大道芸人と少年ふたり
進学塾の特別特訓が終わって
ふたりは慣れない乗り継ぎを
こなし最寄駅に降り立った。
特別特訓は拘束時間は最悪だけど
いいところがある。
開催場所がいつもの場所と違うからちょっとした冒険気分が味わえるのだ。
せっかくの冒険気分が終わってしまうのを残念に思うと、何やらいつもみない人がいる。
「あれはなんだ?」
マサシがいった。
「きっと大道芸人じゃないかな。」 ススムがこたえた。
ススムはやっぱりなんでも知ってるなとマサシは感心していると
大道芸人が2人をみて近づいてきた。
「君たち忙しくなかったらみてってくれない?今に準備終わったから。」
2人は顔を見合わせ、頷いた。
少ないバスを一本遅らせるだけだ。
大道芸人が口上を述べる。
その前に三角座りの少年がふたり。
普段大道芸なんかしないその駅前で遠巻きに眺めていたもの達も自然に集まってくる。
大道芸人は、歳の頃は大学を出たばかりくらいであったけれどもなかなか落ち着いた立派な口上で、みんな引き込まれてゆく。三角座りの少年達の後ろは立ち見の大人でいっぱいとなり、次々と空中に放り投げてゆくカラーコーンをどんどん頭に被っていく。
1 、2 、3 、4……
ススムとマサシは夢中になって数えた。
「13!」
2人の声が重なる。
「すごいぞ!」
ショーが終わると2人は夢中になってポケットを探った。
2人は大道芸人の差し出した
ひっくり返したカラーコーンに
真っ先にバス代100円をほりこんで
立ち見の大人をかき分けて
外に出た。
「すごかったな!」
マサシがいった。
「みてよかったな!」
ススムがいった。
気がついたら
バスは2本逃していたし
バス代は無くなっていたので
2人は大変満足した気持ちで
一緒に家まで歩いて帰った。
もちろん、家に電話をいれるなんて
野暮なことはしない。