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おばあちゃんになりたい


「ここ最近ずっとおばあちゃんになりたい」



この気の抜けた一言が、
わたしを本の世界に引き戻してくれました


「まだ若いんだから元気に働かなくっちゃ」
「これからはあなたに合った働き方を」
「命を燃やし続けよう」

世にはびこるこんなエールに疲弊していました



本は教養を与えてくれるもの
本はストーリーに感動させられるもの
本は長い文章を読むもの
本は集中力が必要なもの
本は読むのに時間がかかるもの
本は気力があるときに読むもの…

小学校のときは図書室に通い、
本ばかり読んでいたけれど、
いつしか離れてしまっていました

そんなとき何気なく手に取ったエッセイは
「本は気持ちに寄り添ってくれるもの」
という意味をくれました


死にたいわけではないけど、
一生懸命生きていたくもない
早く戦線離脱して、
おばあちゃん然として穏やかに過ごしたい
「おばあちゃんになりたい」
はわたしのもやもやを晴らしてくれる、
ぴったりの言葉でした


昼食を食べ終えると、ページをめくります
仕事に余裕のある日は 12:57 まで、
少しずつ読み進めます


「630円」
文庫本の裏に、
貼りっぱなしの値段シールを見つけました
コンビニで買った昼食と同じ値段でした
午後の消費カロリーを補うためだけの食べたくもない食事と、同じ値段でした


ちゃんとお弁当作らなきゃな…と反省しつつ、
ほんの1食代で、昼休み何日分もの楽しみをくれる本のありがたみに気付かされました


小学生の頃の自分は、
どんな言葉で本の世界と繋がっていたのだろう
スポ根は1度も読んだ記憶がありません


引用:長濱ねる『たゆたう』
(角川文庫・令和5年9月1日発行)

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