奈良の墨
私は書道もからっきしだが
奈良の墨は有名らしい。
興福寺が上質の油煙墨を量産する技術を確立したことで、圧倒的シェアを誇ったことが始まりだ。
膠と煤をこねて型にはめる作業を見せてもらったことがある。
膠は独特の香りがあるので、良い香りをつけるのに龍脳というものが良いらしいが、手に入りにくいため樟脳などを使うのも一般的だときいたきがする。
お話を伺うと、手作りの墨の職人さんはどんどん減ってきているとのこと。
たしかに使う機会も少ない。
それでも書家の方にとても愛されているので、自分の代は頑張ろうと思うが、今度は型枠を作る職人さんが高齢化でいなくなってしまいそうだ。
そこで、型の作り方も教えてもらい始めた。そんな話を伺った。
そんなお話を聴きながら作業を見せてもらったあと、墨をすらせてもらって、絵葉書に絵を書いた。
思えば墨をするというのも久しぶりだった。
墨に含まれる香りに包まれながら淡々と心を整えるような、硯の上で墨を往復する作業は
ずいぶん気持ちが良いものである。
子どもの習字なんかもこの頃、墨汁でするものだからこんな体験はしないのだなと不思議な気持ちになる。
なんでもすぐにとっかかれるありがたさと引き換えに、こういう心準備というものがなくなってきているのかな。
松煙墨も油煙墨も煤を丹念に集めて墨は作られるようだ。
筆を使うことのある方は、自分へのお土産に手作りの奈良墨を一つ選んでみるのもいいかもしれないと思います。