[ 後編 ]一人一人が素直に生きられる世界を目指して|自由丁オーナー・小山将平|ぼくらの現在地vol.3
学校を卒業して社会に放り出されて数年経つ30歳前後は、長い人生のモヤモヤ期とも言われます。今までと生き方がガラリと変わったこの時代に、モヤモヤを抱えながらもいろんな領域を横断している彼らが、どんなことを考えて、どう仕事をして、どう生きているのかを教えてもらう連載です。彼らの現在地と今の時代を照らし合わせて、これからの生き方を探っていきます。
第3回目は蔵前にある「未来の自分へ手紙が送れる」お店、自由丁オーナーの小山将平さんにお話を聞いてみました。後編では、自由丁を作ったきっかけから、小山さんがこれからやっていきたいことまで、お話が尽きません。
[小山さんのこれまでの道のりをたっぷり伺った前編はこちらから]
自分「だから」できることが
世界を前進させていく
ー自由丁という場所を作ろうと思ったきっかけはなんですか?
小山将平(以下、小山) 会社の企業理念が、「一人一人が素直に生きれる世界をつくる」なんですけど、自分のやりたいことをいくら言葉にしても伝わらない。「こういうことをしたい」と伝えるためには、まずは場所が必要だと思って。それにTOMOSHIBI POSTの価値を一番伝えられるのは、やっぱりリアルでの体験だなと。実際に場所を作ってみたら、手紙を書いている人の後ろ姿って、なんて綺麗なんだと感動しました。没頭して自分の世界に入り込んでいる姿が本当に美しい。幸いにもみんな、「すごく楽しかった」「いい時間でした」と言って帰っていってくれます。1年後に手紙が届くとまた書きに来てくれたり、友達を誘って来てくれたり。僕のやっていることは、誰かのためになっていると目に見えるので、場所が持つ力ってすごいなと思いますね。
ー蔵前にお店を出したのはなぜですか?
小山 友達と蔵前でシェアハウスをしていた時期があって、蔵前のお店やカフェによく通っていたんです。だから人柄もわかるし、蔵前にいる人たちは根を張って生活を営んでいるなと肌で感じていました。東京だけど、肩肘張らない自然体な街で、シアトルの風景とも近しい気がして。あと、みんな歩くスピードが遅いんです。みんなが好奇心を広げて歩いているから、猫を見つけると立ち止まるんです。渋谷や新宿だと、横道に猫がいることにすら気づかないじゃないですか。それに、文房具やカバンといった「モノ」を扱うお店が多いので、「体験」にフォーカスをあてた自由丁はこの街においてユニークだし、だからこそ貢献できるのかなとも思って。
ー「繋がる本棚」もまさに体験ですもんね。どうやって思いついたんですか?
小山 友達のアイデアでした。もともと自由丁は、楽しくやっていきたかったから、いろんな人たちと作ろうと決めていたんです。友達に声をかけてみたら、大変だろうにみんな集まってくれて。トンカチやくぎぬきなんて持ったこともなかったけど、一昨年のゴールデンウィークに集まって、夜な夜な大工をやっていました。プロの大工さんは1人だけ頼んでいたから体裁だけは整えてもらったんですけど、解体作業はほとんどみんなでやりましたね。
そのプロセスを経験したから、本棚も自分の蔵書を増やしていくんじゃなくて、みんなで作っていければ自由丁らしいかなと思ったんです。募集をかけて寄贈してもらおうかと考えていたら「交換制の本棚はどうかな?」と友達が提案してくれて。それだ!と、その晩にアイデアを固めていきました。自分が交換制の本棚をするなら、どういう本棚がいいだろう?次に手に取る方へのお手紙が入っていて、本の交換を記録しておいて、最後はwebで一連の流れを見ることができる。そういう本棚ができたら素敵だよなと想像して。それなら僕だからこそできるものだし、僕がやりたい本棚になると確信しました。
ー自分がやりたいとか、自分だったら何を嬉しいと感じるかが起点になっているんですね。
小山 自分への期待が過度にあるので、どこかで聞いたものや普通だよなって思ってしまうものは作れないですね。周りには、文房具を作ればいいじゃんってすごく言われるんですよ。自由丁なんだから「自由帳」作ればとか。たぶん売れるんだろうけど、誰にでも作れるようなただの自由帳を作るのは絶対に嫌だ!と思います。人類はそれぞれがいろんな試みをしてきたからこそ、新しい文化が生まれたし、進歩してきたんだと考えています。僕もその内の1人であるならば、なるべくユニークなことをやる方が、結果的に社会を前進させることになると信じています。失敗であれ成功であれ役に立つはずだから、なるべく僕にしかできないことをやれたらいいなと常に考えていますね。
ー最近、新たなプロダクトとして「Calendar Letter」が始まりましたね。
小山 僕の弟が友達と作ったプロダクトをベースに、月に一度送られてくるレターセットの定期便として始めました。手紙の片面が1ヶ月分のカレンダーになっていて、その日にあったことや予定を書き込めるんです。それを遠くで暮らしている家族や恋人に送ると、普段は一緒にいないけど、日々を垣間見ることができる。手紙を書くよりもハードルが低いですしね。そこに自由丁で取り扱うんだったらと、未来の自分にも送れるようにしたり、月に一度みんなで振り返りをする月読倶楽部というイベントを開催したりと、自由丁だからこその体験を加えました。
ー小山さんが作ったと言われても違和感がないくらい、自由丁との親和性が高いですね。育った環境が同じだから考え方が似ているんでしょうか。
小山 タイプはめちゃくちゃ真逆ですね。単純に説明すると弟が左脳のロジカルタイプで僕は右脳の芸術タイプなんです。弟は東大を出た後に外資系コンサルに就職していて、受験勉強がめちゃくちゃ得意なタイプ。世渡り上手だし、人生の行く道を主体的に選んできていると思います。僕はどちらかというと、ここまで流れ着いたという感覚の方が大きくて。弟は文章も絵も描かないし、性質はまったく別ですね。
ーでもお互いにシンクロするようなプロダクトを作っているのがおもしろいですね。
小山 ようやく、こういうプロダクトを作ってきたか!と思いました。弟は頭で考えすぎているきらいが大いにあったけど、自分の直感を信じ始めたなと。
ーこれから一緒にやっていく可能性はあるんですか?
小山 今のところないですけど、でもどっかで交わったらおもしろいかな。僕や弟の周りでは、小山兄弟をいつかフィーチャーしたいと思ってくれている人たちが結構いて。勝手に「小山兄弟研究家」を名乗っている友達もいたり(笑)。兄弟揃って何をしでかすかわからないのが、おもしろいみたいです。
一人一人を肯定していく街づくり
ーこれからはどんなことをやっていきたいですか?
小山 TOMOSHIBI POSTを作ったときに、コンセプトストーリーを書いたんです。一人一人が自然体で素直に生きている街があったなら、その街ではどんなサービスや建物があるんだろう。どんなお店が連なっているんだろうって。そのイメージをひとつずつ形にしていきたいですね。サービスって受け皿だと思うんです。僕の作る受け皿には、不安を解消したかったり、言葉にはできないけど必要だと感じている人が来てくれる。この受け皿があってよかったと思ってくれる人が、1人でもいる限り、街を作り続けていきたいですね。
それに街には境界がないのも、すごくいいですね。どこまで歩いたら蔵前で、どこからが浅草なのかなんて、普段は意識しないじゃないですか。誰もが立ち入ることができて、そして去っていくことができる。気が向いたらまた来ればいいし、何回だって来てもいい。ずっといたっていい。わたしはこの街じゃないなと思ったら違う街に行ってもいい。
ー自由丁のラジオで、世の中で選ばれない人をどうにかしていきたいとお話されていましたね。
小山 世の中には、選ばれる人よりも選ばれなかった人の方が圧倒的に多いじゃないですか。でも選ばれた理由って、大いに偶然が含まれている。僕も偶然、自分が書いた言葉を全肯定してくれる人に出会えたから、生き生きと自分の言葉を探求できている。でもそうじゃない道もあっただろうし、そうじゃない時期もありました。noteでも何百いいねが付いて、何万人という人に読んでもらえる文章がたまたま生まれているその裏で、読んでもらえないけど美しい文章も毎日100件、200件と生まれている。そういう、すくわれない言葉たちの受け皿になって、その言葉や表現には価値があると肯定していきたいです。
ーアーティストへの支援もその一環ですか?
小山 そうですね。好きなことを全力でやって“自分”を生きているアーティストを尊敬していますね。それに、手紙とアートって似ていて。自分の気持ちを素直に表現しているものって人の心を動かすし、そういうものが世の中に増えるだけでも、素直な気持ちで生きられる人も増えていくんじゃないかと信じています。荒削りでも自分の気持ちを表現しようとしている人たちを、小さくても、たった1人にでもいいから伝えていきたい。そして広げていきたいです。
ー5年後は何をしていると思いますか?
小山 何年後にどうしているかっていう具体的な目標はあまり立てないんですけど、やりたいことはたくさんあります。まずは歌詞を書いてみたいですね。milet(ミレイ)っていう女性シンガーソングライターの方がすごく好きなんです。僕が書いた歌詞をこの人が歌ってくれたら、どんな気持ちになるんだろうとわくわくします。あとは、「繋がる本棚」だけの本屋さんもやりたいな。人の存在を感じられるプロダクトになったなと思っていて。
ーそうですね。本を交換することによって記憶が渡っていくというか。読むだけじゃないコミュニケーションが生まれていますね。
小山 読書と手紙を書くことって、とても近しいなと思うんですよね。それはつまり孤独になるってことじゃないですか。読書しているときは1人だし、未来の自分へ手紙を書くことも、誰かに手紙を書くよりもはるかに孤独な行為。そんな孤独な体験をしにきている時点で、孤独でありたくないという矛盾をはらんでいて、それがすごく人間らしいなと(笑)。「繋がる本棚」も、その先の繋がりを期待している。つまりは孤独も望んでいるけど、周りの人とも一緒に生きていける社会も望んでいる。そう在れる街を作って、住めたら最高だからホテルもやりたい。
ーホテルいいですね。
小山 カラオケBOXもやりたいです。あれも素直な気持ちを表現する身体的な行為じゃないですか。作るときは、地元のよく行くカラオケ店の店長を引き抜こうと企んでいます(笑)。カラオケ店の店長なのに「僕カラオケ嫌いなんですよ」と言ってぜんぜん歌わないんです。だからこそめっちゃ接客がいいし、人当たりもいいし、おもしろいなって。当然本屋さんもやりたいし、レコード会社もやりたいですね。結局は自分でやるのが最高だから、自由丁レーベルを立ち上げたいです。
ー音楽を作っていくんですか?
小山 プロデュースをしたいですね。音楽を作りたいミュージシャンの人たちを集めて、インディーズでも食っていける仕組みを作っていきたいです。なるべく社会の評価は横に置いておいて、一人一人に音楽を届けていく。自由丁にたくさん人が集まってきてくれれば、聞いてもらえる機会も増えるし、いつの間にか外の人たちもたくさん聞いてくれていたなら、自由丁という街を飛び出して、もっと大きな街に行ってもいいですし。あとは海外にもお店を出したいな。
ーやりたいことが盛りだくさんですね!
小山 「将平はスナフキンであってほしい」と友達にずっと言われるんです。身軽に、自由に、自分の好きなことをしている。自由であった方が生まれるものもたくさんあるし、周りも何かしでかしてくれそうと期待してくれているので。自由丁っていうブランドをやっているのに、やっている人が不自由な感じだと嫌じゃないですか。だから、これからも自由に生きていけたらな、と思います。
小山将平・こやましょうへい
自由丁オーナー兼(株)FREEMONT代表取締役、ARTELL(株)代表取締役
1991年生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。米国ワシントン州ベルビューカレッジIBPプログラム修了。デジタルハリウッド大学主催G’s ACADEMY LABコース修了。G’s ACADEMY在学中の2017年、(株)FREEMONTを起業。現在は、”素直な気持ちと日々を味わう、未来の手紙カルチャーブランド”「自由丁」として東京・蔵前にて実店舗「自由丁」をはじめ、未来の自分に手紙が送れるWEBサービス「TOMOSHIBI POST」、レターセット「TOMOSHIBI LETTER」を手掛ける傍ら、自由丁HPにてエッセイ「今朝の落書き」を毎日執筆中。並行して、若手アーティストの作品レンタル、販売を行うARTELL(株)も2019年に創業。コーヒーと甘いものと音楽が大好き。
Twitter→@shoheikoyama7
instagram→@jiyucho.tokyo
自由丁web/TOMOSHIBI POST
(取材/文:李生美)