[軽め]絶対的な孤独
その夜、私はとにかく眠たかったので物語を読んでやるのを拒否し、かわりにおしゃべりしようと提案した。
何についておしゃべりしようと持ちかけたのか。
「眼を閉じて見える光みたいなチカチカ。」
についてである。
何色に見えるか、動くか、色が変わるか、そんなことをお互い喋っているうちに寝てしまえるのではないかと企んだのだ。
次男は拒絶した。
「嫌だ。寝る前にそんな話はしたくはない。」
「人の気持ちになって考えるだろう。でもいくら考えたって自分はその人にはなれないんだ。
俺が考えるその人は俺の頭の中にいて、その人じゃない。」
「そんなことをごちゃごちゃ考えていると、俺が考えるみんなは本当に世界にいるのかなって気になるんだ。本当はこの宇宙に俺一人ぼっちなんじゃないかって。母さんが目を閉じてみえるチカチカなんて俺にはみえないよ。だから嫌だ。」
今から眠りにつこうというのに、この子はなんてことを言い出すのだ。
なんかわかるけど難しい。小学生ってこんなこと考えてるもんなの?この話題、たしかに寝つきが悪い。
「じゃあ、なんか作り話やってよ。」
私はいった。
小さい頃にたまにやってたのだ。
次男の即席のデタラメな話を聞いては2人でゲラゲラ笑った。
「久しぶりだね。」
次男は快諾した。
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昔々あるところに一人で暮らしているおじいさんがいました。
ある日おじいさんは川へ洗濯に行きました。
すると川の上からおじいさんが流れてきました。
おじいさんはおじいさんを助けると家へ連れて帰り、2人で一緒に暮らすことにしました。
ある日1人目のおじいさんは思いつきました。
「そうだ。俺のやってたこの仕事。全部あいつにやらせてしまおう。」
こうしてある日を境に2人目のおじいさんは1人目のおじいさんに毎日こき使われるようになりました。
こうして日々は流れていきました。ある日、2人目のおじいさんが、川へ洗濯に行ったときのことです。
川の上からおじいさんが流れてきました。3人目のおじいさんです。
2人目のおじいさんは3人目のおじいさんを連れ帰り、1人目のおじいさんに頼まれた用事を、3人目のおじいさんに全部押しつけるようになりました。
そして3人目のおじいさんが川へ洗濯に行ったときのことです。川の上からおじいさんが…この話はループします。
こうして、いつの間にか100人目のおじいさんが仕事をしていました。
ある日、1人目のおじいさんが、家におじいさんがやけにいっぱいいることに気がつきました。
1人目のおじいさんは考えました。
「増えすぎだ。おじいさん達をみんな始末してしまおう。」
さて、1人目のおじいさんが始末しなかったおじいさんがいます。
誰ですか?
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チッ眠たいのバレたか。
次男は質問を挟んできた。
「最後のおじいさん。なんでかというと働いてるから。」
「正解です。」
「では始末されたおじいさんは何人ですか?」
「100ひく1は99…。いーや騙されないぞ!1人目のおじいさんは数えない。これは植木算だ!98人!!」
「正解です。ちゃんと聴いてるね。」
…この話めんどくさいな。
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1人目のおじいさんは100人目のおじいさんを残した98人のおじいさんを始末してゆきました。
つまりまた川へ流したのです。
川下では1人のおじいさんが洗濯をしていました。
この話は無限ループします。
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面白かったけどやっと終わったよ!
なんでこんな無茶苦茶な話できるの?
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人の頭の中身は絶対わからない。
私は次男と一緒にいるけど
次男の頭の中身は全くわからない。
もしかして、この寝室にいるのは
私1人なのかもしれない。
私はそんなことを考えながら
眠りについた。