怪奇数奇譚(其の漆)ー夜にやってくる友だちー
僕がお布団に入ると、友だちがやってくる。
「ねえねえ、もう寝るの?一緒に遊ぼうよ」
僕の友だちは、いつもそう話しかけてくる。
「イヤだよ。もう寝る時間なんだから」
僕はお布団を掴み顔まで覆い隠した。友だちはとてもしつこく遊びに誘ってくることを知っていたから。
「何して遊ぶ?ゲームする?トランプでもいいよ。それとも…夜だから静かに遊べる かくれんぼにしようか?」
僕は首を横に振って壁際を向いて目をつむった。友だちは何やらガサゴソと、僕のおもちゃ箱を漁っている様だ。
なんとも迷惑な友だちだろう。
僕はため息をついて天井を見上げた。この友だちは急に現れるものだから、真っ暗な部屋のまま眠るのは苦手だ。
教科書や漫画が無造作に置いてある机には、真っ暗な部屋を唯一灯す小さなデスクライトの明かりが付いている。半分だけ開いているカーテンの窓の外には、隣の家の屋根の上に、ぼんやりと月が浮かんでいた。
友だちは薄暗い部屋の隅で何かを見て、ブツブツと独り言を言っている。
何故かいつも寝る頃にいつもやってくる。一昨日も来た。その3日前も、先週は2日続けて現れた。
僕が友だちの後ろ姿をぼんやりと眺めていると、友だちはくるりと振り返り、手に持っているおもちゃを見せて言った。
「あ!これはどう?合体するロボット!この武器かっこいいよね〜」
そう言って友だちは、カチャカチャと武器を組み立て、ロボットに持たせたりして遊んでいた。僕は何も言わずにその光景を見ていた。
いつも、僕の部屋でひとしきり遊んで、気が済んだらいつの間にか友だちは消える。
だから僕は、友だちを部屋から追い出そうとかは考えていなかった。僕の部屋はおもちゃが多かったから、きっと気に入ったのだと思う。
ふわふわと眠たくなる感覚に抗うことなく、僕は目を閉じた。
友だちは楽しそうに一人で遊んでいる。
聞こえてくるおもちゃの擦れる音や男の子の呟く声が、だんだんと遠くなっていく気がした。
「まぁ!またこんな夜中に遊びに来たの?」
僕はお母さんの声にハッとし、目を覚ました。いつの間にか寝ていた様だ。
「いくらお家がお隣だからって、お母さんやお父さんが心配するでしょ!」
さっきお隣のお母さんが訪ねて来たらしい。僕のお母さんは少し怒り気味に僕の友だちを叱った。
友だちはバレてしまったという様に、舌を出して僕の方を振り向いた。そして、おもちゃを床に置いてそそくさと帰っていった。
物の怪か妖怪か何かの話だと思いましたか?
ただの隣に住んでいる僕の友だちの話ですよ。
あれで勉強ができるんです。
ああ、ミステリー。
…さあ、寝よう。
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