自分まだまだやれます
三十路を過ぎれば、胃腸もしっかりと衰える。
ご飯は普通の量でいいし、マックのポテトはMでいいし、カルビは1枚でいい。
食は細くなったが、下っ腹はむしろ幅を利かせるようになっている。食後なんて「今、何か月ですか?」と聞かれるレベルでぽんぽこぽんである。これはまずい。
いよいよなんとかしなければと思い、夏から食生活の改善に努めてきた。
揚げ物禁止。菓子パン禁止。お菓子禁止。ジュース禁止。ただし週一のチートデー(日曜日)だけは自由に飲食できることに。
今日はそのチートデーだった。「うっひょーい! ハイカロリーを摂取してやんよ! げっへっへ!」と意気込む。が、たくさん注文して結局食べ切れずトイレでうずくまって後悔するのが目に見えている。もう無理ができない肉体となってしまったからな。
まあいい。とにかく今日は食べたいものを食べてやんよ。
今日のランチは、みんな大好きびっくりドンキー。昨日、斉藤ナミさんのポストを見て完全にびっくりドンキーの口になったのだ。
最寄りびっくりドンキーに突撃し、「何名様ですか?」と聞かれたのでトゥースの仕草で答える。案内されて席に着くと、店員さんがおすすめメニューを説明してくれた。
「ただいまガリバーメニューがおすすめとなっております」
ガリバー。そう、あのガリバーだ。ハンバーグなら400gという実にわんぱくな量が繰り出される、カロリーの暴力ともいうべき代物。以前はレギュラーメニューだったが、現在は定期的に復活する期間限定メニューとなっている。高校時代はこれだけでは足りず200g追加で注文したのを思い出した。
しかし、いくらかつての栄光を語っていても、今はもう34歳。400gはおろか200gですら完食できるか怪しいラインなのだ。そんな男にガリバーメニューを勧めるなんて、何を考えているのかねチミは。
と思ったのだが。
どこからともなく声が聞こえてきた。
「自分やれます! やらせてください!」
それはお腹を空かせた胃腸の声だった。
大丈夫かお前? 高校球児みたいなリアクションだけど。あのときのように食べ切れるのか?
「はい、大丈夫です! 自分やれます!」
己の力を過信するのは危険だ。しかし、この若い高校球児の成長の芽を摘むこともまた、監督としてあるまじき行為ではないか。
よしわかった。主将であるお前がそう決めたのならば、思いっきりぶつかってこい! 高校球児の頃を思い出せ、胃腸! 元バドミントン部だけど。
「ありがとうございます! 行ってきます!」
数分後。
でっっっか。
だが不思議と威圧感はない。なんだか本当にやれる気がしてきたぞ。
試合開始のサイレンが鳴り(鳴ってない)、対ガリバーバーグディッシュ戦の火蓋が切って落とされた。
攻略法はシンプル。ハンバーグをライスと同じ面積に保つよう食べるのである。
また、サラダは最後まで残しておく。サラダが先に全滅すると、ハンバーグを攻め落とすのが困難になるからだ。
つまり対ガリバー戦では、サラダはデザートで、ライスがサラダなのだ。
ハンバーグ、ハンバーグ、ライス。ハンバーグ、ハンバーグ、ライス。ハンバーグ、ハンバーグ、ライス。
テンポよく胃袋につめつめしていく。おっ、いいぞ。順調だぞ。
ハンバーグ、ハンバーグ、ライス。ハンバーグ、ハンバーグ、ライス。ハンバーグ、ハンバーグ、ライス。ハンバーグ、ライス、サラダ。
……あれ? 10分で食べ切ったのだが。
「監督! やりました! 自分やりました!」
おお! よくやったぞ、胃腸!
それでこそ我が校の主将だ!!!!!
帰宅後、トイレに直行した。すっごい出た。