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証明と狂気の裏側【ブルアカ:エデン条約編感想】

ちょうど1年くらい前、こんなものを書いていた。ソシャゲのストーリー視聴形態に感じていたしんどさをぶつけたものだ。要約すると

濃密なストーリーを構築するにおいてキャラクターのボイスが存在しない場合、個人的にはかなりストーリーを読み進める意欲が低下してしまう。
これはボイスがないことでキャラの実在感をいまいち感じられないからだ。

こういうイメージを抱いていた。
実際この感情は今でも変わりなく、意欲がない以上ブルアカのメインストーリーは今の今までほとんど読んでこなかった。しかし最終編に加えて対策委員会にまで新章が追加されている現在、このままメインを読まないままなのはあらゆるユーザーに追い抜かされるのみだ。

VTuberが楽しそうに話している様子や最前線まで追っているフレンドにも共感できず、ただシステムのみを消費しているのはブルアカがそこそこ好きないちユーザーとして不義理にも感じていたし、話題についていけないことにも嫌気が差していたので得意の衝動に任せたエンジンでエデン条約編を駆け抜けた。

ということで前置きが若干逸れてしまったが、「ブルーアーカイブ Vol.3 エデン条約編」のストーリーを読了した感想を残していこう。

当然ながらストーリーのネタバレを多量に含むので注意。


百合園セイアという強力な舞台装置

実装がとても待たれているらしい

このエデン条約編において最も印象的だったのは、明晰夢として未来を垣間見ることのできるキャラ「百合園セイア」だ。
未来視によってストーリーテラーの役を持ち、先生=ユーザーに向けたとも取れる俯瞰視点からの発言は、特にキャラ紹介の日常パートでややダレているとも取れる序盤において強力な盛り上げ役として寄与していたように感じた。

セイアの発言シーンはほとんどが夢中であるため、彼女の発言は独白、先生への予言、ユーザーへの語り掛けなど様々な捉え方ができる。ほんのりメタっぽく解釈できる発言はその後の展開が楽しみになるギミックとしても機能しており、ただの主要人物に収まらずシステム面でも活躍した不思議で上手い立ち位置のキャラクターだ。

またエデン条約編登場キャラの中で最も死に近づいたキャラであり、いつ消えるとも知れない儚さと凛々しい性格が重なった個性的な魅力を持っていた。こうした点がプレイアブルとして実装を強く待ち望まれている理由なのだろう。

誰にも不可能な”本心の証明”

高クオリティなCGも多かった

作中、とくに補習授業部の危機を描く1~2章においてメインテーマとして据えられていたのが”本心の証明”だ。
シンプルに噛み砕いてしまえば「”本心である”という発言に本心が宿っていることへの悪魔の証明」であり、この疑念に満ちた感情がトリニティ、ゲヘナの両者間に渦巻くことで第3章へと繋がっていく。

「私は嘘をついていない」なんて誰でも言えてしまうし、それならあなたの言葉に真実はあるの?…というある種子供っぽい疑念の加速が深い軋轢を生んでいく展開は、精神が未成熟な”学生”をキーとして構成されているブルーアーカイブの世界観に絶妙にマッチしていた。
小さなすれ違いが大きな溝になって互いが互いを傷つけていくこのメインテーマは思い返せば単調な軸のようで、しかし子供であるが故にそれぞれが不安定な感情をぶつけあっていくリアリティのあるストーリーに繋がっていたと感じる。

疑念に溢れた少女たちに対して”生徒を信じる”ことで真っ向からぶつかって道を切り開いていく先生の姿は「先生と生徒」という関係性を全てのキャラと持っている先生=主人公だからこそできるヒロイックさに溢れて見え、この世界観だからこそ描ける王道に収束していく点がかなり印象的だ。

フィクションに介入する死の実在性

かなり見入ったシーン

個人的にかなり意識が釘付けになったのが、明るい雰囲気の序盤に急激な切り込みを入れた”キヴォトスにおける死”の概念。
いった~い!でお馴染みのチュートリアルシーンで散々新規に笑われる「銃弾をくらってもかすり傷程度で済む」異常な耐久力。その強靭さからユーザー側においてもキヴォトスの生徒に不変のイメージを抱いている人は多いだろう。自分ももちろんそちら側だった。

しかしエデン条約編ではキャラクターモノにおいてうやむやにされがちな”死”に対する描写が明確かつ残酷に存在しており、常人(先生のようなただの人間を指す)が致命傷となるようなダメージを過剰に食らわせ続ければ生徒たちも死んでしまう…との発言がなされた。
このシーンを見てようやく「少女×銃撃の青春学園RPG」の明るい命題の裏に確かな死が存在していることを理解し、ただかわいいキャラ同士がエアガンで撃ち合っているような生ぬるい作品ではないことを痛感させられた(元から実銃を使っていることを理解したつもりだったが)。

(生徒はただの常人ではないが一応概念的な意味で)人間が存在する作品である以上”死”は当然存在しているものであるべきだが、愛してもらうためにキャラをたくさん実装する所謂”美少女ゲーム”において「彼女らも死ぬ」ことをユーザーに全力で突き付けるその様はとても挑戦的に思え、しかしそれと同時に甘いフィクションに留まらない強烈な実在性に繋がる恐ろしい描写はかなり心を惹かれた。

聖園ミカに潜まる不安定な狂気

全編通しての実質主人公でもあった

1~4章の全てに登場し、繊細なルックスと素直な明るさから鮮烈な印象を与えたのが「聖園ミカ」だ。
序盤こそ健気で明るいある意味オーソドックスなキャラに見えるが、スパイであることを自ら明かしたタイミングから、歪んだ悪意をストレートに他者へと向ける狂気性に満ちたキャラへと変貌する。

キャラ性が変化した最初の段階ではあまりの歪さに嫌悪感を抱いてしまったのが正直なところだが、その歪みは信頼できる人物を手にかけてしまった罪悪感、他者を破滅に追い込み続けた自責の念から来るものであった。
ミカの内面が深掘りされていく終盤ではむしろ罪を重ね続けることでどこにも居場所を持てない悲哀を重く抱えた悪としての印象が強まり、一転して感情移入しやすい構造に変わった点はかなり面白かった。

目まぐるしく変わる表情

最終盤にて対立関係であったアリウスの錠前サオリと対話するシーンが特に記憶に残る。
己の罪の重さから「戻れないところまで来てしまった」と悔いるサオリと境遇が重なっていることに気付き「同じく自身にも救いなどないのだ」と打ちひしがれる瞬間などは、前述した”ヒロイックさに溢れた先生の姿”による救いの手も相まって

  • 歪んだ悪意を向ける狂気性が見える序盤

  • 悲哀に満ちてしまった悪となる終盤

  • 救いを得られぬ罪悪感に押しつぶされる最終盤

このような変遷を経て歪曲し続けたミカが改めて一介の生徒として報われたようだった。
パッと見の第一印象を掘り下げていくことでイメージが二転三転していき、更なる魅力に繋がっていくのがブルーアーカイブのキャラクターたちだと感じているが、この聖園ミカにおいては群を抜いて作りこまれた人物像であったように感じる。

善悪が反転するアリウススクワッド

相当好きな部類

エデン条約をひっくり返し、ストーリーに大きな転換点を生んだアリウススクワッド
モノクロな衣装に少しズレたキャライメージが揃ったいかにも悪役な彼女たちが状況をかき乱す第3章のクールっぷりも見どころであるが、やはり第4章で秤アツコを連れ去られて尻尾切りになったあとに事実上のヒーローサイドへと変化する構成はとても稀有だ。

彼女たちをただの悪役で終わらせずに深掘りすることで、過剰にヘイトを集めず感情移入させやすい人物像へとしっかり変化させていく点がキャラゲーとして”彼女たちを好きになるユーザー”への配慮に満ちていたのはもちろん、ユーザーの操作サイドにおける錠前サオリと聖園ミカの善悪を反転させることで互いの知りえなかった内面を描写、さらにぶつけ合うことで対話に繋げていく流れはとてもよくできていたように思う。

第4章においてトリニティやゲヘナといった膨大な数のキャラに一旦待ったをかけ、主要人物をアリウス4人+ミカ+ゲマトリアに絞り込むことで第3章までとは全く異なるストーリー展開を生み出している点も個人的にかなり刺さった。
自身が読了まで進めたのも、このアリウスの面々によるマンネリ感の打破が特に大きいと感じている。

つまるところ

終始クールだったサオリにほんのりギャグ描写が加わるラストが結構好き

総じてエデン条約編は確かに存在している死の概念、生徒たちだからこその不安定な精神描写などブルーアーカイブにおける裏面に深く切りかかるようなストーリーだった。

読了済みユーザーたちからの熱烈な布教を散々見てきて今回に至るワケだが、そのハードルの高さから入ってしまったこともあって序盤は「ちょっとダレているかもな…」という感覚があった。もちろん自身がソシャゲのストーリー視聴形態に少なからずマイナスイメージを抱いていたこともあるが。

しかしそれらの不安感を払拭してくれるほど全体の完成度が高いストーリーだったとも言えるだろう。特に第3章からの怒涛の展開はマンネリ感を感じさせないスピーディーなシーンも多く、視聴意欲はかなり継続した。

最終編に向けて進んでいける勢いがあるかはまだ分からないが、少なくとも今までより一層キャラに対する熱意は強まったと感じる。
まずはサオリのメモリアルロビーを取りに行こう。


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