性である私は、理想の男性と付き合えないのではないかしら)を聞きながら、彼女の持っているであろう非合理的ビリーフ(そんな最悪な状況には耐えがたい!)をアルバート・エリスが探索していく対話を見て頂きました。

 今回は、その続きで、グロリアがそこを起点にビリーフを更にこじらせていませんか、とアルバート・エリスは対話を進めていきます。彼はここでは「破局的思考」と呼んでいるものについて、切々と説いていっています。


破局的思考の概念導入と真実との切り分け

 さっそく、対話の続きを見ていきます。

アルバート・エリス:まあ、あなたが決して手に入れられないというのは、必ずしもそうとは限りません。あなたが本当に言いたいのは、チャンスが減るだろうということですよね。私たちは、魅力的でない女性が素晴らしい男性と結ばれるケースを知っていますよね?

グロリア:はい。

アルバート・エリス:ご覧の通り、あなたはそこで一般化しているんです。もっと困難になるだろうと言っているのに、そこから「だから決して手に入れられない」という結論に飛躍しているんです。

グロリア:そうですね...

アルバート・エリス:そこにある破局的思考への飛躍が分かりますか。

グロリア:はい、でもその時はそう感じるんです。永遠に続くように思えます。

アルバート・エリス:その通りです。でもそれは、あなた自身への不信任票ではないですか?本質的な不信任票では?

グロリア:はい。

アルバート・エリス:そしてその自信のなさは、一つには、「私は機会を逃したくない。私は望むような男性を得て、あなたの言葉を借りれば、優れた男性を得る優れた女性になりたい」と言っているからです。

グロリア:はい。

アルバート・エリス:でももし私がそうならなければ、完全に反対側の極端な立場、つまり「何の価値もない人間で、望むものは何一つ得られない人間」になってしまう、というのは、かなり極端な考え方ですよね?

グロリア:...はい。

アルバート・エリス:これが私が破局的思考と呼ぶものです。真実の陳述、そしてあなたの言っていることにはかなりの真実があります。望むような男性が得られないことは不便で、イライラして、欲求不満になるでしょう。それは本当にそうでしょう。しかしそこから「私は決して望むものを手に入れられないだろう」と言っているんです。そしてさらにその先で、あなたは実際には「そうなったら私は幸せな人間にはなれない」と言っているんです。あなたは何かのレベルでそう言っているのではないですか?

 このパートは、ほとんどをアルバート・エリスが語っていますね。実際の動画を見ると、エリスも身振り手振りを使いながら、あたかもレクチャーのように語っているのが分かります。グロリアは、この時点では眉間にしわを寄せて真剣に聞き入っている様子です。

 アルバート・エリスは、グロリアの語っていることに多分の真実が含まれていることは認めながらも、「私は幸せになれない人間」という破局的な思考を抱いてしまっていませんか、と説きます。

 この次の対話では、グロリアとしては、自分の立ち位置を明確化しようとしています。

グロリアの反論

 言われっぱなしも嫌だったようで(?)グロリアは、自分自身の考えを明確にする形で反論を試みます。

グロリア:はい。

アルバート・エリス:でも、それについて考えてみましょう。バートランド・ラッセルが何年も前に言ったように、最悪の事態を想定してみましょう。どんな理由であれ、あなたが望むような男性に決して出会えないという最悪の事態を想定してみましょう。人生で幸せになるためにできる他のすべての事について考えてみてください。

グロリア:でも、このプロセス全体が好きではないんです。今まさに経験している途中でも好きではありません...そうですね、たとえそれが破局的なことでなかったとしても。

アルバート・エリス:ええ。

グロリア:たとえそれを破局的なことと考えなかったとしても、今の私の生き方が好きではないんです。例えば、私が興味を持っている、可能性のある人に会うと、すぐにその人との間でリラックスできなくなってしまいます。フレンドリーに振る舞うべきか、おやすみのキスをすべきか、これをすべきかなど、より多くの心配をしてしまいます。でも、ただの平凡な人で、気にもかけていない人なら、私は好きなように振る舞えます。気にしすぎていない時の方が、より自分らしくなれるんです。私は今の自分の在り方が...

アルバート・エリス:でもあなたは本当の意味で気にかけているのではなく、過度に気にかけている、つまり不安なんです。もし単に気にかけているだけなら、最善を尽くして、自分にこう言い聞かせるはずです:「もし成功すれば素晴らしい、もし成功しなくても仕方ない、今は望むものを手に入れられないだけだ」と。でもあなたは過度に気にかけている、つまり不安なんです。あなたは実際には、先ほど話したように、「もし今望むものを手に入れられなければ、決して手に入れられないだろう、そしてそれはとても恐ろしいことだから、今すぐ手に入れなければならない」と言っているんです。それが不安を引き起こしているのではないですか?

グロリア:はい、そうでなければそれに向かって努力するとか。

アルバート・エリス:ええ、でももしあなたが...

グロリア:今すぐ手に入れられなくても大丈夫です。ただ、それに向かって努力しているという実感が欲しいんです。

アルバート・エリス:ええ、でも私の聞き取れる限り、あなたは保証を求めているんです。私の訓練された耳には、あなたが「それに向かって努力することの保証が欲しい」と言っているように聞こえます。でも、確実性や保証というものは存在しないんです。

 グロリアは、この場面でバッグから煙草を取り出して、吸い始めます。かなりの速度で、あれこれ言われたのでストレスを感じたのかもしれません。

 グロリア自身は、自分が「破局的思考」を抱いているとは思いたくなかったようで、自分の生き方の問題(自分らしくありたい)ですとか、前向きに努力をしている実感が欲しい、という形で反論を試みますが、そこに対してアルバート・エリスは、「結局、確実に手に入れたい、保証が欲しい、そうでなければ破滅的だ」と思っているのではないの?と更に追撃します。

 すごいですねー。カウンセリングではない普通の対話であれば、相手はプンプン怒って、どっかに行ってしまいそうです。

自己受容感低下への指摘

 ここで、会話はセッショントピックの本質的なところへと向かいます。自己受容感が低下していることが問題の根っこなのではないか、という形で切り込んでいきます。

グロリア:いいえ、エリス博士、なぜ私がそのように聞こえるのかわかりません。私が本当に言いたいのは、それに向かって努力する一歩を踏み出したいということなんです。

アルバート・エリス:では、何があなたを止めているんですか?

グロリア:わかりません。私が期待していたのは、私の中にあるこの何かが、なぜこういうタイプの男性を引き付けられないのか。なぜ私はより防衛的になってしまうのか。なぜもっと恐れているように見えるのか...私が何を恐れているのか、あなたが教えてくれれば、それほど恐れなくて済むかもしれません。

アルバート・エリス:そうですね、私の仮説では、あなたが恐れているのは、ある特定の男性との失敗だけではありません。これが新しい出会いで問題になる唯一のことなのですが、今は適格な男性について話していますよね、不適格な人は除外しましょう。あなたはこの一人を逃すことだけを恐れているのではなく、この人を逃せば他のすべての人も逃してしまう、そしてそれによって自分が望むものを手に入れる資格がないことが証明されてしまう、そしてそれは恐ろしいことだ、と考えているんです。あなたはこれらの破局的な考えを持ち込んでいるんです。

グロリア:まあ、あなたの言い方の方が強いですが、似たような感じです。このままではバカげていると感じています。私は何かをしているんです。興味のある男性たちに対して、本来の自分らしくない何かをしているんです。

アルバート・エリス:その通りです。あなたは自分の目的を自ら打ち砕いているんです。

グロリア:また同じことをしてしまいました。もしこの人を捕まえようとすることにこれほど不安を感じなければ、もっと自分らしくいられるはずです。どちらにしても、私が本来の自分らしくいる方が、彼は私のことをもっと楽しんでくれるはずです。だから、私は自分の嫌な部分しか見せていないんです。

アルバート・エリス:その通りです。

グロリア:私が本当の自分を見せないとき、私が尊敬できる人が、こんな見せかけの私を尊敬するわけがありません。

アルバート・エリス:でも、今あなたが自分をどれだけ過小評価したか見てください。議論のために、あなたが嫌な部分だけを見せ続けるとしましょう。

グロリア:はい。

アルバート・エリス:一人の人間として、あなたに興味を持とうとしている人は、あなたのこれらの特性や性質を好まないかもしれません。でも、あなたが自分自身にしているように、一人の人間としてのあなたを軽蔑することはないと思います。

グロリア:私は、彼が思うよりも自分に厳しいんですね...

アルバート・エリス:それがまさに要点です。

 ここまでの対話でアルバート・エリスが一貫して発しているメッセージは、「目の前の理想の男性との付き合いがうまく行かないと、それですべてが上手くいかないと思ってしまっていない?また、その一点が上手くいかないと、自分は価値の低い人間だと考えている節はない?」なのだと思います。

小括:セッションの流れの図示化とグロリアの抱いているビリーフ

 まだセッションは続くのですが、ここで、グロリアの問題の本質的なところまでは辿り着きましたので、一旦、小括をします。

 まず、セッションの流れを図示すると以下のようになります。

 グロリアの当初の課題としては、「理想の男性の前では自分が劣っているように思えて恥ずかしい」だったのですが、そこに対して、非合理的ビリーフの存在を指摘し、また、それが破局的思考(自分には価値がない、幸せになれない)を生んでいるのでは、とアルバート・エリスは指摘をしました。

 そこでグロリアに気づきがあり、自分の価値を低く見ているので、本当の自分らしさを男性の前で出せていない、という事に思い至った、というところまで来ています。

 また、この時点でグロリアの非合理的ビリーフは以下のように分類されます。ここまで10分弱の対話なのですが、膨大な情報量ですね・・・

自己価値に関する絶対的評価
「私は彼の期待に応えられない」
「私には彼を魅了するだけの十分なものがない」
「私が単なる平凡な女性かもしれないなんて考えたくない」
過度の一般化
「私のタイプではない男性にしか魅力的に映らない」
「私は望むものを決して手に入れられない」
「一度の失敗が全ての機会の喪失を意味する」
破局的思考
「もし私が平凡な女性だったら、私はダメな人間だ」
「残りの人生を魅力的でない男性たちと過ごさなければならない」
「この機会を逃したら、永遠に望むものは手に入らない」
完璧主義的要求
「私は自分をもっと高い基準に置きたい」
「優れた男性を得る優れた女性にならなければならない」
「今すぐ手に入れなければならない」
条件付き自己受容
「望むような男性が得られなければ幸せになれない」
「理想の男性に認められなければ価値がない」
「平凡であることは受け入れられない」
確実性の要求
「成功の保証が欲しい」
「努力することの保証が必要」
「確実な結果が見えない限り行動できない」

 そして、上記の非合理的ビリーフが、以下の悪循環を生み出しています。

完璧への要求 → 失敗への恐れ
失敗への恐れ → 防衛的な行動
防衛的な行動 → 本来の自分を見せられない
本来の自分を見せられない → 望む結果が得られない
望む結果が得られない → 自己価値の否定
自己価値の否定 → さらなる完璧への要求

 ここでセッションの前半まで来ました。後半は、ビリーフの書き換えを含む解決編へと入っていきます。続きは記事(4)で。

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