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ハンカチ検査

すっかり暖かくなり、昼になると太陽の光を受けた背中が熱く感じるほどだ。

昨日帰宅した長男が、
「電車の中で鼻血が出ちゃったよ。」
と言ってきた。

…。
私は知っている。
長男はハンカチを持っていってない。

私の表情をみて
「手で気合いで止めたよ。」
と長男は続けた。

朝から電車の中で手で鼻血を止める
学生をみたら多分私は驚くだろう。

私は考えないことにした。

ハンカチを持つように
幼稚園のころから言ってるし、
忘れているとハンカチを持って
追いかけたこともあったが、
声変わりもした
そんなことは中学生相手に
いつまでもやってられない。

ところが長男が
ハンカチを持っていく日がある。
音楽のある日だ。

音楽の先生が授業の前に
ハンカチ検査をするのだ。

この検査、ハンカチを持ってないと叱られるのではなく
ハンカチ持ってる人が褒められる。

もう一度いう。
相手は中学生である。
なんて辛抱強い良い先生なんだろう!
ありがたくて涙が出そうだ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ハンカチ検査が突然会社で行われたことがある。

暇人なんだか忙しいんだかわからない常務の所業である。

「おい。ハンカチ持っとるか?」
出社した社員一人一人に声をかけて
いく。

持ってないと
「トイレ行った後どうしてるんだ?」
「本当に洗ってるやろうな?」
問い詰められる。

男性社員のハンカチ所持率は散々だった。笑

ハンカチ検査の結果を手にして
常務は、ライバルでもある同業他社の知り合いに電話をかけはじめる。

「おーい。元気でやっとるか?」

「そうかそうか。言っても言ってもか。おまえさんも苦労しとるな。」

「なんでもねーけどよ。うちのもんにさっきハンカチ検査をしたのよ。」

「ハンカチちゃんと持っとるかどうかきいたんだよ。」

「だーれも持っとらんのよ。ワハハハハ。まいっちゃうよな。こっちは仕事教えるどころじゃない。ハンカチ持っとるかどうかから、はじめなきゃならんのよ。」

「そうそう。」

「ま、そんなわけでお互い苦労するけど、頑張りましょう。じゃぁね!」

当時私はキツネにつままれたように
この光景を目にしていた。

今はわかる。

ライバルでもある同業他社は
業界として動く時は仲間なのである。
この意味のなさそうな電話は、
仲間意識を育むものだ。

常務のやっていることは
営業マンとしてみても
全く無駄ではない。

そしてそんなに
難しく考えなくても

母親達のやってることと
同じである。

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