おとん
お父さん、ハンターになるって
家族解散だよ
母からの連絡に頭がクラクラした
わたしの父は自分勝手な料理人で
小さい頃の記憶からずっと
あまり家に居なかった
仕事仕事と言って
わたしの入学式も卒業式も発表会も
ほとんど来たことがない
成人式の振袖姿も見てくれなかった
わたしが家で体調を崩しても
病院に連れて行ってくれることはなくて
俺は仕事があるからと
救急車を呼ぶような人だった
でも別に寂しさを感じたことはなかった気がする
愛情も感じなかったけど
父は数年おきに転職を繰り返していて
それに伴って、わたしと母も各地に連れまわされていたし(振り回されていた)
急に自分の店を開くと言い出した時は
結構驚いたのだけれど知らない間に潰していて
大借金を背負って自己破産していた
それでも父は働くことを嫌になったことも
辞めたくなったことも一度もないらしくて
常にハローワークに通ったり
知り合いに話を聞きに行ったり
新しいワクワクを探していて
どこからその意欲が湧いてくるのか
いつも謎だった
そんな父に母はいつも呆れて
その都度本当に大変そうだったが
わたしは専門学校を卒業するまで
不思議と金銭的には何不自由なく生活をさせてもらっていたので母の姿に切なくなること以外は特に何も思っていなかった
今思い返せば父と母が笑い合う姿なんて
わたしの記憶にはほとんど無いかもしれない
なんで結婚したんだろ
何も不満はなかったといっても
悲しそうな母を見ていると
父がすごく悪者に思えてきて
嫌悪感を覚えていた時期は確かにあって
家族内で、母とわたしvs父の構図が完璧に出来上がっていたと思う
でもわたしも26歳になって
父と娘というよりも対人間として接するようになり
父という人間のことをもっと知りたいと思うようになった
そんな父についこないだ
2人きりで会う機会があって
『おとんと親子みたいな時間は過ごしてこなかったけど、何不自由なくここまで育ててもらったことほんとに感謝してるよ』
と初めて伝えてみた
父は鼻で笑いながら
『家族がいるから、守るべきものがあるから働く
そんなふうに思ったことは一瞬たりとも無い
自分の人生のために自分のやりたい事で働く
結果的にお前らが金に困らず過ごせたってだけ
別に家族を大切に思っていないわけではないんだけどね』
まあ想像通りの返答
家族という重圧に耐えられなくて全部自分のためと思って生きるようにしているらしかった
いや、にしても家族蔑ろにしすぎじゃん
とは思ったんだけれどそれは言わなかった
初めて父の気持ちを聞けて
少し嬉しかったから
今度はハンターになると言い出した父だけれど
『いくつになっても好奇心を抑えられない自分に
自分も呆れるし困ってる、どうしたらいい?』
と、笑っていて
意外と自己分析出来ていて可笑しい
ハンターになるために
父は田舎へ行き一人暮らし
母は地元に残り一人暮らし
わたしにとっての実家は消滅して、家族解散
母にはいろいろ謝った方がよさそうだけど
父は何も感じていないみたいだった
ただこれからの人生にワクワクしていた
全部が父っぽい
いくつになっても常に新鮮さを求めて
興味のままに自分の身体を動かせるタフさも
周りには理解されにくいであろうその行動力も
ある意味尊敬する
面白くてわたしは好きだし
人生好きに生きて死ぬまで1秒でも長くワクワクしていてほしいと思う
大人になって
自分が自分として生きられるようになって
視点も価値観も立場も変わって
おとんの生き方わたしは好きだよって
言えるようになった
別に頻繁に会うわけじゃなかったのに
遠くに行くと思うとなんか寂しい
たまには帰ってきて
おもしろいハンター話聞かせてね
あと、わたしは多分おとんに似てるよ