絵本を〇〇で塗りつぶした話
ご存じ、絵本「いない いない ばあ」の一節である。
この猫(にゃあにゃ)をはじめとした、動物たちのなんともいえない表情がたまらないのだろう。いつの時代も赤子にバカウケのこの絵本は、今やだれもが通る道だ。
33歳児の僕が見ても、この一節だけでなんか面白い。明朝体で大きく「ばあ」と書いてあるだけで、なぜこんなに面白いのだろう。楽しみ方は、乳幼児のそれとは180度異なるが。
僕も幼い頃に読んだことがあるらしいが、内容は覚えていない。
内容は覚えていないのだが、この絵本には切っても切れない因縁があるのだ。
これからお伝えする話は実話である。
ただし、僕がまだ物心つく前の時代なので、この話はすべて母からの伝聞であることを予めご承知おきいただきたい。
家には母のほかに、兄・姉・僕の3人。
いつものように母が家事をしていると、子どもたちがなにやら騒々しい。
「おかあさーん!たいへーん!」
兄か姉かが大声で母を呼ぶ。どうしたかと母が駆けつけると、そこには「いない いない ばあ」と末っ子がいた。
だが、様子がおかしい。絵本はめちゃくちゃに塗りつぶされ、見るも無残な姿に。末っ子の両手も、なんか茶色くてベットベトになっている。そして心なしか、いや確実に、辺りには悪臭が漂っていた。
母は一瞬にしてすべてを悟った。
こいつ、絵本にウ〇コ塗ってる!!!!!
名作絵本は無惨にも茶色く塗りつぶされ、表紙のくまちゃんはどこまでが自分の元々の色かわからなくなっている。
にゃあにゃに至っては、「いない いない………」から「ばあ」するタイミングを完全に失ってしまった。下手に出てこようものなら、もれなくウ〇コまみれだ。
絵本ウ〇コ塗りつぶし事件の犯人は、自分の臀部から塗料(ウ〇コ)を取り出し、意気揚々と「いない いない ばあ」という名のキャンバスに塗りたくっていた。芸術は自由であるべきなのだろうが、発想が異次元すぎやしないか。
そしてこの男、あろうことかキャッキャキャッキャと笑っている。なにが面白いのだろうか。アーティストというより、もはやサイコパスだ。
末っ子は現行犯逮捕され、清拭され、こっぴどく叱られたのは言うまでもない。
そして被害者である絵本は、母によって泣く泣く処分された。絵本も母も可哀想すぎる。
我が家の3きょうだいは、幼少期のトンデモエピソードをそれぞれ持っている。
兄は両手に1つずつ包丁を持ち、その刃同士をカチャカチャとぶつけて遊んでいたそうだ。こちらもサイコパスみがすごい。母は青ざめながらも、冷静な対応で無事凶器を回収したようだ。名ネゴシエーター・母。
姉は工作用のハサミで、自分の前髪をバッサリ切ってしまった。まぁ、この程度ならかわいいものだろう。
だが、末っ子、すなわち僕だけベクトルが違う。上の二人は刃物系だったのに、なぜ僕だけウ〇コなのか。包丁、ハサミと来てウ〇コ。ケガの心配こそなかったかもしれないが、なんか嫌だわ。
この一件のせいで、書店などで「いない いない ばあ」を見かけるとウ〇コを連想してしまう。
一切記憶にない出来事だが、万が一にも童心社の方にお会いした際は渾身の土下座を披露する所存である。