真夏のお散歩コーデ 理論編

1. はじめに

 真夏のお散歩コーデを検討するにあたって調べたことをまとめました。私が服を選ぶ際に注目した点とその理由について解説します。
 真夏のお散歩コーデに求められる機能性は以下の二項目です。

  • 吸水速乾性が高く肌に密着する肌着

  • 薄手で風を通しやすく日光を遮る上着

 何故これらの機能が求められるかについては、私の書いた記事「真夏のお散歩 熱中症対策編」の3章、4章である「適切な服装に着替える」をご覧ください。

 まず第一の機能を満たす肌着として、ぼくは「吸水速乾性を謳う化学繊維の肌着のうち、一度に出る汗を十分に吸水できるだけの厚さのもの、ただしその中でできるだけ薄いもの」が良いという結論になりました。なんだか当たり前の結論ですね。
 第二章では、この当たり前の結論を出すに至った理由を説明します。正直、結論が当たり前すぎる割に長くあまり有益ではありませんが、ご了承ください。
 次に第二の機能を満たす上着として、ぼくは「白で薄く空隙の多い生地を使った、ゆったりサイズの長袖長ズボン」が良いという結論になりました。第三章ではこの結論を出すに至った理由を説明します。
 なお、本文書は素人のぼくが調べて理解したつもりの内容に沿って説明してあります。そのため、間違いが含まれているかもしれません。間違いがありましたらコメントいただけると幸いです。

2. 各論1 肌着

2.1 肌着に要求される機能とその理由

 身体の熱を逃がし心地よく散歩するためには、汗をすばやく蒸発させることで身体を冷却しつつ肌のべたつきを抑える必要があります。つまり、どれだけ汗をかいても無効発汗がなくなることが理想的です。無効発汗は汗の無駄遣いになるとともに、肌着がびちゃびちゃして肌離れが悪くとても不快です。
 これを達成する肌着には、1) 一度にかく量の汗をすばやく十分に吸収する、2) 吸収した汗を十分はやく乾燥する、という二つの機能が必要です。 
 まず、肌着には汗を十分吸収できる容量が必要です。汗は一定のペースで出続けることもあれば、一気に出ることもあるからです。例えば、運動をやめて休憩している時に急に汗が吹き出ることがあります。無効発汗を減らすには、まず全ての汗を肌着に吸収できる必要があります。
 次に、肌着には吸収した汗を十分はやく乾燥する機能が必要です。汗は継続的に出続ける一方、肌着の吸水能力は有限で、その能力を超えると無効発汗になってしまうからです。無効発汗を減らすには、肌着に吸わせた汗をできるだけはやく乾燥させることが必要です。
 ぼくはこの二つの機能を持つ肌着として、吸水速乾性を謳った化学繊維(特別なポリエステルなど)からなる肌着を選びました。なんか、期待を持たせたわりには当然の結論ですいません……以降、ぼくがどうしてこれを選んだかを説明します。 

2.2 肌着の吸水性の有無

 肌着の吸水性はその糸の性質によって決まります。水は糸の中に吸収され、糸を伝わって広がってゆくからです。
 糸は数十本の繊維を束ねることで構成されます。詳しい糸の構造は下記サイトをご参照ください。

 吸水性の観点から見た場合、糸には水を吸収する能力にとんだ親水性の糸と、ほとんど水を吸収しない疎水性の糸があります。今回は汗を吸水速乾するのが目的のため、親水性の糸からなる生地を選ぶ必要があります。
 結論から言いますと、天然繊維からなる糸(綿糸や絹糸)は親水性を示します。化学繊維からなる糸(ポリエステル糸など)は通常は疎水性ですが、特別に加工を加えた化学繊維からなる糸の中には親水性を示すものがあります。そのため、吸水性の高い肌着には、天然繊維を使ったもの、もしくは、吸水速乾性を謳った化学繊維のものが存在します。ただの化学繊維だけの肌着には吸水性はありません。
 以下、糸が吸水性を持つというのはどういうことかを説明します。
 糸の中で水を吸収する場所は二箇所あります。糸を構成する繊維の中と、繊維の間の空隙です。
 一つ目の、繊維の中の吸水性は、大雑把に天然繊維か化学繊維かにより変わります。天然繊維は概ね吸水性が高く、化学繊維は吸水性が低くなっています。
 天然繊維である綿糸や絹糸は、それを構成する繊維の中に水を吸収します。綿の主成分であるセルロースには、分子鎖の繰り返しの一単位あたり、水素結合が可能な-OH基が3個あります。この極性基が水分子を引き付け、繊維の中に水を吸収させます。
 一方、化学繊維のひとつであるポリエステル糸は、それを構成するポリエステルの中に水をほとんど吸収しません。ここで言うポリエステルとは、テレフタル酸と2価アルコールとのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子からなる繊維です。ポリエステルには、極性基として-COO-(エステル)があります。この極性基は-OHに比べ極性が小さいため????(よくわからん)、セルロースに比べ水を引き付けず、吸水するに至りません。
 二つ目の、繊維の間の空隙の吸水性は、繊維の断面の形状によって決まります。
 綿の繊維の断面には中空構造が存在します。ここに毛細管現象の原理に基づき水が吸収されていきます。
 化学繊維の場合はどうでしょうか。化学繊維は口金に開けられた丸い穴から素材を押し出すことにより作られます。通常は均一な円形断面の繊維となります。口金の形状や製法を工夫することで、化学繊維はさまざまな断面の形を持つことができます。この断面を異形断面と呼びます。
 繊維の表面を複雑にしたり、繊維の中に中空の孔をあけたりすることにより繊維間や繊維中に細長い毛細管を構成することができます。繊維に触れた水は水素結合ではなく毛細管現象により繊維中や繊維間に吸収拡散されます。
 通常のポリエステル繊維は円形のため、ポリエステル糸はほとんど空隙を持たず吸水性はありません。一方、異形断面のポリエステル繊維を使った糸には空隙があり吸水性を示す糸も存在します。ポリエステルが主成分の生地でも吸水性を示すことがあるのはこのような理由からです。
 天然繊維や化学繊維、その異形断面に関しては以下のサイトをご参照ください。

2.3 肌着の吸水量

 次に、肌着の吸水量について説明します。
 前節より、天然繊維からなる肌着や、吸水速乾性を謳った化学繊維からなる肌着は吸水性を示すことがわかりました。では、肌着は一度にどのくらいの量の水を吸えるのでしょうか?
 まぁ、薄々というか当然というか実体験や感覚でだいたいおわかりとは思いますが、厚い肌着であればあるほど吸水量は多くなります。厚い肌着の方が、単位面積あたりの水を貯めることのできる糸の体積が大きいからです。
 肌着はたいてい編み物で構成されていると思います(todo:本当に?)。一部機能性の肌着は織物で構成される場合があります。織物はたて糸とよこ糸で構成されています。織物素材が、構成する糸によって占められている面積の割合をカバーファクターと呼び、被覆度とも呼ばれています。カバーファクターは、単位面積あたり何本のたて糸とよこ糸があるか(織物密度)と、糸の太さ(糸繊度) の積で決まります。
 同じ繊維の糸を使った場合、カバーファクターの大きさがそのまま吸水量に比例します(todo:本当に?)。カバーファクターが大きいと、より緻密で、透けにくく、通気性が低く、吸水量が多い生地となります。
 たぶんカバーファクターのような指標が編み物にもある、のだとは思いますが、見つけられませんでした。未熟ですまない……
 以上、肌着は厚い方が有利に見えますが、実はトレードオフが存在します。まぁこれも薄々おわかりとは思いますが、厚い肌着は普通に暑く、真夏に着るには不快です。
 放熱の観点からみると、肌着は可能な限り薄い必要があります。厚い肌着は熱抵抗が高く、身体の熱を放熱させるには不利になるからです。厚い肌着を着ると自分の発熱が十分に放熱できず、深部体温が高くなり危険かつ不快、ということです。
 肌着の薄さと吸水量は相反するパラメーターです。肌着を薄くすると吸水容量は減ります。逆もまた然りです。同時に両方を満たすことは困難です。
 そのため、自分がどの部位にどれだけ汗をかくかを把握する必要があります。必要な箇所に必要最小限の肌着を身に纏うことで、放熱性と不快感のバランスをとることができます。

2.4 肌着の吸水速度

 速さは、まぁどんな生地でも十分速いでしょう(未検討)。汗が出る速度よりははやく吸水される、と思います。たぶん。きっと。
 webのどこかに汗の出る速度の限界が書いてあった気がします。あと、吸水性能を測る試験が存在していた気がします。その辺の兼ね合いで判断出来ると思います。たぶん。きっと。
 気が向いたら調べます。

2.5 肌着の速乾性

 継続的に出る汗を有限である肌着に吸水させるには、肌着に吸収した水を蒸発させる必要があります。また、単純にびちゃびちゃになった肌着は不快なため、汗はさっさと乾かしたいでしょう。
 吸収した水を蒸発させる能力は、疎水性の繊維の方が親水性の繊維より高くなっています。水素結合により繊維に結合された水分子はなかなか蒸発しにくいからです(本当に?出典がどこだか見当たらない、嘘かも)。毛細管現象で吸収された水分子はそのまま蒸発するため、元来疎水性の化学繊維の方が乾燥しやすい繊維となります。
 そのため、肌着の選択肢としては、吸水速乾性を謳う化学繊維の肌着が候補になります。綿や絹などの天然繊維は吸水はできても速乾はしにくく、吸水速乾性が高い肌着という要求に応えることができません。
 さらに細かいことを言うと、毛細管現象の利用により水をすばやく拡散させたほうがより蒸発しやすくなります。同じ水分量なら広く薄く水を拡散させることで速く乾く、という原理です。これは異形断面の構成に依存するはずです(たぶん、未確認)。そのため、優劣は吸水速乾性試験で比較するしかなく、ユーザーの我々では比較は困難でしょう。なので、吸水速乾性を謳っている化学繊維を信用するしかありません。
 ちなみに、肌着に吸収した汗はできるだけはやく乾燥させたいのですが、汗の乾燥にはそこそこの時間がかかります。例えば、常温無風の状態で0.3mlの水の蒸発に数十分程度かかります。もちろん、肌着の面積は広くもっと水を含ませても同時並行的に同じ程度の時間で乾燥することができますが、だいたい乾燥時間のオーダーとしては数十分くらいを目安とできるでしょう。

2.6 肌着の選び方

 以上を踏まえると、肌着は「吸水速乾性を謳う化学繊維の肌着のうち、一度に出る汗を十分に吸水できるだけの厚さのもの、ただしその中でできるだけ薄いもの」が良いでしょう。
 まず、普通に散歩したあとで、自分のどの部位がどれくらい汗をかくかを確認します。手をあてて汗がにじみ出る程度か、拭えて滴る程度かを確認します。
 にじみ出る程度の部位ならば、極端に薄い肌着でかまいません。ただ、にじみ出る程度でも肌離れを良くするために、ごく薄い肌着を着ることをおすすめします。
 汗が滴ったり拭える場合は、それが無効発汗であるシグナルです。そういう箇所には少し厚めの肌着を着てください。近年は様々な機能性肌着やコンプレッションウェアなどが存在し、吸水速乾を促してくれます。そのようなものを選ぶと良いでしょう。
 具体的な選択例は、今後書く予定の「真夏のお散歩コーデ 実践編」で少し説明する予定です。

3. 各論2 上着

 上着はあまり検討できる資料がありませんでした。そのため、独自研究(というか、いろいろと着てみた感想)がほとんどになっています。伝熱工学を使えばもう少し詳細に検討できそうなのですが、まだ未着手な上に前例があまり見当たりません。
 さて、身体の熱を逃がし心地よく散歩するためには、身体の熱で温まり、汗の蒸発で湿った空気を外気に放出する必要があります。また、直射日光による身体の加熱を防ぐためには、皮膚にあたる直射日光を上着や帽子、日傘などで遮る必要があります。 
 以下、独自研究が多く信頼度は低いと思ってください。
 温まり湿った空気を外気に放出するためには、上着は通気性の良いものを選ぶ必要があります。通気性の良い上着とは、前述したカバーファクターが小さい生地を使った上着のことです。
 通気性にあまり繊維の種類は関係ない気がしています。単純にすけすけなら風が通りやすい、という理屈です。
 おそらく薄手でメッシュ状になっている生地が良いでしょう。今風に言うとシアーな、昔風に言うとシースルーな生地が通気性が良いように感じます。
 リネンも通気性が良いとは言われますが、その理由は単にカバーファクターが小さい場合が多い、という理屈によっている気がします。リネンにコットンをブレンドしたズボンでも、カバーファクターが高そうな生地では通気性がイマイチに感じました。
 また、上着のサイズ感は少し大きめが良いでしょう。肌着と上着の間には空気が流れる空間が必要だからです。肌着と上着の間に空間があれば、風などによる強制的な対流によりその空間の温度と湿度が下がります。温度と湿度が下がると単純に心地よい上に、肌着の乾燥が促されます。
 一方で、直射日光を遮るために上着は長袖長ズボンが良いでしょう。シアーな生地ならば太陽光を通すのでは?と思われるかもしれませんが、なにもないよりはかなりマシです。レースのカーテンでも太陽光がかなり遮られるのと同じ原理です。
 上着の色は白を基調とするのが良いでしょう。出典が行方不明ですが、黒は白の2.5倍熱を吸収しやすいそうです。
 薄手の生地には他にも、貯まる熱量がすくなく、風によりすぐに冷えることができる、という利点もあると思っています。思っているだけです。
 以上が上着を選ぶ基準となります。曖昧で申し訳ない。

4. さいごに

 まとめてみると、あまり論理的でない箇所がかなり多いですね……特に上着。ぼくもどうしていいのかまだ手探り状態です。現状でもそこそこ満足はしていますが、まだやれることも多少ありそうなのでもう少し検討してみます。また、最終的にコーデが決まったら、「真夏のお散歩コーデ 実践編」を書く予定です。もう少しお待ちください。たぶん夏が終わったあとになります。来年に期待だ!

5. 資料1 素材

6. 資料2 生地

生地の検討

からみ織り

参考文献

  • 生活のなかの熱物性

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtp1987/8/1/8_1_31/_pdf

  • 繊維集合体の物性

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber1944/50/6/50_6_P225/_pdf

  • 親水性繊維と疎水性繊維

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/37/2/37_KJ00003507909/_pdf/-char/ja

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