ワインと梅酒
「毎月ずっとワインを送ってもらってたんやけどやめたんや。」
所長が話しかけてきた。
きけば、何かの伝手があったのか、都会の酒屋に海外の美味しいワインを見繕ってもらい数年間ワインを購入していたらしい。
「担当の子からこないだまた美味しいワインが手に入ったけどどうするって電話があってなー。断ったんよ。」
「考えてみたら、うちの梅でつけとる梅酒飲むヒマないなとおもってって。」
「そんなら相手はなんて言うたと思う?」
「お庭で採れた梅の梅酒ですかー。リッチですね。それは梅酒飲まないとって。」
「リッチっていいおってん。俺はびっくりしたわ。こんなことがリッチなんかって。」
「今まで梅がなるから梅酒つけんならんとおもとった。梅酒のことなんかなんとも思わなかったけど、リッチっていわれるとリッチなんかなぁと思ってなぁ。なんか感動したわ。」
無理強いをしなかったこの都会の酒屋をいい酒屋だなと感じた。
おそらく「この梅酒どうすんねん。」と思いながらも、黙って所長に数年ワインを買わせていた奥さんもさぞ嬉しかろう。
それまであたりまえのように思っていたものの価値が、外部のものと触れることで再発見される牧歌的な例として記憶に残っている。