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社会とのズレを感じたら|『つながり過ぎないでいい』 尹 雄大

7月23日(日)の夜、この本の作者でインタビュアーでもある尹 雄大(ゆん・うんで)さんを講師に迎え、「胚胎期間という冗長な生き延び方」について学ぶ講座を開催しました。

尹さんは大学生時代、カフェの大手チェーン「DOUTOR(ドトール)」のアルバイトをマルチタスクができないことからすぐに辞めてしまったそうです。カフェでの接客業では、マルチタスクの他、マニュアルにあった動作をしなければなりません。

尹さんが違和感を持ったのは、カフェの客に対して「恐れ入ります」と言えなかった時でした。セルフサービスの店で客がお皿を下げた時に、店員である尹さんは「恐れ入ります」と言うことが求められていました。客が利用後のテーブルを片付ける、という当たり前の動作に対してその言葉がどうしても言えないことは、尹さんにとって葛藤でもあり、どこかこだわりのようなものでもあったそうです。

大の大人なはずなのに、そんな簡単なことすらできない自分に挫折感を覚えた尹さん。社会から求められる役割や能力に適応できず悩んでいた尹さんが、「できない」と自分を評価せずに、今はあくまでも「胚胎期間」という成長過程なのだと発想転換ができたのは、周りの人との関わりがきっかけでした。

胚胎期間とは

胚胎とは「みごもること。はらむこと」であり、そこから派生して「やがて起こる出来事のもとの始まり」を意味する。

『つながり過ぎないでいい』尹 雄大 P.51より

幼虫は蝶になる前、身体がドロドロに溶けてサナギになります。サナギは移動することすらできず、最も死に近い無力な状態です。

社会に適応できず、無能だと自身を責めていた尹さんに、「いまはまだ何もできなくていいんだ」と声をかけてくれたのは、尹さんを贔屓にしていた映像制作会社の社長でした。

その言葉によって、「周りにいた人たちは自分のことを認めてくれているのに、自分自身が正当に自分を扱っていないことはおかしいのではないか。」と感じた尹さんは、人間もサナギのような「何もできないように見える時間帯」があると仮説づけします。

社会で必要な「時間を遅延させる力」


「何もできないように見える時間帯」では、「こうではなければいけない」けれどできていない自分を理解し、正当に扱ってあげるために時間を遅延させます。

そもそも、「こうでなければいけない」と定義づけているのは目の前の社会。「人は社会の外からやってきた何か(社会外生命体)である」と表す尹さんは、社会のペースに合わせようとせずに、自閉的になることで自分の感性を守ることが必要なのではないかと唱えます。

当書の根元である考え方「時間を遅らせる」では、社会の中で感じる違和感に素直になっていくことで自分の直感を理解していきます

例えば、気が合わない人とは喋らない。尹さんはこの行為を「鎖国」と呼びます。鎖国をしながらも、ある程度対外的に貿易ができるような出島を設けるため、完全に人とのコミュニケーションを断つわけではありません。ただ、その人と気が合うかどうか、という自身の直感的な判断に素直でいる。そうすることで、本来の自分の感性を守り、その判断をした経験に基づいて自分を理解していくことができます。

「気は合わない」けれど、「うまくコミュニケーションをとるべき」という矛盾を無視しないことは忍耐力のいる行動です。

このように、「現時点の自分」と「あるべき(とされている)姿」とを直線的に結んでしまうのではなく、迂遠(うえん)することで「まだ知らない、内在に潜む自分」と出会う可能性を限定しないことが時間を遅延させる目的です。

自分についての「わからなさ」は感情や感覚のもっと向こうにある自身を発見する手がかりになるからだ。

『つながり過ぎないでいい』尹 雄大 P.74より


「出来事を解釈せず、
ただ起きたこととしていかに捉えるか」


サナギになり、液状化した自分を変態させ、胚胎期間を熟したものにさせるのに必要な鍵が「出来事を解釈せず、ただ起きたこととしていかに捉えるか」です。

傷ついたことや失敗した出来事に対しての「解釈」は、今まで社会や他人から求められていることを通して行われます。これでは社会の基準で自分を捉えてしまう行為と等しいのです。

その出来事に対して感じていることには、周りによって形成された自分が混ざり合っているということを見落としてはなりません。時間を遅延する行為は「感じたこと」と「感じられた自分」とが同じだと錯覚していることに気づくためにあります。

怒りや不安など、何かに対して動じてしまうのは、私たちが「動」物であるから仕方がありません。ただ、反応した自分を観察すること。この振る舞いこそが、現在の自分ではわからない、秘めた可能性を開花させる真の方法なのです。


講談の後は質問タイム


尹さんを囲い、「胚胎期間という冗長な生き延び方」について学んだあとは、10分の休憩を挟んで尹さんに直接質問をしたり、お悩みを吐露する時間が設けられました。

例えば、人の弱さについてイライラしてしまうというお悩みがある女性。彼女の職場環境のストーリーを聴きつつ、尹さんは自分に最近起こった腸捻転の話で返します。腸捻転になり、痛みにより普段のように過ごせなくなったからこそ、本来大切だったことに気づいた尹さん。健康状態では傲慢になりがちだから、病気の方が健康なのではないかと問うていました。

否定するわけでも、肯定するわけでもない。お名前も職業も知らない参加者同士だからこそ、無理に共感はせず、共有された出来事や感情をいろいろな視点で観察する時間でした。

次回のイベントは8月20日(日)。再び尹さんを講師に迎え、「本当のコミュニケーションってなんだっけ?」ということを、本音で語り合います。
是非、ご期待ください。


[著者 プロプロフィール]
尹 雄大(ゆん・うんで)
/ インタビュアー・作家
1970年神戸生まれ。これまでに政財界やスポーツ、研究者、芸能界、アウトローなど約1000人にインタビューを行ってきた。その経験を活かし、2017年よりインタビューセッションや公開インタビューイベントなどを開催している。主な著籍に『聞くこと、話すこと。』、『モヤモヤの正体』、『つながり過ぎないでいい』、『脇道にそれる』、『親指が行方不明』などがある。

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