モーニング娘。のライブを観て、生きようと思った
2000年代、私はモーヲタだった。
モーヲタとは、モーニング娘。を熱心に応援しているファンの総称だ。私は娘。たちのライブを観て、「生きていこう」と救われた。
その頃、上司からのセクハラが原因で適応障害になり退職に追い込まれていた。会社の窓から見える青空を見ると涙が出てきたり、食事中も何を食べても味がしない。希望職に就職できたのに、そのような状況になった自分自身を受け入れたくなかった。
上司にタクシーで連れ去られ、適応障害に
時は2001年。私はチケット事業を扱っている企業のウェブ制作部に勤務していた。念願のエンタメ事業に関わる業務ができると胸を躍らせていた。
直属の上司は、距離がバグっていた。
休日に何をしているのか聞かれ、私が自炊をしていないことを非難し、ほかの従業員が座席で飲食をしても怒らなかったのに、私には「座席で食べるな」と𠮟責し首をしめた。人を呼ぶ時にもやたらと肩を触るので、座席が並んだ状態がつらかった。
だんだん会社に行こうとすると起きられず、まっすぐ歩くことができなくなった。しかし、転職で叶った念願の職場を、簡単に辞めるわけにはいかなかった。
ある時、上司は「今晩、飲みに行かないか」と誘ってきた。体調もすぐれず、断ったのだが、「こんな機会はもうない」と言われ、就業時間が近づくと会社のビルの下に呼んでいたタクシーに乗せられた。
職場から数十分ほど離れた場所にあった一軒家風のワインバーに連れていかれた。外苑前からも、表参道からも徒歩で15分以上かかるような店だった。
店に着くと「予約してある〇〇です」と上司は名乗った。”あれ? 急な飲み会ではなかったのか”と私の頭の中には疑問符が浮かんだ。
店内では、上司と並んで飲むことになった。距離の近さに、めまいを起こしていた。上司はずっと私の書いた文章を褒めてくれた。「あともう一杯だけ」となかなか会が終わらず、気づけば終電ぎりぎりだった。
速足で地下鉄の駅まで向かうと、上司は名残惜しそうに私の頭を撫でた。「もう終電がないんじゃないの」と言った時の上司のニヤっとした表情は忘れられない。その時に着ていたバーバリーのコートは、4万ほどしたけれど着ると上司の顔が浮かぶようになり処分した。
私は適応障害と診断され、会社を退社した。
一枚のハガキから、娘コンデビュー
自社で発売していた雑誌に、モーニング娘。のコンサートチケットが先行予約ができるハガキが付いていた。ずっと気になっていたが、在宅応援だった。物の試しに、ハガキを出すとチケットが購入できる権利に当選した。
初めてのモーニング娘。のコンサートで、『I WISH』を聴いて気づいたら涙が止まらなかった。
「人生ってすばらしい そう誰かと出会ったり 恋をしてみたり」
体中から生命力を発揮し、歌い踊る娘。たちの姿に夢中になった。人生って素晴らしい。だから生きてて良いのだ。私は娘。たちに肯定された気持ちになった。
私のハロヲタはこの日からスタートした。
私の瞳に映った、一番美しい人
私はチケットを取るために、すぐにハロー!プロジェクトのファンクラブに加入した。そして2003年『ミュージックステーション』の観覧に参加できることになった。ミュージックステーションの観覧は、出演者たちが座っている席の後方に、それぞれのファンクラブから選ばれた女性客が座ることができた。
最初の出演者紹介で、花道を歩いてくる娘。たちの姿に私は卒倒した。素肌の美しさがわかるくらいの近距離だったのだ。しかも、CM中はそれぞれのアーティストの名前を呼ぶことで、神レスを貰うこともできた。
ファンからの声援をスルーするアーティストもいる中、娘。たちは会場にいる数少ない女ヲタたちに女神のような振る舞いを見せた。なかには、観覧に参加しすぎて名前を覚えてもらっているヲタもいた。
忘れもしない。私は大好きだった飯田圭織さんの名前を何度も連呼した。「かおりん! かおりん!」
そうすると、すっと姿勢よく座っていた飯田さんはくるりとこちら側に顔を向けて私の方を見てくれた。
「応援しています! 頑張って!」
と感極まって叫んだ私に、飯田さんはすべての人たちが天赦されるような菩薩の微笑みを浮かべながら
「ありがとう」
と声にした。
私の瞳に映った、一番美しい人は飯田さんだ。
それから17年後、幸運にも飯田さんにインタビューができる機会に恵まれた。
恐れ多くも、飯田さんに昔、『ミュージックステーション』で飯田さんの名前を呼んで、レスを頂いたことを伝えた。
そうすると飯田さんは一言、
「私たち、出会っていたのですね」
とまた微笑んでくれた。
人生ってすばらしい。いつだって推しは生きる力だ。
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