[軽めのホラー]子供の頃の夢を叶えよう
このところ気候の良い日が続いていたのだが、今日はあいにくの雨である。
底冷えのするリビングで
真子はブルっと身震いした。
もうすぐ3時。
下の子が帰ってくるまで
あと1時間ほどある。
この時間は真子にとっては
家で1人誰にも邪魔されないで
考え事ができる大切な時間だ。
冷えてしまったコーヒーを
レンジで温めなおすと
真子はゆっくり椅子へ腰掛けた。
「…南野は無しですかー?」
雨の音に混じってテレビからは
芸能人たちの陽気な声が聞こえる。
真子はリモコンを手に取り
テレビを消した。
少しばかりうるさかっのだ。
リビングには外から聞こえる雨の音だけが残った。
子ども達にある程度手が掛からなくなった今、真子には最近頻繁に考えていることがある。
「これから先、私はどうやって生きていこうか。」
そんなことである。
子ども達のため、ただ一心にそれだけを思って生きてきた。
目立たない洋服を着、笑顔をたやさず、自分の意見は抑え、とにかく常識はずれといわれないよう、周囲に溶け込むように生きてきたのだ。
それは確かに自分の意思だった。
ところがどうだろう?
いざ、子ども達が大きくなると真子には何も残っていなかった。
好きなことができるようになると、
好きなことがわからないのである。
真子は自分が好きだったことを思い出していた。
お絵描き。
これは好きだった。
長らく描いていないし上手くもないが、いくらでも描いていられた。
読書。
最近は子育てなどのハウトゥ本ばかり読んでいたが、もともとは小説や物語を読むのが好きだった。これからは時間をみつけてまた読んでみたらいい。
しかしなんだか物足りない。
私は…
私は何になりたかったんだろう?
あらいやだ。
コーヒーがまた冷めてしまった。
真子が再びコーヒーを温めなおそうと席を立ったその時
真子は思い出した。
忘れかけていた
子供の頃の夢を。
そうだった…わたし。
忍者になりたかったんだった!
幼い頃、忍者についてずいぶん調べたものだった。
真子の記憶によると本物の忍者は
決して派手に手裏剣を投げたり、
火薬を使ったりはしない。
むしろ農人なら農人、商人なら商人というように完全に一般人と紛れ込んでしまうのである。
任務をこなしながら、また、任務が与えられる日を待って、全く気づかれずに日々を過ごす。
それが忍者!
決めた!!
これから私は
女忍として生きる!
ピンポーン♬
真子がそう決意すると同時に
玄関のチャイムがなった。
次男が帰ってきた。
冷めたコーヒーの入ったカップを
テーブルに置いて、真子は玄関の扉を開けに行った。
出迎えられた息子は
玄関を開けた女が
女忍であるとは
夢にも思わなかった。
なんのはなしですか
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