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27.熊本のスポーツ施設建設

1.はじめに


 先日(2023.9.21)の熊本県議会の答弁において、蒲島県知事は、スポーツ施設整備の方向性について、「任期中に取りまとめる事は困難」と述べました。4期目(残り約半年)の公約の1つとして掲げていましたが、TSMCの熊本進出における対応や、災害復興などを優先するとしています。この数年は、度重なる災害やコロナ禍などで、やむを得ない状況でしたが、公約にもあった事から期待していた人も少なくは無いと思います。

「第2期熊本県まち・ひと・しごと創生総合戦略 」

 確かに残り期間に取りまとめる事は不可能でしょう。県が様々な対応に追われている事は想像できますし、新たな動き等もある中で難しい舵取りが迫られている事も理解できます。

 ですが、やはり待ち望んでいる身としては、「いつまで待てば…」という落胆の気持ちは拭いきれません。物価上昇の影響もあり、仮に10年前に建てておけば、建設費は半額程度で済んでいたのではとも。そればかりか、先延ばしにする事で、更に莫大な額に膨れ上がることも予想されるのでは無いでしょうか。難しいからこそ計画的に進めて欲しいと思います。

 また今回の答弁や報道では、老朽化の進む野球場や体育館、武道館の建設について主に話がなされていました。サッカースタジアムの建設についても、ロアッソ熊本のサポーターにとっては悲願の1つ。建て替えを望むスポーツ施設が、複数に及んでいる事も、難しくさせている要因の1つではあるかなと思います。元々、県がスポーツ施設の在り方を取りまとめるとされていたのは、立地や資金調達、建設優先度などといった事が記事にありました。

 ただし、それでは「◯◯の方が先だ!」といったファンや関係者同士の争いの火種ともなりそうですし、その議論によって年月を要してしまう可能性も…。そしてそのうちに、また県下で新たな重要課題が起きてしまえば、再び後回しに。何てことも十分起こりうるのでは無いでしょうか。

 それを踏まえて…むしろ、「同時に、同じ場所に建設を目指すところからスタートしてみては」という事を、今回は書いてみました。

 より実現へのハードルが上がるという見方もできると思いますが、仮に同時に同じ場所に建設するとなれば、どのような事が起こりうるのかを考えてみました。

 憶測レベルの部分が多々ありますが、ご了承下さい🙇‍♂️

2.各施設の課題

①リブワーク藤崎台球場

 2015年には、野球場建設に向けた署名活動や要望書が県に提出される等、野球関係者にとっては長年の悲願だと思います。また2022年に史上最年少三冠王と、日本人最多本塁打を記録した村上宗隆選手が県知事に新球場建設を直談判した事は話題になりました。ここは、1960年に開場されたの野球場であり、老朽化の為プロ野球誘致できる環境として、十分では無いと言われます。

 その様な動きを早くから見せていましたが、度重なる災害や、コロナ禍の影響は大きかったと思います。それに加えて、球場を新設しても常時使用する球団が無かった事も、理解を広めるためには必要な点であったかと思います。ただ、現在は火の国サラマンダーズ(九州アジアリーグ)が活動を開始し、その受け皿となっています。リーグ三連覇や独立リーググランドチャンピオンという、発足から間もないとはいえ、この上無いような成績を残していると思います。

 またNPBより、ファームリーグへの参加球団の拡大構想が発表され、それに向けてサラマンダーズも参入目指すとされていました。しかしその後、入会に必要な多額の資金調達の目処が立たずに、断念したという事が発表されています。球場のあらゆる設備は老朽化している上に、屋根で覆われている部分はごく一部。集客やそれに伴うスポンサーの確保など、遠からずその資金調達への影響もあったのではと思います。加えて、参入条件の1つに「屋内練習設備の確保」も挙げられており、これについてもハード面が、参入への障壁の一因ともなっていると思います。

 プロ野球の本拠地ではない地方球場で、外野席にもベンチシートが備わっているような球場は数多く存在します。プロ野球やキャンプ誘致などを積極的に目指すのであれば、その様な球場の整備が必要になってくるのではと思います。

ただ、大き過ぎるが故に、空席が目立つような事があっても盛り上がりにかける事に繋がるので、そこは検討すべきかなと思います。

②熊本県立総合体育館

B.LEAGUEでは、26-27年シーズンより、以下のようにカテゴリーが変更される予定となっています。

B1 →  B.LEAGUE PREMIER
B2 →  B.LEAGUE ONE
B3 →  B.LEAGUE NEXT

更にそのトップカテゴリーにあたる、B.LEAGUE PREMIERでは、以下の新たな基準を三本の柱として求められています。「チームの成績」よりも、「事業力」に焦点が向けられている様です。


【B.LEAGUE PREMIER】
・入場者数平均4,000人以上
・売り上げ高12億円以上
・本拠地アリーナ5,000席以上

B.革新 LEAGUE VISION 

 つまり、もしそれまでに、ヴォルターズがB1に昇格していたとしても、その新基準がクリア出来なければ、成績に関わらず、2部(B. LEAGUE ONE)へ降格してしまう事に。もしくはB2にいたとしても、基準を満たさなければ、1部(B.LEAGUE PREMIER)を目指す事さえ出来なくなってしまいます。これは、クラブやブースター、スポンサーのモチベーションにも、大きく関わる事だと思います。

 施設基準は座席数のみならず、スイート席(2%以上)と、ラウンジ席(スイート席と合計5%以上)の設置や、常設の飲食販売施設、臨時の飲食スペースなど、ホスピタリティ面が重視されている事が分かります。

 熊本の場合、まずその新基準をクリアする上で避けられないのは、5,000席以上の収容人数。ヴォルターズの本拠地である、県立総合体育館では最大で4,110席とされています。松江市の総合体育館は、約2,000席を改修工事で増やす事で、基準のクリアを目指すようです。熊本の場合も、早期実現を目指すとなれば、ハードルが下がるのは改修の方でしょうか(改修で対応可能かは不明)。ただやはり、より良い観戦環境を作り上げ、事業力を高めて行く為には、やはり新設が望ましいのではと思います。

 また、Bリーググランドチャンピオンシップ決勝においては、8,000席以上という基準が設けてあるようです。将来的なクラブビジョンをどう考え、どこを目指すかによっても、改修か新設か別れてくる部分になるかと思います。「ちょうど良さ」を優先するのも選択肢の1つとは思います。

 ちなみに県立総合体育館は、2023〜2026年の3年連続で、バドミントンの国際大会の会場として使用される予定となっています。もし改修に舵を切ったとしても、それ以降となるのではと思います。

③えがお健康スタジアム

 ロアッソ熊本が本拠地している陸上競技場のスタジアム。ロアッソ熊本は昨シーズン、クラブ創設以来初めて、昇格プレイオフに進出し「J1まであと一歩」と迫りました。シーズン終盤には、大動員の試合が立て続き、アクセス面の不便さなどの課題が表面化した事や、アクセス鉄道のルートから除外された事で、サッカースタジアム建設への機運に高まりを見せています。

 新たな問題として、耳にするのは他競技(陸上やラグビー)との日程調整に苦慮しているのではという事。ロアッソが躍進を続けている、天皇杯の準決勝の会場についても、熊本の本拠地でも開催される可能性がありました。しかし、その日は陸上競技の大会が開催される事が既に決まっており、対戦相手の本拠地での開催が決定されました。(トーナメント表の上が熊本の為、本来なら会場の優先権があったとも。)この日程調整面で、不便さを感じているのは、おそらくロアッソだけでなく、他競技にとっても同じなのではと思うので、これはサッカーに限った話ではありません。

 また、先日はスタジアムの一部が破損して、怪我人が出る事故が発生しています。熊本地震を経験し、開業から30年に迫ろうとしている事もあり、ここもいずれは老朽化に伴う課題が表面化してくるのではと思います。

 また、時に1〜2万人も動員する試合があるにも関わらず、鉄道に通じていなかったり、周辺に商業店舗が少ないために経済波及効果に繋げられないという、もったい無さもあるかなと思います。加えて、芝生の生育状況はサッカーにとって重要となりますが、もしその本拠地が移転されれば、「大型音楽イベント」なども、誘致しやすくなる可能性もあるのではと思います。

3.建設の例(2020年以降〜)

①野球場⚾️

【きたぎんポールパーク】
〈場所〉
岩手県盛岡市
〈チーム〉
主な球団はなし
〈収容人数〉
20,000席
内野席12,000席、外野芝生席8,000席
〈開業〉
2023年
〈総事業費〉
108億円
〈補足〉
岩手県営、盛岡市営球場が共に老朽化していた  為、共同で整備。球場敷地内には、屋内練習場やキッズスタジアムなどが併設。
〈雑感〉
快適な観戦環境を求めるなら、芝生席→シート席、屋根ももう少し拡張したいところでしょうか。そうなると更に数十億はかかる可能性も。

②バスケットアリーナ🏀

【オープンハウスアリーナ太田】
〈場所〉
群馬県太田市
〈チーム〉
群馬クレインサンダース
〈収容人数〉
5,000席
〈開業〉
2023年
〈総事業費〉
82億5,000万円
〈補足〉
総事業費の内、44億円をクラブオーナーでもあるオープンハウスグループが、「企業版ふるさと納税制度」を活用し負担したとされています。これは最大で9割とも言われる節税効果により、企業側の実質負担を抑える事を可能にしています。
〈雑感〉
企業版のふるさと納税を活用し、負担額を抑えて資金調達に繋げた事は、画期的に思えます。オーナー企業の法人税等が大きければ、その効果も大きいようです。ただし、経営規模がそれ程大きくなければ、一括的に負担して建設を目指す事は難しいという事。また対象期間は2024年度までとされています。


【SAGAアリーナ】
〈場所〉
佐賀県佐賀市
〈チーム〉
佐賀バルーナーズ
〈収容人数〉
8,400席
〈開業〉
2023年
〈総事業費〉
257億円
〈補足〉
2023年の国民スポーツ大会(旧国体)における会場の1つとして、整備された。大規模MICEの開催も可能。
〈雑感〉
かつては国体開催に向けて、各所にて大掛かりな整備開発が進められてきました。しかし以前とは異なり、縮小化されている所も増えてきています。そのような中で、このアリーナは九州最大級の規模を誇り、一帯の国スポ整備費の半分にも及んだ為、批判や疑問の声もあったようです。それでも、アリーナ完成を追い風に、B1昇格を勝ち取っており、ハイスペックなアリーナで、今後どの様な盛り上がりを見せてくれるのか期待しています。

③サッカースタジアム⚽️

【サンガスタジアム by KYOCERA】
〈場所〉

京都府亀岡市
〈チーム〉
京都サンガF.C.
〈収容人数〉
21,670席
〈開業〉
2020年
〈総事業費〉
154億円
〈補足〉
保育園や、3×3のバスケットボールコートなど複合型施設。建設資金の詳細な内訳は見つけれず。
〈雑感〉
昨年、昇格決定戦にて多くのロアッソサポーターがこのスタジアムへ駆けつけました。駅の目の前にスタジアムが佇み、最寄り駅から京都駅まで20分という好立地には感動を覚える程でした。スタジアムの規模感も良く、熊本にとっては理想的なスタジアムだと感じました。

【エディオンピースウイング広島】
〈場所〉
広島県広島市
〈チーム〉
サンフレッチェ広島
〈収容人数〉
28,520席
〈開業〉
2024年(予定)
〈総事業費〉
282億9,000万円
〈補足〉
広島市の中心地で、好アクセスの場所に建設中。建設費の内訳については、様々な報道がされていますが、国庫補助金約100億円、企業及び個人寄付で約75億円、国と市が約43億円。あとは使用料で償還される地方債などでしょうか。
〈雑感〉
これまでのスタジアム建設では、資金調達の柱の1つとして、スポーツ振興くじtotoの助成金(30億円程度)を活用するケースがいくつか続きました。しかし、広島のスタジアムでは100億円程の助成金を得ています。スポーツ庁の「スタジアム・アリーナの実現に活用可能な施策一覧」を見てみると、国の施策も変化してきている様です。民設にてスタジアム建設ができれば、それは理想的でしょうが、その場合だと国の助成制度の活用ができないものもあるようです。

4.同時建設のメリット・デメリット

メリット

(1) 建設コスト削減
 J2山形と秋田では、同時期に目指す新スタジアムのコスト削減のアイデアとして、資材の同時発注について過去に報道されました。これは熊本で同時に建設する場合でも、このメリットは同様に得られるのではと思います。

 また大型駐車場等も共用が可能となる為、それぞれで土地を確保し建設する必要は無くなります。またイベント広場や商業店舗なども、中間地に設置されれば、それも共有で活用できるものになると思います。


(2) 集客効果
 もし同日に、デイゲームとナイトゲームが重なって開催されれば「ハシゴ観戦」も可能に。それをきっかけに、スポーツクラブを跨いでファンになる層も増えると思います。アクセス面のキャパシティにもよりますが、集客効果に繋がるか、むしろ逆効果に繋がるかは、工夫次第かなとは思います。

(3) 365日稼動
 野球にバスケット、そしてサッカーとそれぞれのシーズンが微妙にずれている事で、年間を通して切れ目なく盛り上がる場となると思います。仮に商業店舗が入れば、通年で営業する事が可能となり、テナント側の需要も高いものになるのではと思います。

(4)アクセス整備
 数千〜数万人という人流の変化に対応する為には、新たな拡張工事などか必要となる可能性もあります。集約させる事で、別々に整備する必要が無くなる為、その点も最低限に抑えられる可能性があると思います。

デメリット

(1)多額の初期費用
 なんと言っても、ここがネックだと思います。1施設でも多額に及ぶもの3つを1度に、となれば尚の事。同時建設のメリットはあれど、先立つものの目処が立たなければ言わずもがな…。あらゆる助成制度の活用や、企業や個人の協力は欠かせません。もちろん自治体の協力が必要となるため、スポーツに興味がない人達の理解を得る為の活動も必要だと思います。

(2)混雑リスク
 同じ場所に建設を目指すにあたっては、バスや電車で通えるような立地条件は、最低限クリアしなければならないと思います。車でしか行けない場所となれば、混雑が建設に向けた批判対象となる可能性もあると思います。キャパシティに応じた、バスやJRの輸送量や開催日の臨時対応がどの程度できるかは、シュミレーションが必要だと思います。

 また開催日が重なった場合のシュミレーションも必要です。開催日を合わせないという事も選択肢としてあるかもしれません。ただ、ハシゴ観戦にもメリットがある事だと思うので、その辺りも想定したアクセス面であれば良いなと思います。

(3)土地の確保
 3つもの施設を集約するとなれば、それだけ広いスペースが必要に。一見、土地取得が容易そうな農地なども規制がある上に、そこへのアクセスも重要と言われると、かなり候補地は絞られてしまいます。ただ、もし駐車場やコンコースなどを共有できれば、それだけ土地も縮小化に繋がるという見方もできるかと思います。

5.同時建設の総事業費イメージ

これは私の主観的なイメージになりますが、先に述べたようなスポーツ施設を参考にすると

・アリーナ(8,000席規模)→230億円
・野球場(20,000席規模)→150億円
・サッカースタジアム(20,000席規模)→220億円

 合計 600億円

 国の助成については、その時点での募集要件にもよる為、最大でどれだけの助成が受けられるのか厳密にはわかりません。また、スポーツ庁としては、スタジアムやアリーナの建設を推進しているところですが、今後もその支援策が更に拡大するのか、縮小されるのかは不明です。ただ、直近の広島や太田のケースを見ると、以前より助成制度の活用する幅が広がっているようにも思えます。

 もし、仮に3施設で100億円ずつ助成金を調達できたとすれば、残りは300億円。その300億円は、県や自治体の負担や、企業版ふるさと納税、使用料で償還する地方債、ネーミングライツを建設費にあてる、個人寄付などでなんとか…。といったところでしょうか。やはり、相当に高いハードルではあると思います。ただ先にも述べた通り、3つの施設に及ぶからこそ、先延ばしにする事での、建設費高騰による影響も大きくなる可能性は考えられるかなと思います。

最後に

 多額の建設費がネックになるのは言うまでも無いと思います。3施設同時にとなれば尚の事。ただ、各所の新スタジアム・アリーナでは、経済活性化やそれに伴う税収効果も期待できるとされています。その様な波及効果などにも目を向けてもらえるような試算なども重要な取り組みとなると思います。

 また、長崎スタジアムシティは、サッカースタジアムとアリーナの複合型スポーツ施設として建設中です(2023.9.30現在)。併設されたスポーツ施設をどのように活用していくのか、良き前例となってくれるのではと期待しています。どの様な効果や課題が見えてくるのか、開業後に注視していきたいと思います。

  熊本では、世界的企業(TSMC)の進出で沸いており、スタジアム建設についても、支援に期待するような声も聞かれます。流石に夢のような話にも思えますが、企業版のふるさと納税など、大企業だからこそ活用メリットのあるものもあり、ワンチャン…🤔

 更に、2023年より熊本では「熊本スポーツユナイテッド」が発足され、プロや実業団チーム等が参加し、相互連携の取り組みが開始されています。まだスタートしたばかりですが、様々な連携の取れたイベントだけでなく、それらの建設に向けた協力等もなされるのではと期待しています。この取り組みは、競合ではなく共存の道を選択したという事だと思いますし、スポーツ施設整備においても、どの様なアイディアが出されてくるのか楽しみにしています。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました🙇‍♂️

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