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見えている世界_2
自己啓発本は読みやすい。百冊くらい読むと、目次だけで「ああ」となる。
大体同じ内容が書かれていて、大事なところは大体青色で囲ってある。
本が読めない人でも太い文字のところだけ読むとなんだかすごくなった気持ちになれる。
私はすごくなった気持ちになったが、実際はすごくなっていない。
ので、書いてあることを端から実行することにした。
それくらい人生に絶望していたのもある。
受験して受験してまだ就職があって就職しても一生安泰かもわからない、みたいな大学時代だった。
「デキる人は靴を揃える」
「デキる人は挨拶をする」
「デキる人は相槌をする」
とか。
デキる人になりたいわけではなかったが、死にたいメンヘラよりはデキる人になった方がマシだったので、毎日毎日何かしらの教えを実行し続けた。
100冊読んで、一つの教えは一ヶ月試しに続けてみて、合わなかったらやめて、よかったら続けて、100冊あとにも死にたかったら死のう
みたいな考えだった。
すると突然友人が増え、ご飯に誘われ、仲良しグループに属し、就活もうまくいった。
話すのがうまくて頭がいいと言われるようになった。
そのあたりで私は自己啓発を解毒することにした。
これ以上読み続けると、「やっていない」人を見下すことになる。
そして、私が生きる世界は、ほとんどが自己啓発本に触れず、触れても実行しない人々で構成されている世界だと思ったからだ。
死にたいメンヘラと自己啓発マニアの中間みたいな人間になった。
解毒剤には村上春樹を使った。それはそれで半減期までが長い文章だったので、しばらく漫画を読んで過ごした。
そうして就職。
びっくりするくらい本を読む時間がなくなるのであった。
研修期間で不慣れなうちは疲れすぎて読めない。
コロナにかかり、後遺症に苦しんでいる間は読めない。
人の足りない職場で早々に復帰するも体調が悪くて仕事すらままならない。
転職。
不慣れな期間なので読めない。
と、続く。(∵ ))