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道路マニアが読む『青春ブタ野郎』シリーズ

※この記事には『青春ブタ野郎』シリーズを知っていることを前提とした内容が含まれます。また、シリーズ各話のネタバレも含まれます。


小説『青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない』を読み終えました。
いや~すごかった。これまでシリーズで展開してきた話を全部まとめて畳み込みにいった感じです。
そして、「友達候補」の美東美織との関係はどうなるのか、それは次作に期待を持たせる流れになっています。次作のタイトルは『ディアフレンド』ですから、きっと美東の思春期症候群(と、彼女の思春期症候群がもたらした書き換えられた世界)も解消してお友達になれることでしょう。それは実際続きを読んでみないとわかりませんが。
構成がうまいですね。

高速道路では緑と白です

さて、そんな『ガールフレンド』編ですが、どうしても気になったことがあったのでこの記事を書いています。
それはこの部分⇩

楽しそうに語る翔子の視線が青と白の案内板を気にする。
「あ、そろそろ牧之原ですね」
案内板に書かれた『牧之原』を指差して得意げに笑った。

『青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない』p.119

大学生咲太が高校生翔子さんを助手席に乗せて、霧島透子に会いに行くために東名高速道路を車を走らせている場面です。実はこの中に間違いが含まれています。
間違いと言ってもほんの些細なことなのですが、道路マニアが読んでしまうとどうしてもモヤモヤしてしまって我慢できないようなことです。我慢できなくてnoteに記事を書いてしまうくらいのことです。

その間違いとは案内板(案内標識)の色分けのことで、「青と白」ではなくて「緑と白」が正解です。

高速道路の案内標識は緑地に白文字で書かれています。これは一般道よりも高速で走行するため視認性を上げるということと、有料道路として(あるいは自動車専用道路として)一般道と区別をするために、そのように異なる配色となっています。
「青と白」、青地に白文字で書かれているのは一般道の方です。

ここの描写を間違えてしまうと、それまで快適に高速道路をドライブしていた情景が一気に、一般道をとろとろ走っているイメージに変わってしまいます。なので見逃せないポイントなのです。

聖地巡礼で牧之原サービスエリアへ行くときに実際の「緑と白」の案内標識を目にして、この間違いに気付く人も多いことでしょう。

金谷相良道路ができて便利になりました

さて、『ガールフレンド』編では咲太と翔子さんは霧島透子に会いに行くために、(東京方面から来て)牧之原サービスエリアを過ぎたところのインターチェンジで降りて、国道を南へ向かいます。途中、お茶で有名な飲料メーカーの工場を過ぎて、その先の市街地に入ったところで花屋さんに立ち寄ります。
本文では高速道路を降りるインターチェンジを明確に牧之原サービスエリアの「次の」インターチェンジとは記してありませんが、描写的に、相良牧之原インターチェンジ(IC)で降りて左折した後に旧来の国道473号に入って南下、牧之原市の相良(旧相良町の中心部)へ向かうルートです。国道沿いには、「お~いお茶」で有名な伊藤園の工場もあって一致しています。

ここで疑問が。
高速を降りた後の最初の立ち寄り地点が相良市街地の花屋さんだとして、なぜ、咲太と翔子さんは、金谷相良道路を使わなかったのか。
相良牧之原ICから、相良の市街地、さらには御前崎方面へ向かうのに、一般道の国道473号と並行してバイパスとして整備された金谷相良道路が走っています。金谷相良道路は自動車専用道路なので、車線は広く、信号もなくて快適です。これができてすごく便利になりました。私も何度も使ったことがあります。
相良牧之原ICを降りると金谷相良道路に直結するような構造になっていて、むしろ旧来の国道473号に入る方がひと手間かかるくらいです。

別に金谷相良道路を使わずに旧来の国道473号で行っても悪いということはありません。むしろ道路マニア的にはそういう道路も含めていろいろなルートを走ってみたいという気持ちがあるくらいなのですが、普通は、沿道に用事がない限り金谷相良道路を使うことでしょう。
ナビは翔子さんがスマホを見ながらしていたということで、その翔子さんも来るのは初めてで土地勘はないようなので、スマホナビが旧来の国道473号を指し示していたことに従っていただけかもしれません。
次、また会いに行くときは金谷相良道路を使うと早くて便利ですよ。

制度的なことを言うと、金谷相良道路は国道473号のバイパスという位置づけになっています。

『マイスチューデント』にも道路的な間違いが

そう言えば、シリーズの『青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない』にも道路的に致命的なミスがありました。
先ほどの『ガールフレンド』の方の案内標識の配色のことは道路マニアのこだわり的などうでもいい部分があるのですが、こちらは、普段この場所を通っている人からすると間違えようのないところで間違えているという、深刻なミスです。「わかってないな」「調査不足だな」と思えてしまいます。

それは、『マイスチューデント』編で、麻衣の誕生日12月2日に咲太が霧島透子との約束を入れてしまって、ご機嫌斜めな麻衣が大学の講義をサボって咲太をジュエリーショップへ強制デートに連れていく場面。車を運転していた麻衣が「関谷インター」に差し掛かるところで突然、金沢八景にある大学から横浜中心部へと行き先を変更します。
該当箇所を引用します。

目の前に関谷インターが迫る。本当はインターチェンジではないのだが、複数の道路が交わるその見た目からそう呼ばれている交差点。
そこに差し掛かると、麻衣はウィンカーを出してハンドルを左に切った。大学に行くのなら、真っ直ぐ進んで環状4号線に向かうはずの道。麻衣の車に乗って通学するのも、一度や二度ではないので咲太も少しは道を覚えている。
(略)やがて、国道1号線に繋がった。そこをしばらく走ると、戸塚インターチェンジで、車はついに高速道路に入った。
行き先の案内板には、横浜方面の地名が目立つ。咲太と麻衣が通う大学があるのは金沢八景。同じ横浜市内ではあるけれど、案内板が示す横浜駅付近の「横浜」とは方角が違っている。

『青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない』pp.42-43

ここの間違いは現地をわかっていないと気付くことができませんので、まずは関谷インターを地図で確認してみましょう。
関谷インターは、神奈川県鎌倉市にある神奈川県道312号田谷藤沢線と県道402号阿久和鎌倉線の交差点の通称です。麻衣や咲太が住んでいる藤沢方面から来る県道312号は片側2車線の幹線道路になっているので、通学はこの道にしているのでしょう。そして関谷インターが、大学のある金沢八景(現地の案内標識では単に「金沢」)方面と国道1号方面との分岐点になっています。
なので、ここが、大学に行って基礎ゼミを受けるか、サボって横浜ショッピングデートをするかのまさに分かれ道です。

確かに方向的には左手の方に行くと国道1号に出ることになるのですが、作者もわざわざ解説を入れているように関谷インターは普通の交差点ではなく、特別な構造になっています。
どう特別かと言うと、藤沢方面と国道1号(そして横浜市中心部)との連絡を優先させるために、左折せずに直進で行くことができるようになっています。そのために高架橋が渡されて立体交差になっていて、その見た目から「インター」と呼ばれているんですね。
そう、立体交差になっていることにトラップが潜んでいます。

実際に藤沢方面から走ってみると、片側2車線の道路が関谷インターに近付いてくると、右車線に「国道1号」、左車線には「金沢・日野」という案内が出てきます。

金沢というのは、麻衣と咲太が通っている大学がある金沢八景を含んだ地域のことです。
そして関谷インターでは、事前の案内標識の通りに右車線と左車線で行き先が分かれて、右車線・直進が国道1号方面、左車線・直進が金沢・日野方面となっています。右車線を進むと高架橋が左にカーブしていて、金沢・日野方面へ行く車線を立体交差で跨いで国道1号方面へと連れて行ってくれます。左折は不要です。

麻衣と咲太が横浜の中心部へ向かうのであれば右車線を進むことになるし、大学へ通うのであれば左車線を進むことになります。
『マイスチューデント』では横浜の中心部へ向かうので、関谷インターの手前で、麻衣が右車線を走っていたのならそのまま直進すればいいですし、もし左車線を走っていたのならウィンカーを右に出して右車線に車線変更しておく必要があります。
つまり、「麻衣はウィンカーを出してハンドルを左に切った」の部分が間違いです。
蛇足ながら、関谷インターでは既に右車線と左車線は分離してしまいますので、車線変更はその手前で済ませておく必要があります。車線を間違えていたからといって慌ててハンドルを切ると危ないですよ。麻衣さん。

ここの描写がもし「ハンドルを『右』に切った」だったら、右車線に入ったという解釈もできました。おそらくその場合はハンドルを切るではなく「(右車線へと)車線変更をした」と書くのが自然かもしれません。
また関谷インターの立体交差を通り過ぎて一旦大学のある金沢方面へ行ってしまったとしてもリカバリーの方法があって、関谷インターの次の信号を右折して、もう一度右折するのですが、そうすると県道402号の国道1号方面へ向かうことができます。とはいえ、小説でそこまでくどい描写はしないでしょうけど。
いずれにしても正解は「右」です。

方向的には左手にある国道1号の方へ行くのに右車線を進まないといけないというのは、土地勘のない人にはトラップですよね。そのトラップに作者はまんまと引っかかってしまったわけです。
わざわざ特別な立体交差構造の関谷インターを出しておいてそこで間違いを犯すというのはピンポイントで地雷を踏みに行くようなものですが、逆に意識してしまって間違った方を選んでしまうというのはよくあることだったりします。
作者も関谷インターの解説を補記しているくらいなので、特別だという認識はあったはず。それでもミスをしてしまうのですから、文章は怖いです。

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